傑作と呼ばれる探偵小説の必須要素は、物語の筋やトリックの巧妙さだけではありません。頭脳明晰な名探偵の華麗なる解決があってこそ傑作と呼ばれます。しかし、名探偵にも様々なタイプがいます。

銀行員の依頼を受けた本間でしたが、休職中のため、警察手帳を使えません。仕方なく、婚約者の親戚や雑誌記者を装って、捜査を開始します。勤め先、自己破産手続きに関わった弁護士に婚約者の素行を聞きますと、それぞれ全く別人のような印象を受けた本間は、誰かが婚約者に成りすましたのではと疑いを強めます。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 1998-01-30
「私」は何気なく向かいの古本屋を眺めていましたが、古本屋の奥の障子はずっと閉められたまま。客が来ても閉められたままだったので、不審に思い、明智を連れ立って古本屋の中に入ります。障子を開けると、そこには古本屋の妻が首を絞められて殺されている無残な姿があったのでした。警察によると、殺されてから一時間も経っていないとのこと。その一時間の間、「私」は古本屋に侵入した者など見ていません。一体誰が、どうやって古本屋の妻を殺したのか。
- 著者
- 江戸川 乱歩
- 出版日
- 2016-03-25
翌日の午前中、天気が悪く仕方なくトランプで遊ぼうとしたところ、なぜかスペードのカードが全て抜き取られてました。夕方、突如警察が訪ねてきました。すぐそばの崖下で近隣住人の死体が見つかったといいます。死体の横には、スペードのAが置いてありました。間もなく、スペードの2が郵便受けから見つかり、連続殺人の幕は開けます。毒殺、刺殺、絞殺……そして、死体の横にはスペードのカードが置いてあります。次々と起こる殺人に学生たちと警察は翻弄されます。進退窮まった警察はついに名探偵・星影龍三に助けを求めます。
- 著者
- 鮎川 哲也
- 出版日
- 2006-05-27
戦友の死を告げ、葬儀が行われた後、三人姉妹の三女が行方不明になります。島民で探し回ると、寺の庭にある梅の木に足を帯で縛られ、逆さまにぶら下げられて死んでいました。戦友の言う通り、妹が殺されてしまったのです。残る二人の姉妹が危ないと悟った金田一でしたが、不審人物として牢に囚われてしまいます。果たして、二人の姉妹を救うことはできるのでしょうか。そして、殺人の犯人は一体誰なのでしょうか。
- 著者
- 横溝 正史
- 出版日
事件に巻き込まれた藤田家では、家庭教師の三橋が藤田家の人々を守ろうとしますが、現れた脅迫者に追い詰められてしまます。三橋は悩んだ末に、知り合いの名探偵・瀬川みゆきに助けを求めます。無事事件は解決しますが、それが原因となり、二年後別の事件が起きることとなってしまうのです。
- 著者
- 城平 京
- 出版日
日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した作品です。
自殺するために栖苅村を訪れた種田静馬は、ひょんなことから殺人事件に巻き込まれます。そこで出会った探偵、御陵みかげという隻眼の少女とともに、連続殺人事件の解決に挑みます。そして18年後、再び連続殺人事件が起こるのでした。
みかげの母もまた隻眼で力のある探偵であり、その血を引き、同じように真実を見抜く左目を持っているみかげは、果たして犯人を突き止めることができるのでしょうか。
- 著者
- 麻耶 雄嵩
- 出版日
- 2013-03-08
表紙の美少女にまず目を奪われ、半分ほど読み進めたところで謎が解決され、短編集だったかなと思っていると、とんでもない展開の第二部が始まります。前半も後半も、繰り返されるように残虐な殺人事件が連続し、その状況や、作品自体の舞台や登場人物は、八つ墓村を思い出させます。
かなりクセのあるミステリーです。いわゆるアンチミステリー。麻耶雄嵩はそんな反則技を追求する作家です。最初はツッコミやクセに慣れなかったあなたも、きっとトリコになり、もはやその期待の裏切り方を待ちわびてしまいます。まさに変化球な1冊です。
