夢枕獏というとバイオレンスにエロスに伝奇というイメージですが、優しくやわらかい物語も描いています。今回は、柴田錬三郎賞、泉鏡花文学賞、吉川英治文学賞など数々の文学賞を受賞する、夢枕作品をご紹介します。

- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 2013-08-24
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 2014-03-28
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 2000-08-18
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 2013-05-15
主人公の男はタニシの殻のような小さなものから宇宙の星雲に至るまで全ての螺旋状のものに惹かれていて、自らを螺旋収集家と称しています。男には大学時代、涼子という恋人がいました。その当時は学生運動が盛んな時期でしたが、男は時代の風潮に乗り切れず、自然の写真を撮る事と涼子が好きだという詩人の作品に没頭して過ごしていたのですが、ある日ニュースで涼子の突然の死を知り衝撃を受けます。
男は知らされていなかったのですが、実は涼子は学生運動の過激派組織の一員で、対立する組織との抗争で撲殺されたのでした。それから男は花や風景などの写真を撮る意欲が一切なくなり、戦場カメラマンになります。
数年後、戦場へと至るジャングルを抜け集落にたどり着いた男は3人の白人兵士と遭遇します。そこに現れた原住民の少女に兵士が銃口を向けた時、少女の兄が走り出て「撃たないで」と叫びますが兵士は兄妹ともに射殺し、男はその瞬間になぜか兄妹に向かってカメラのシャッターを押したのでした。その後、突然のゲリラの爆撃で3人の兵士は死に男は運良く助かります。しかしその爆撃の衝撃で飛んできた小石が男の頭蓋骨を突き抜け脳へと刺さり、手術で摘出できないまま脳の中に残されてしまい、その時から男には他人には見えない螺旋が見えるようになるのです。
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 2011-03-10
男はある日、新宿のビルの中で自分にしか見えない螺旋階段を見つけ、誰もいなくなった夜を見計らい1人で螺旋階段を上り始めます。遥か上空へと続く螺旋階段を昇るうちに男の心の中に涼子が好きだった詩人の心が入り込み、2人の心が交錯して融合していくのでした。
気が付くと男は一切の記憶を失い見知らぬ海辺に倒れていて、魚を捕りに現れた兄妹に助けられ彼らの家に連れていかれます。そこは地平線が天空へと向かっている不思議な世界で、兄妹と年老いた両親の他には誰もいませんでした。そこで男は記憶を失ったまま妹と結婚して幸せな生活を送り始めます。しかし兄は唯一の女性である妹に以前から肉欲を抱いており、妹の夫となった男を激しく憎悪するのでした。
兄は両親を殺害しさらに男も殺して妹を手に入れようとするのですが、男は妹と共に逃げ出し上へと向かう旅に出ます。しかし追いついてきた兄と格闘するうち、男は穴に転落して地下水流に流され、妹とはぐれてしまうのでした。1人で上に向かう旅を続ける事にした男は、途中で大きなカエルのような姿をした人間の言葉を話す奇妙な生物と遭遇します。男を「縁」と呼び自分は「業」だと名乗るその奇妙な生物と共に男は旅をすることになるのですが、「業」は道中で脱皮を繰り返し、徐々に獣の様な姿へと変化していくのでした。
男が突然迷い込んだ世界は、異世界のようでもあり太古の地球のようでもあります。哲学的かつ神秘的で難解な部分もありますが、ファンタジーとアドベンチャーが融合したロールプレイングゲームのような展開は、読む者の心を主人公と共に謎に満ちた壮大な世界へと誘ってくれます。
舞台のはじまりは鎌倉時代。クロウという名の主人公は、実は源義経で、大和坊(武蔵坊弁慶)とともに追っ手から逃げていました。その旅路の途中で、黒蜜という美しい女性と出会います。
黒蜜との出会いがクロウ、そして大和坊の運命を大きく変えます。黒蜜は不老不死の吸血鬼であり、その黒蜜の手によってクロウも不老不死の吸血鬼になってしまうのです。
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 2003-02-01
不老不死の二人にとって、時間は果てしなく続きます。何度もその身体は倒れますが、また輪廻転生を繰り返し、記憶も都度リセットされ、ゼロから生きはじめなくてはならない壮絶さ。クロウは輪廻転生を繰り返しながらも黒蜜の姿を追い求めます。その壮絶さは、「このまま死なせてくれ」というクロウの一言に表れています。
鎌倉時代から始まった旅は平成、さらに近未来へとつながり、その長すぎる時間を生きながら、黒蜜を探し続けるクロウ。人は長生きしたいと思うけれども、さすがに1000年以上生き続けるのは辛いなぁとしみじみ感じます。
物語の舞台は平安時代の日本です。京の都のとある館に招かれた高麗人の人相見は、そこで1人の高貴な少年の人相を見るよう命じられます。引き合わされたその少年は、類まれな美しさを持っていました。しかし人相見は少年の背後に、普通の人には見えない妖しい老人の姿を見てしまいます。人相見は恐れおののき、少年は王の相を持っているがその未来は自分には予想もつかないと言うのでした。
その少年は大人になり、「光る君」と呼ばれるようになります。光る君の妻の葵の上は、数日前から熱が下がらず苦しんでおり、様々な坊主や陰陽師に祈祷をさせてもまったく効果がありませんでした。葵の上には得体のしれない物の怪のようなものが取り憑いており、それが葵の上を苦しめていたのです。
