聞き耳を立ててるわけじゃないのだよ あなたの言葉、引力凄し
冒頭「外の世界のリアリティ」というタイトルで、本作『絶叫委員会』の説明が書かれています。
「『絶叫委員会』では、印象的な言葉について書いてみたいと思います。映画や小説の名台詞、歌謡曲の歌詞、日常会話、街頭演説、電車の吊り広告の見出し、怪しいメール、妻の寝言など、いろいろなところから言葉を拾ってくるつもりです」
(『絶叫委員会』より引用)
これはつまり、穂村弘が見聞きした「印象的な言葉」=「絶叫」を選出し、まとめた本なのです。絶叫を選別する委員会なるものがあったならば、委員長は穂村弘が務めたのでしょうか。絶叫委員会、ぜひ入りたいものです。
- 著者
- 穂村 弘
- 出版日
- 2013-06-10
他人の言葉に耳を傾けてしまうときは、おそらく誰にでもあると思います。電車の中、飲食店、路上、人のいる所すべてがそのシチュエーションになります。しかし、実際に生活を送っていると、聞き逃したり、見落としたりすることはたくさんあるはずです。それは、好きな音楽を聴いているからだったり、たまたま下を向いていたからだったりするからだと思います。せっかくおもしろい言葉が溢れているのに、気づかないことが多いのは悲しいことかもしれません。
私たちが聞き逃し、見落としてしまっていたユーモラスな言葉たちを、穂村弘が拾って、よりおもしろく調理し、提供してくれます。彼の独特の観察眼が羨ましくも感じられ、普段から周りの言葉に注意してみようかなと思わせてくれます。どこに素敵な言葉があるのかなんて、誰にも分からないですからね。
「こんばんは、やどかりなんですけど」
(『絶叫委員会』より引用)
数ある絶叫の中から1つ選んでみましたが、前後のやりとりが気になりませんか。詳細は実際に読んで確かめてほしいです。ふとした瞬間に見聞きした言葉が、時には衝撃的で、価値観を揺さぶることがあるのかもしれませんね。
好きな音楽を聴く日だけではなく、たまには絶叫に耳を澄ませる日もつくってみませんか。
物事の見方がちょっと独特なこの1冊がたまらなく好き
独特な感性と観察眼、自意識を持つ穂村弘が考えるさまざまな「本当はちがう」ことが、おもしろおかしく語られる『本当はちがうんだ日記』。切り口が独特なので、なんじゃそりゃと笑い飛ばしてしまうのですが、読んでいくとあまりにも物事の見方が斬新なので、そういう見方もできるのかと感心してしまうことも多いでしょう。
- 著者
- 穂村 弘
- 出版日
最初に書かれているのは、エスプレッソのことです。エスプレッソが好きなのに飲んでは、「苦い。地獄の汁のような味だ」とこぼします。本当のエスプレッソは果実の薫りがして、キャラメルの味わいがするはずなのに、目の前のエスプレッソは苦い。ここで穂村は考えます。
「私のエスプレッソがこんなに苦いのは何故なのだろう。(略)それは、おそらく、私自身がまだエスプレッソに釣り合うほどの素敵レベルに達していないからだ」
「私のエスプレッソは今日も苦い。舌が痺れるほど苦い。地獄の汁かと思うほど苦い。おそらくは明日も苦いだろう。(略)だが、と私は思う。本当はちがうのだ。エスプレッソは果実の薫り、そしてキャラメルの味わいなのである。本当の私はそのことを知っている」
(『本当はちがうんだ日記』より引用)
自分は素敵ではないという自意識の塊である穂村だからこそできる見方なのかもしれませんが、こんな考え方ができる人は素敵ではないでしょうか。
他にもあだ名のこと、素敵のこと、恋愛や将来、様々な物事を独自の視点で語ります。これらに触れることで、新しい物事の見え方を知ることができ、生きる上でのスパイスとなって、今後見聞きする出来事に新たな色合いを与えてくれることでしょう。
余談になりますが、あだ名について語っているところで「僕にはあだ名がない」、それによって人間界に溶け込めないのだと嘆いているのですが、ファンの間では、愛をこめてこう読ばれているようです。
『ほむほむ』
どこか不可思議で愛らしい、柔らかな印象の穂村弘にピッタリの愛称だと思いませんか?
嵐でも走ってきてよ颯爽と 男も女も白馬に乗って
これまでご紹介した4冊の中でも恋や愛については書かれていましたが、本作『もしもし、運命の人ですか。』は恋愛についてのみ書かれた、これまで同様、独特な切り口の恋愛エッセイです。一つひとつがこれまでのエッセイより長めに書かれており、読み応えもあります。長く書いているのは、それだけ恋愛における疑問や謎が多いのだろうと想像します。
- 著者
- 穂村弘
- 出版日
- 2010-12-21
「私の心を縛っている自意識。心配、そして効率。これらを突き詰めれば、命の惜しさ、勿体なさということにいきつくのではないだろうか。そのために自分の安全と損得のことが一瞬も心から離れない。これでは保身を忘れたセクシーなオーラを身に帯びることはできない」
(「理想の男性像」より引用)
「目の前のカップルが、いつかどこかで出会い、時間の経過とともに微妙な眼差しや言葉や行為を交し合って、少しずつ関係を深めていったのだ。こいつらの全員がそれをやったのだ。『ふたりのやりとりの複雑さ』×『道のりの遠さ』×『カップルの数』を思って、ふーっと気が遠くなる」
(「1%のラブレター」より引用)
上記はどちらも『もしもし、運命の人ですか。』の各章からの引用ですが、独特な視点と言葉選びから名言が生まれていることが伝わってきます。
たくさんのカップルを見て数式を作ってしまう感性には、心底感服です。また独特さゆえに迷言も多いのです。声を出して笑いたくなるようなポイントは、実際に読んで見つけてみてくださいね。
所々で短歌も紹介されています。そちらも心に響くものが多いので、あわせて楽しんでほしいです。ここで、最初の章「恋にかかる瞬間」で詠まれる短歌をご紹介します。恋人と一緒にいる時間のやすらぎを、分かりやすく、ほっこりと伝えてくれる短歌です。
「冷蔵庫が息づく夜にお互いの本のページがめくられる音」