主人公、小鳩常悟郎は小佐内ゆきともに小市民を目指す高校生。推理もしない平穏な日常を望む彼らですが、鋭い洞察力によって日常の小さな謎と出会ってしまいます。
- 著者
- 米澤 穂信
- 出版日
- 2004-12-18
高校を舞台に、異なる謎に挑む小鳩と小山内の描いた連作短編集です。自身の推理を披露することに抵抗がある小鳩ですが、謎が目の前に現れ、巻き込まれていきます。無くなったポシェットを探したり、美術部卒業生の作品について考えたりと些細な出来事が小鳩の葛藤とともに大きく形を変えしまいます。
中でも「おいしいココアの作り方」は必見です。ココアを作ってもらったはずなのに、台所のシンクは乾いていました。どうやって作ったのか、そんな小さな謎からの推理合戦、そして真相と浮かび上がるキャラクターなど、非常に魅力的な作品です。
鳴海理沙と矢代朋彦が配属されたのは、警視庁捜査第一課科学捜査係文書解読班。捜査資料の整理と分類ばかりしていた理沙ですが、文章から情報を引き出す文書捜査官でもあります。
杉並区で発見された、右手が切断された遺体……被害者の所持品はレシートに書かれたメモとアルファベットのカードだけでした。どこの誰かも分からない遺体に戸惑う捜査陣。そこで登場するのが自称文字フェチの鳴海です。
文書捜査官として残された文章を解読し、様々な情報を得た鳴海でしたが、彼女を待ち受けていたのは第二の殺人現場ともう一枚のアルファベットカードでした。
- 著者
- 麻見 和史
- 出版日
- 2017-01-25
ミステリーのジャンルとしては安楽椅子探偵モノに近いでしょうか。遺留品の解読というテーマは非常に地味で、アクション性もありません。
しかし、本作は安楽椅子探偵モノの欠点を見事に補っています。その要素が警察を主人公にした「警察24時」的な捜査過程の見せ方であり、ドラマやアニメを見ているかのような親しみやすいキャラクターです。
キャラクター作品でありながら、論理性を両立させている……そんな巧さが味わえる新しい1冊です。
短編集「福家警部補」シリーズの第1作目となる本作は、『刑事コロンボ』をリスペクトした作品となっています。アリバイ崩しを主軸に、4編を収録しています。
小柄でおとなしい外見の福家警部補は、ショートヘアに眼鏡をかけ、「刑事には見えない」と言われることも多い彼女は、捜査に没頭すると寝食を忘れるため、周りからは「眠らずの魔女」と呼ばれています。オタク気質で幅広い知識を持ち、実はお酒にとてつもなく強いという一面も。ちなみに、彼女の下の名前は不明です。
- 著者
- 大倉 崇裕
- 出版日
売却されようとしているある私設図書館の館長・天宮祥子が、借金返済のために図書館を売却しようとする息子の宏久を排除しようとする「最後の一冊」。元・伝説の科警研職員といわれ、現在は大学講師をしている柳田にはある秘密が。それをネタに准教授の池内に脅迫され、彼を殺害することを決意する「オッカムの剃刀」などを収録しています。
「三浦真理子は床に倒れていた。仰向けになったまま、ぴくりとも動かない。
河出みどりは、呆然と立ち尽くしていた。足元に落ちた、丸い文鎮。さっきまでテーブルの上にあったものだ。」
(『福家警部補の挨拶』より引用)
淡々とした文章でテンポ良く情景が綴られ、最初から犯人が読者に明かされた状態で物語が進んでいきます。これは「倒叙形式」といわれ、最初に犯人が誰なのかを明示し、その人物の視点で物語が展開していく手法で、かの名作『刑事コロンボ』やテレビドラマ『古畑任三郎』などで使用されてきました。
見た目は地味すぎるほど地味、警官にも見えず、いつも現場に入るまでにひと悶着を起こしてしまう福家警部補ですが、その洞察力と推理力は一級品です。大倉崇裕はかなりのコロンボマニアで、自らそのノベライズも手掛けているほど。作中に漂うコロンボへのオマージュは、氏の愛を感じずにはいられません。
以上、傑作探偵小説を紹介しました。ミステリー好きなら抑えておくべき作品ですし、ミステリー初心者にもうってつけの作品です。ぜひ上記の作品を読んで名探偵の活躍に酔いしれてください。