光る君は妻を救うため、葦屋道満という法師陰陽師を探し出します。法師陰陽師とは朝廷に所属する陰陽寮の陰陽師ではなく、民間の陰陽師のことです。道満は有能な陰陽師ですが、死んだ後にその人の魂をもらうことを報酬としている謎の多い人物で、光る君に対しても「金は要らぬからそれを喰わせろ」と言います。光る君はそれを承知し、道満と共に葵の上を苦しめる物の怪の正体を探るのでした。
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 2011-11-30
本作は紫式部の「源氏物語」を下敷きにしていますが、「源氏物語」とは全く違う物語となっています。光る君の常人には無い能力と道満の不思議な術とで次々に現れる正体不明の敵や妖怪のようなものに立ち向かっていく筋立ては、まるで冒険活劇のようです。
作中には仏教をはじめとする宗教についての難解な記述もありますが、謎解きの一環として難なく読み進むことができます。歴史的要素とSF的要素が融合した、あらゆる角度から楽しめる質の高い知的で贅沢な娯楽作品です。
主人公の夏木は32歳の独身男性です。都内で小さなデザイン会社を経営しており土日も休みなく働いているため、年に1度だけまとめて休みを取り海外旅行に行くことにしています。もともと山好きな夏木が今年の旅行先に選んだのはチベットでした。そこで知り合った日本人のバッグパッカーの青年から、鳥葬が見物できるという話を教えてもらいます。
他人の葬式が見られるということに驚いた夏木ですが、「けっこうえげつない光景だが感動した」というその青年の話に興味を覚え、鳥葬業者に依頼して見物させてもらいました。それ以来夏木は、夜眠ると自分が鳥葬されている夢を見るようになります。そして周囲の鳥たちが明らかに自分を見ているように思うのでした。
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
本作には表題作を含む8作の短編が収録されています。
「柔らかい家」は、山で道に迷った男性がたどり着いた家で恐怖を味わう話です。その他の話も、最初は現実にありそうな話かと思いきや全く異世界の話であったり、人間以外の話であったりします。ほとんどの作品に死の臭いが漂い、読者は違和感を覚え不安を感じるでしょう。
「羊の宇宙」という作品だけはほのぼのとした雰囲気で語られ、読者を和やかな気持ちにさせてくれます。年老いた物理学者とカザフ族の羊飼いの少年が2人だけで語り合う話です。世界は見方を変えると実にシンプルで美しい法則から成り立っていることを教えてくれます。
流浪の空手家、丹波文七を核として展開される格闘小説の金字塔。1985年に書き起こされ、長く愛されてきた人気シリーズです。
フィクションではありますが、当時の格闘技界を非常によく描いているのが特徴の一つ。作中における対戦方法は何でも有、主に総合格闘技、バーリトゥードを参考にしているような印象です。しかし、当時の格闘技界において総合格闘技という概念はまだ浸透していないこともあり、本作は非常に新鮮な驚きを持って世に送り出されました。現在の格闘技界を鑑みて、夢枕獏に先見の明があったことは揺ぎ無い事実となっています。
丹波文七が本格的に「何でも有」の世界に入るきっかけは学生時代。格闘技仲間が喧嘩でのいざこざで刃物によって斬殺されたことに始まります。その場に居合わせた丹波にもその凶刃は襲い掛かりますが、丹波は逃げずに返り討ちに、その経験が元で丹波の餓狼が目覚め、その後の修羅のごとき格闘技人生を歩き始めることに。
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
冒頭でも少し触れましたが格闘小説だということをあえて何度も強調させていただきたいです。皆様は格闘小説と聞いてそれほどの珍しさは感じなかったのではないでしょうか、しかしどうでしょう、思い出していただくとそれほど多くの格闘技メインの小説はあったでしょうか、バトルやアクション、または昨今のファンタジーにおいても格闘の描写というのは決して少なくありません。少なくはありませんがそれは物語のアクセントとして格闘を扱っているにすぎません。
『餓狼伝』の特筆すべきところは恐ろしく真面目に格闘技や武道を追求していることにあります。主人公、丹波文七を筆頭に物語の登場人物達は全員強さの求道者といって過言ではなく、美麗の天才拳士姫川、本物の強さを求めるプロレスラー梶原、そして生ける伝説牛殺しの松尾象山、そのキャラクターには一癖も二癖もありますが、共通して言えるのはその誰もが強さに対して真摯であるということです。
登場人物達の各々のアプローチは全く違いますが求めるものは強さの一点に絞られ、時に対戦相手の急所を突くことも厭いません。眼球を指でえぐる、金的を蹴り上げる、時に咬みつくことも厭わない、必要があれば真剣にて相手の腕を切り落とす。時に残酷な描写も目立ちますが条件は常に対等で、本作ではそのような描写も不思議と受け入れてしまいます。
肉体を追求していく、技を追求していく、そして強い相手を倒したい。このクラシックなテーマをここまで求めきった物語を他に知りません。是非一読して後悔のない作品だとおすすめできます。
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
- 2011-10-25
バイオレンスやエロスを得意としていた夢枕獏。ジャンルを超えた良作を生んでいます。どの作品も良作ばかり。ぜひ読んでみてださいね。