インターネットに触れず、携帯電話を持たず、それでも現代を描く天童荒太
天童荒太は1960年愛媛県で生まれ、愛媛県立松山北高等学校を経て明治大学文学部演劇学科を卒業。
童話や映画脚本などの賞にも応募し、『白の家族』で野生時代新人文学賞を受賞して本名でのデビューを果たしています。その後、天童荒太名義で投稿をするようになったのは、一度デビューしている名義で落選したらみっともないという考えからだったとか。再デビューが叶った後には本名に戻すつもりでいたそうです。
寡作で知られ、初期作品は文庫化の際に大幅改稿することが多いようです。特に山本周五郎賞を受賞した『家族狩り』は物語のベースやラストはそのままに登場人物や途中の事件などの描写に変更がほどこされ、ほぼ別作品といってもいい仕上がりになっています。
また、彼はインターネットもせず、携帯電話も持っていないことで知られていますが、普遍的な人間の闇や感情を表現するのがとてもうまい。作品はすべて彼の人間観察眼の鋭さを感じられる作品で、現代的なツールを持たなくとも人間を理解している小説家なのだと驚かされます。
天童荒太としてのデビュー作。人間の孤独がえぐり出される
独り暮らしの女性たちが監禁された挙句、全身を刺されて殺される凄絶な事件が続いて発生します。そのうちのひとりの女性が通っていたコンビニエンスストアで起こった強盗事件を担当することになった刑事・朝山風希は、居合わせていた不審な男を追いますが……。
- 著者
- 天童 荒太
- 出版日
- 1997-02-28
刑事である風希、コンビニの店員である純平、連続殺人犯の「彼」の視点で物語は進んでいきます。サイコサスペンスに類される内容ですし、「彼」の語りによる事件の描写などはかなりグロかったり、きつかったりしますが、ただそのスペクタクルを楽しむ作品ではありません。
根底にあるのはタイトルにもあるとおり人間の「孤独」の部分ではないでしょうか。孤独は生きている限りつきまとうものですよね。だれかと思想や身体的にひとつになるなど難しいことですが、やはり人は求めてしまうもの。読み終わったあとに、人間というものについて改めて考えてしまうかもしれません。
構成も伏線の張り方も巧みで、次が気になって仕方のない書き方がされています。最初こそその気持ち悪く感じるシーンがありますが、後半が徐々に爽やかになって生きます。これ以前に作品があるとはいえ、ほぼデビュー作でここまで書ききる才能に感服してしまうのではないでしょうか。のちの作品に繋がる土台が既に出来上がっている傑作です。
山本周五郎賞受賞作!家族崩壊の闇を描く
オリジナル版と改稿がなされた文庫版があるのですが、先に説明したように物語が微妙に異なるので、文庫版のほうをご紹介します。この物語は主に3人の登場人物を軸に進んでいきます。
児童相談センター職員の氷崎游子は、アルコール依存の男から虐待されて怪我をした娘を保護し、彼を逮捕させました。
高校の美術教師・巣藤浚介は、恋人の同僚教師・清岡美歩に妊娠していることを告げられますが、家族を持つことに抵抗のある彼は困惑します。
刑事である馬見原光毅は虐待被害者の親子と擬似家族めいた関係にあるものの、自身の家庭は崩壊状態でした。
- 著者
- 天童 荒太
- 出版日
女子高生の傷害事件が起こり、彼女が浚介に強姦されたと嘘をついたことから、游子と浚介は知り合いになり……馬見原は非行に走った娘の関係で游子を知っていて……。
散りばめられた点が結びついていく過程がとても素晴らしく、滅入る重たい話をここまで書ききれる力量に圧倒されます。読み終わった後には手放しのおもしろいではなく、ただ「すごい」としか言えなくなる人間の暗部への書き込みとストーリーの要素を結びつける妙がありました。リアリティのあるサイコスリラーに仕上がっていると思います。
ただし元気な時でないと読みきるのは少々つらいかもしれません。それでも天童荒太のストーリーの面白さと構成のうまさは一読の価値ありです。重い話ながらも、改めて家族について考えさせられる普遍的な作品です。