デビュー作を収録した少女小説
初期に執筆していた少女小説についても紹介したいと思います。山本文緒の一般小説のイメージを持って読むと驚かれるかもしれません。本当に明るく真っ直ぐな恋愛が描かれています。
登場するのは高校球児とその幼馴染の成績優秀な女の子です。周囲からは公認のカップルのように扱われるけれど、付き合っているわけではない二人の関係。そこにライバルの女の子が現れて……。
- 著者
- 山本 文緒
- 出版日
少女漫画の王道のような、誰もが楽しめるキャラクターと展開。タイトル通りの心温まる青春恋愛ストーリーです。
また、1999年に出版された集英社文庫版では、デビュー作『プレミアム・プールの日々』も収録されています。プールの監視員のアルバイトをする高校生の男の子が新人として入ってきた女の子に思いを寄せていくストーリーは、日差しを受けるプールの水面のようにキラキラと輝いています。
人間の闇を映し出すような作品には疲れたな……という大人にぴったり。テイストの違った山本文緒作品をお探しの方におすすめします。
直木賞を受賞した短編小説集
表題作の「プラナリア」は、乳がんを経験し、それを自身のアイデンティティとして生きている女性が主人公。年下の男の子と付き合いながら、働くことなく実家でふらふらと生活しています。
っきりとはしない、後を引くような読後感があり、どこかにいるかもしれない登場人物たちのその後が気になります。
- 著者
- 山本 文緒
- 出版日
- 2005-09-02
最後の作品だけは主人公が男性です。バツイチで居酒屋を営みつつ、客の一人である女を家に住まわせているのですが、彼女はまともに働こうとしません。そんな態度に嫌気がさす一方で、自由奔放な姿に惹かれてしまい……。
なんとなくけだるくぼんやりとした空気が全編を通じて漂う中、最後には光明が見えるような作品です。直木賞の選評においても多くの選考委員の好評を得ています。五編は全て「働くこと」がテーマになっており、何のために働くのか、なぜ働かなければならないのか、といった問いが自然と頭に浮かんできます。
山本文緒の作品をお得に読む
新しい山本文緒ワールド
最後に紹介するのは、一時期筆を置いていた山本文緒の復帰小説。2008年の比較的新しい作品です。表題作「アカペラ」、そして「ソリチュード」「ネロリ」の三作が収録されており、長さとしては中編になるでしょうか。長編や短編集の多い山本文緒の著作としては珍しい形態です。
- 著者
- 山本 文緒
- 出版日
- 2011-07-28
不倫中の両親を置いて祖父と逃避行する女子中学生、久しぶりに故郷に戻ってくるふらふらしていた男性、病弱な弟を養っている秘書の女性……たった三作の中で幅広いキャラクターが登場します。「普通」とは少し違う、けれど現実にあり得そうな人物や家庭。どれも読後、じわじわと感じる切なさに、油断をすると涙が出てきそうになります。
『恋愛中毒』や『群青の夜の羽毛布』などは、いい意味で読むのに体力がいる作品ですが、こちらはもっと落ち着いた気持ちで読み通すことができそうな、新しい山本文緒ワールドです。人の温かさに触れたい時、さらさらと読める作品をお探しの際におすすめします。キャラクターに感情移入をするのに短すぎず、一気に読むのに長すぎない。そんな長さも魅力です。