3位:勢いのある展開と文体が魅力の作品
海難事故により無人島に流れ着いた二人の子供で主人公のトウタとヒツジコが、外国人排斥運動が激しさを増した東京で、無人島で苛酷な生活を生き延びた二人が長じて後、東京に破滅をもたらすというもの。
ライトノベルと同じ感覚で気軽に楽しく読む事が出来ます。作品群の中でも抜群に読み易く、古川日出男作品の中でもこれだけは知ってる、という人もいる程です。
- 著者
- 古川 日出男
- 出版日
主人公のトウタは遭難する船に乗っており、ヒツジコは自殺を図った母と共に海に落とされ無人島に流れ着きます。彼らは特殊能力を持ち始めたり、踊りで仲間を厳選したり、鴉と心を通わせる性別のない子が地下組織と戦ってたり、そもそも東京を破滅させる目的もなんだか突発的だったりと、やりたい放題感が満載です。
古川日出男作品特有のスピード感のある文体や、印象的でリズムのある文章でこれを読ませるものですから、あっという間に読み切ってしまいます。
他の方の評価は著しく高い今作ですが、古川日出男作品にありがちな、物語よりも文章の響きや、個性的で精巧で重厚な文体に集中している所があるので、序盤の面白い展開で期待が大きくなりすぎて、物語中のすべての話をまとめきれていない部分や、思考回路が無茶苦茶すぎて理解しづらい所があったりと、大きな期待感が湧く作品だけに、ところどころに矛盾や、オチの納得感の物足りなさを感じてしまうかもしれません。
しかし、この作品には、そんな少しの要素など気にならないくらいの魅力と、最後まで読み切らせるスピード感があります。『サウンドトラック』は、古川日出男作品初心者の方には特におすすめしたい作品です。
2位:古川日出男の文体で描かれたエンタメ小説
次におすすめするのが、2005年に単行本化された『ベルカ、吠えないのか?』です。2005年に直木三十五賞候補にあがった作品です。表紙は内容を印象付ける、強く吠えている犬です。評価も高く、古川日出男作品の中でも知名度が高いと思います。
『ベルカ、吠えないのか?』の内容は、キスカ島に残された四頭の軍用犬である、「北」「正勇」「勝」「エクスプロージョン」から始まる血脈が「太平洋戦争」、「朝鮮戦争」、「ベトナム戦争」、「アフガン戦争」、「中米の麻薬戦争」、「ソビエト連邦の崩壊」の歴史を巡っていく、それを神の視点で追っていくという、エンタメ小説です。
- 著者
- 古川 日出男
- 出版日
- 2008-05-09
この6つの戦争の歴史に関しては、『聖家族』とは違い、本物の歴史を忠実に辿っていきます。古川日出男作品の中でも格段に読みやすい文章になっている為、非常にリアルで、まるで実際にこの戦争の歴史の中に実際に存在した犬の歴史なのではないかと錯覚します。
ロマンがある作品に仕上がっており、読了後の充実感は高いものとなっています。4匹の軍用犬が辿る物語も完全に独立してる訳ではなく、物語が交差する場面は鳥肌ものです。また、犬だけではなく、戦争が絡みますから人間の話も語られますが、そちらはコミカルに描かれています。
神の視点という事ですが、この神様も犬や人間や状況について思いついた事をいろいろ面白く語り、古川日出男が戦争や人間について思っている事が面白おかしく、わかりやすく読者に伝わります。
架空ながら高い描写力でこの犬達の歴史が、交尾を繰り返して紡がれていくので、犬の系統図まで作り、この作品世界にハマる方がいる程、歴史的な流れと犬の血脈がうまく結びついています。是非この作品を読んで、素晴らしい世界観に浸って欲しいです。
1位:スピード感のある文体、衝撃の展開、最初から最後まで目が離せない作品
2002年に日本推理作家協会賞、日本SF大賞をダブル受賞しています。当時この2つをダブル受賞したのはこの本が史上初だったそうです。
古川日出男が小説家として一番最初に受賞した小説がこの作品です。この作品も知名度が高いので、推測ではありますが、この『アラビアの夜の種族』だけは知っているという方も多いのではないかと思います。
- 著者
- 古川 日出男
- 出版日
『アラビアの夜の種族』の内容は、フランス革命の後現れた軍人、みなさんご存じのナポレオン・ボナパルトが、英国との開戦の前に貿易の道筋の要所であるエジプト侵攻を決意するという所から始まり、どんどん内容は広がっていきます。
この作品はディズニーでも『アラジン』の元ネタになっている『千夜一夜物語』がベースとなっています。また、途中でファンタジー要素が入るのですが、これは古川日出男のデビュー作『砂の王 ウィザードリィ外伝II』がベースになっています。どちらもアニメやゲームにおいて、いわゆる「王道」の位置にある作品です。
「王道」は、それをベースにすればほぼ確実に面白くなるから「王道」と呼ばれているのですが、その「王道」をベースに、オンリーワンな魅力を持ち、重厚でかつ軽快で、スピード感がある鋭い文章を書く古川日出男が、ダブル受賞するという結果にも現れているように高い集中力で書いた長編だと感じます。
原稿用紙2000枚の大長編ではありますが、寝るのも惜しんですぐに読んでしまい、最後まで驚愕の展開で目が離せません。