初級編:短槍使いバルサ、命を懸けて皇子を守れ!
「守り人」シリーズのメインキャラクターは短槍使いのバルサ。彼女は各所を旅する用心棒です。旅の途中バルサは青弓川で、流されていた新ヨゴ国第二皇子のチャグムを助けます。お礼に招かれた宮で、彼女はチャグムの母である二ノ妃にチャグムを連れて守ることを依頼されました。
チャグムには、この世(サグ)と重なって存在する異世界(ナユグ)の水の精霊ニュンガ・ロ・イム「水の守り手」の卵が宿っていたのです。新ヨゴ皇国には建国伝説があり、それによると、初代皇帝のトルガルは水妖を退治したことで皇国を築き上げたとされていました。そして、現帝であるチャグムの父帝が皇国の威信を守るために、チャグムを暗殺しようとしていることが、依頼の理由だったのです。
しかし、敵は父帝からの刺客だけではなく、ニュンガ・ロ・イムの卵を食らうナユグの怪物、ラルンガも彼を狙っていました。
チャグムを連れて宮から脱出したバルサは、まず呪術師のタンダとその師匠のトロガイを頼ります。そこで分かったのは、卵か孵るのは夏至であり、孵化とともにチャグムの体から離れるということでした。その時が来るまで、バルサたち4人は共に暮らすことになります。
- 著者
- 上橋 菜穂子
- 出版日
- 2007-03-28
バルサにもかつて命を狙われた経験があり、父の親友で短槍の達人ジグロに助けられた過去がありました。バルサは日々をチャグムと過ごしていくにつれて、チャグムに自分を重ねるようになり、徐々に彼が何にも代えがたい大事な存在となっていきます。
そのころ、帝に仕える星読博士のシュガは建国時からの記録を調べ上げていました。チャグムに宿った水妖は建国伝説のものと同じなのではないかと疑ったからです。しかし、そこで知った事実とは、トルガルの伝説は歪曲されてしまったものであるということと、ニュンガ・ロ・イムは実は怪物ではなく、雨を降らせて作物を助けてくれる存在だったということでした。
刺客や、ラルンガから逃げつつ、チャグムに生き抜く術を学ばせるバルサ。来る夏至までチャグムを守り通し、無事ニュンガ・ロ・イムを孵らせることができるのでしょうか。
卵を宿していることから、ナユグ側へ知らず知らずのうちにひかれてしまうチャグムは危なっかしく、読んでいるこちらまでが、何とかしてあげたくなるような気持になります。そんな彼のために立ち回るバルサの戦闘シーンはリアルさを帯びており、目の前にそのまま映像として流れそうなほど圧巻の描写力を感じます。
最初は、箱入りの皇子らしく何も世の中を知らないチャグムですが、徐々にバルサによって野営の方法や、簡単な狩りの方法を学んでいきます。そして皇子という立場だからこそ知らなければならない、国の下々の人々の様子も。この物語の中でみるみる成長していくチャグムの逞しい様子も注目してください。
初級編:あなたの隣にも、ひっそりと暮らしているかも……
「常野物語」シリーズは2017年2月現在、『光の帝国』、『蒲公英草紙』、『エンド・ゲーム』の3作品が刊行されています。不思議な力を持った「常野」と呼ばれる一族を、時代を超えて描くファンタジーシリーズですが、それぞれが独立した作品です。
常野一族について大枠を知りたい方は、『光の帝国』を、優しさと感動にあふれた暖かなストーリーを楽しみたい方は、『蒲公英草紙』を、そして、スリリングで圧倒的な世界観を楽しみたい方は『エンド・ゲーム』を手に取ってみてください。それぞれが独立しているものの、登場人物は少しずつリンクしているので、読み進んでいくうちに、様々な時代に生きた常野の人々の姿を楽しむことができますよ。
欲望や、栄光にとらわれず、現実世界にひっそりと私たちの中に溶け込んでいる彼らの生き様を、まるですぐ隣にいるかのように楽しめるシリーズです。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
常野一族の持ち不思議な能力のひとつ「しまう」というものは、膨大な情報を丸ごと記憶することができます。それも、書物や談話といった言葉だけではなく、人間の感情や心の在りようも記憶することができるのです。
『光の帝国』の「大きな引き出し」に出てくる主人公は、「しまう」能力を持っているものの、これが何の役に立つのかと疑問に思っていました。そんなある日、毎朝挨拶をする老人が心臓発作で目の前で倒れてしまいます。駆け寄った主人公が老人に触れたその瞬間、彼の頭に老人の記憶が「響いて」きました。
「響く」というのが、「しまった」情報が頭の中で文字通り響く能力で、これができて初めて一人前とされます。老人の記憶が「響いて」きた主人公は、懐疑的だったこの力とどう向き合っていくのでしょうか。
このように不思議な能力を持った常野一族が、何を思い、何のために、どこへ向かい、どこへと帰るのかという生き方を、不思議な暖かさと、淡い哀しみで彩った作品です。連作短編集となっているので、気軽に空いた時間などで楽しんでみてください。
初級編:ティーンから大人まで楽しめる恋愛ファンタジー小説
『空色勾玉』は神と人間が共存する世界を舞台にしたファンタジー作品です。
舞台は日本古代。闇の大御神を敬う闇の一族と、輝の大御神を敬う輝の一族は対立し争いが絶えませんでした。
輝の一族の領地で育った挟也(さや)は、輝の大御神の第二子月代王(つきしろのおおきみ)に憧れを抱いていました。そんな挟也はあるとき、闇の一族と出会います。闇の一族は、挟也は“水の乙女”の生まれ変わりだといい、挟也が産まれたときに持っていたという勾玉を託します。そんな出来事があったあと、ひょんなことから月代王に見初められた挟也は、采女として月代王に仕えることになりました。
輝の宮で挟也は稚羽矢(ちはや)と出会います。とある理由で稚羽矢は幽閉されていましたが、挟也との出会いをきっかけに脱出することを決意。ここから、闇の一族と、輝の一族、そして挟也と稚羽矢の運命が絡まり合う戦いが始まります。
- 著者
- 荻原 規子
- 出版日
- 2010-06-04
あらすじだけみると漢字や登場人物が多くとっつきにくい印象があるかもしれませんが、いざ読み始めると一気に引き込まれることは間違いありません。
まず登場人物たちが魅力的です。主役の挟也と稚羽矢は、最初は弱い存在ですが、物語が進むにつれ確実に成長していきます。“水の乙女”だといわれた挟也は自分が何者なのかを求め、稚羽矢は幽閉されていたため世間を知らずとても純粋でもろい存在。そんな挟也たちを見守る周りの人間たちのあたたかさにほっとしたり、敵対する人物にハラハラしたり知らない間に感情移入してしまいます。
また月代王は輝の大御神の御子、つまり神様です。月代王の他にも神様が登場しますが、神様が人間の地で共存しているという設定も面白いです。神様ながらに、嫉妬など人間らしい感情を持っていたり、不死の存在であるがゆえ人間とわかり合えなかったり。挟也たちと敵対しながらも完全に悪者というわけではないので、こちらも見逃せないキャラクターです。
そんな神様たちと繰り広げる物語はとても壮大で優しさにあふれています。西洋のファンタジーとはちがった素朴さや、日本の風景の美しさなどが描かれていてまさに日本のファンタジーといえるのではないでしょうか。ファンタジーでありながら、恋愛要素も少し含まれていて大人も十分に楽しめる作品です。是非ご一読ください。