3位: 恩田陸が描く、謎多き三月の国の物語『麦の海に沈む果実』
本作品は関連作品が多く、そのうちの基礎となるお話が収録されています。同等の長編として『三月は深き紅の淵を』『黒と茶の幻想』『黄昏の百合の骨』、短編作品として「睡蓮」「翡翠の夢、水晶の朝」があります。シリーズとして公式に刊行された作品ではありませんが、ところどころにつながりが見えてきます。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2004-01-16
物語の舞台は、北海道の湿原にひっそりと建てられた高校です。ここには3月以外の月に転校してきた生徒は学校に破滅をもたらす、という噂がまことしやかに語り継がれていました。そんな奇妙な高校に、2月の最後の日に主人公である理瀬が転校してくることになります。ある事件をきっかけに記憶を失くしてしまった理瀬は、強制的に転校させられたのです。
自分のことも周囲のことも分からない理瀬ですが、学校では次々と不可解な事件が発生して生徒がひとり、またひとりと謎の失踪を遂げていきます。この失踪は理瀬が破滅をもたらしたということなのか、そして理瀬の記憶は戻るのか……。気になるところですね。
関連作品が3作あり、本作品は2番目に刊行されたものですが、これらは読む順番が非常に大切です。他の作品は後日談や登場人物の入り組んだ話になっているので、それらの前提となるお話として『麦の海に沈む果実』を読んだ方がいいでしょう。
学校ものを描き出すことの多い恩田陸ですが、『六番目の小夜子』や『夜のピクニック』などとは一線を画します。本作品の特徴は、文化祭や歩行祭といった行事と普段の学園生活ではない、どこかこの世のものとは思えない、不思議な感じのする閉ざされた学園生活です。全寮制の学校ということもあるのかもしれませんが、校長先生から生徒たちに至るまで、俗世からかけ離れた雰囲気は他に類をみません。萩尾望都の『トーマの心臓』をオマージュしたような感じです。
ちなみにタイトルの『麦の海に沈む果実』とは、作中でとある人物が主人公に贈る詩の題名であります。
2位:直木賞を受賞した恩田陸の新代表作『蜜蜂と遠雷』
国際ピアノコンクールに挑むコンテスタント(演奏者)たちと、彼らを取り巻く人々の物語です。
優勝すると、世界最高峰のS国際ピアノコンクールをも制することが出来る。そんなジンクスがささやかれる芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台に物語が繰り広げられます。描かれるのは、このコンクールの出場者、風間塵、栄伝亜夜、マサル・C・レヴィ=アナトール、高島明石の4人と彼らを中心とした熱い戦い。彼らの他にも多数の出場者がいる中で、一体誰が優勝を手にすることが出来るのでしょうか。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2016-09-23
まず、この作品の魅力は確立されたキャラクター達にあります。特別なピアノ教育を受けたこともない風間塵は伝説的なピアニスト、ホフマンが認めた才能をもつ16歳の少年。母を亡くしてからピアノを弾けなくなってしまった栄伝亜夜は、かつては天才と呼ばれた音楽大学に通う女子大生。マサル・C・レヴィ=アナトールは音楽の名門ジュリアード院在学で“ジュリアードの王子様”と呼ばれます。そして取り上げられる4人の中で最年長なのが高島明石28歳。彼は、音大卒業後プロにはならず、仕事をし、家庭を持ち音楽界からは離れていました。そんな彼は音楽奏者として感じている怒りをぶつけるつもりでコンクールに挑みます。
そんな彼らが熱く真っ直ぐコンクールに挑む姿に心打たれるのではないでしょうか。そして彼ら以外の周りの人間もしっかりキャラクターとして成り立っています。読み手によって感情移入してしまうキャラクターは様々で、それもこの作品ならではの楽しみになるでしょう。
また、恩田陸の表現力もこの作品の魅力といえます。言葉選びが洗練されていて無駄な表現がないためとても読みやすいのです。演奏シーンでも、その場の空気や緊張感がしっかり伝わってきます。演奏される音楽が聞こえてくるかのようにとてもイキイキと描かれています。
クラシック音楽をあまり聴かない人でも読みやすい内容です。キャラクター達の熱い思いに入り込み、そしてコンテストの結果が純粋に気になり、どんどんページをめくってしまうのではないでしょうか。またシーンごとに使用される楽曲をBGMに読み進めるのも面白いです。ぜひ一度お手にとってみてください。
1位: 恩田陸オマージュの神髄『チョコレートコスモス』
本作品は演劇をめぐるお話です。主人公は、役者の父と歌舞伎役者の母の間に生まれた東響子。芸能の道一筋に育てられた響子の役者としての能力はもちろんのこと、容姿端麗、人気抜群と非の打ちどころのない人物です。そしてもう一人の主人公が、一見なんの変哲もない、大学の演劇研究会に所属する佐々木飛鳥です。飛鳥は響子のような名門の血筋ではありませんが、演劇研究会への入団試験の際には、未経験ながら、即席の演技で類まれなる才能を見せつけました。
ズブの素人として役者街道を歩きだした飛鳥は、様々な苦難を抱えることになりますが、響子は響子で役者の名門一家としてのストレスや悩みを抱えているのでした。そんな二人があるオーディションで出会い……。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2011-06-23
演劇漫画の名作とされる『ガラスの仮面』のオマージュ小説です。漫画では描き切れない登場人物の心理描写がかなり書き込まれていたり、絵がない分、読者は想像力をかきたてらりたりするという面白さがあります。
また、『ガラスの仮面』の最大の魅力であるオーディションなどの演技合戦という要素を完璧に抽出し、その他の余計な要素を省き、ある意味では原作より面白いオマージュ小説と言ってもいいように思います。
過去の作品をオマージュすることに関して「気持ちいいって感じるストーリーは、古今東西同じであって、見せ方を変えているだけという認識もあります」と恩田陸は語ります。
本作品はそんな作者が手がけたオマージュのひとつ。普通の作品よりも、ある意味作者の手腕が問われた稀代の作品ということで第1位にあげさせていただきました。