高野和明ならではのサイコサスペンス『K・Nの悲劇』
結婚2年目の修平と果波。修平が仕事で成功を収め、憧れの高級マンションも手にし、夫婦は幸せの絶頂にいました。ところが、果波の妊娠がわかってから、2人は徐々に不穏な空気に包まれていくのです。
- 著者
- 高野 和明
- 出版日
- 2006-02-16
大学病院で精神科医として働く磯貝は、不妊に悩む患者が目の前で自殺未遂を図り、医師としての自信をなくして休職中の身でした。そんな磯貝でしたが、友人から紹介された修平たち夫婦のためになんとか再起しようとします。ところが、どんどん人格が変貌していく果波と、妻を守るために疲れきった修平の様子は、磯貝が会うごとに緊迫感を増してきます。
不妊、堕胎、憑依現象、産婦人科や精神科の医療といった問題に鋭く切り込んだ作品です。結末が気になりながら一気に読んでしまいました。医者である前に人間としての自分にも厳しい磯貝や修平の変化から、作者の人間的な深みを感じました。
本作は、映像の仕事に携わった高野和明だから表現できるサイコサスペンスなのではないでしょうか。冒頭で出てきた夫婦がどうなるか、最後まで目が離せません。
悩む人に、自分はなにができる?『幽霊人命救助隊』
なにかで悩む人や苦しむ身近な人に対して、なにができるか考えている人にはぜひ読んでほしい本です。
受験の失敗を苦に自殺した裕一が行き着いたのは、断崖絶壁の上、地上と天国のはざまでした。そこで自分以外の3人の自殺者と出会い、神からミッションを与えられます。地上に戻って、7週間で自殺しようとする100人の命を助けるというもので、それを成し遂げたなら4人は天国に召されるという約束でした。
- 著者
- 高野 和明
- 出版日
生前は暴力団の組長だった威勢のいい八木、会社社長だった生真面目な市川、家事手伝いをしていた繊細そうな美晴。そこに裕一を入れた4人は、力を合わせてミッションを遂行するべく地上に降り立ちました。幽霊人命救助隊が結成されたのです!
救助隊4人の活躍は、テンポよく交わされる会話と独特のユーモアに彩られていて、興味深く読み進めることができます。助ける方法もユニークなものばかり。かつては自分たちも通った道だからこそ、深刻に悩むひとりひとりを救いたい、という4人の気持ちが行間から伝わってきて、読んでいると何度も目頭が熱くなってしまうのです。
不器用で失敗ばかりの4人からこぼれるのは渾身の言葉ばかりで、心に残るものが多くあります。その中の1つ、救助活動の終盤に八木が放った「未来が定まっていない以上、すべての絶望は勘違いである」という言葉には、思わずうなずいてしまいました。
4人が救うことになる100人目はどんな人なのか、楽しみに読んでほしいと思います。ラストシーンで、心が温かくなります。
高野和明による、傑作短編集『6時間後に君は死ぬ』
大学院で心理学を学ぶ山葉圭史には、他人の未来が見えます。そんな特殊な能力を持つ圭史と関わる人を描く5編の短編を収めた作品です。
「時の魔法使い」と「ドールハウスのダンサー」は、うまくいかない毎日にくじけそうになりながらも、夢に向かって一途に生きる若い女性の心の動きと、偶然の出来事が描かれています。時の流れに優しさを感じます。
- 著者
- 高野 和明
- 出版日
- 2010-05-14
冒頭の「6時間後に君は死ぬ」で山葉に出会い、いきなり自分の命はあと6時間しかないと告げられ、必死になって運命を変えようとする美緒が、5話目の「3時間後に僕は死ぬ」でどうなっているのかは必見です。
全体にミステリーの要素もありながら、現在へとつながってきた過去について、ノスタルジックに描かれる本作は大人向けのファンタジーともいえるのではないでしょうか? ファンタジーが苦手な私も大好きな作品です。
5編の短編の後のエピローグが、本短編集を効果的に締めくくっており、不思議な余韻を残すのです。特別ではない1日1日を、丁寧に生きていきたいなとふんわり思わされます。