3位:ごく普通の家庭の苦しみと救いについて 『水やりはいつも深夜だけど』
窪美澄の本作は、同じ幼稚園に子供を通わせる家々の苦しみと、その救いを描く短篇集です。
・セレブママとしての仮面でブログを更新する反面、ママ友同士の関係に思い悩む主婦を描いた「ちらめくポーチュラカ」。
・仕事に忙殺されて育児に参加できず、妻や義両親とも険悪になり掛けてしまう夫を描く「サボテンの咆哮」。
・障害をもっていた妹の記憶に囚われ、自分の娘の発達障害をも疑ってしまう主婦を描く「ゲンノショウコ」。
・子供を産んだことで変化した妻とすれ違い、若い女によろめいてしまう夫を描く「砂のないテラリウム」。
・父の再婚によって義理の母と妹ができた女子高校生の戸惑いを描く「かそけきサンカヨウ」。
どの短篇作品も不穏な緊張感に満ちていて、読んでいてドキドキします。しかも、扱われる問題や確執が、どの家庭にも起こり得るような日常的なものだけに、虚構というには生々しいものを感じてしまうのです。
- 著者
- 窪 美澄
- 出版日
- 2014-11-14
たとえばママ友同士のイジメであったり、子育てを「手伝う」と表現してしまって妻に反発される夫であったり、自分の娘の成長は遅いのではないかと疑ってみたり。ごく普通の家庭にも訪れるような悩みですが、当事者にとっては決して軽いものではありません。
また、「サボテンの咆哮」の中に、育児に疲れて職場に復帰するのを諦めた妻が実家に入り浸り、子供が自分になついている実感が湧かない、という夫が描かれます。
子供は、仕事で忙しい自分よりも妻や義父母に笑顔を見せるけれど、どう育児に関わればいいのかわからない、という悩みです。子育てに対するこうした悩みを持つ父親も多いのではないでしょうか。そういった描写に、窪美澄の丁寧な目線が感じられます。
ありがちで、だけど辛く苦しい家庭の悩みにも、優しい救いは与えられます。家庭の中で思い悩んでいるという方におススメしたい窪美澄の一冊です。
窪美澄の作品をお得に読む
2位:思春期を生きる三人の大人たちのお話 『よるのふくらみ』
29歳のみひろ、その婚約者の圭祐、圭祐の弟でみひろの同級生の裕太は、同じ商店街で生まれ育った幼馴染です。窪美澄の本作は、彼(女)らの三角関係が6つの短篇によって、順にみひろ、裕太、圭祐の視点で綴られます。
三角関係と言ってもメロドラマ風の要素が強いものではありません。それぞれの葛藤や苦悩が窪美澄一流の淡々とした筆致で描かれます。三者三様の性欲と愛情との交錯が、読んでいて胸苦しさを覚えさせます。
圭祐は性的不能に悩まされ、みひろは性欲と愛情の狭間で揺れ動き、裕太は別の子持ち女性との交際を考えます。幸せであるはずなのに、すれ違いが孤独を生み、愛情が信じられなくなっていく……そんなみひろと圭祐に対し、みひろに好意を寄せていた裕太も思い悩みます。
- 著者
- 窪 美澄
- 出版日
- 2016-09-28
大人になっても、恋愛や性欲というのは割り切ったり完全にコントロールできたりするものではなく、常に人を思い悩ませるものだということを、この窪美澄の今作は示してくれます。
例えば、みひろは婚約相手の圭祐に抱かれたいと思っていますが、自分からそれを言い出すのは恥ずかしいことだと思い、胸に秘めてしまいます。一方で圭祐は、みひろが自分と寝たがるのを、性欲からではなく単に子供が欲しいからだと誤解するのです。
男女間の悩みというものは、幾つになっても変わらないものなのかも知れません。年齢を重ねても好きな相手に会うと胸が高鳴りますし、想いが通じなければ落胆するものです。大人だからと冷静な素振りでいられたとしても、内心は思春期と大差ありません。
自分は大人だけれど大人という気がしない、という人は、窪美澄の本書を一読してみてはいかがでしょうか。恋愛をする誰もが、きっと同じような悩みを抱えているのだとわかりますよ。
1位:窪美澄の最高傑作! 『晴天の迷いクジラ』
田舎から上京してきて零細デザイン事務所に勤め、多忙ゆえ鬱になり、恋人にも振られてしまったデザイナーの由人。故郷と子供を捨て、女であることも捨てて零細デザイン事務所を切り盛りしてきた社長の野乃花。長女を幼くして亡くしたがため過干渉となった母親に振り回され、友人をも病で喪った引きこもりのリストカット少女の正子。
この三人が不思議な巡り合わせによって出会い、湾に迷い込んだクジラを眺めるうちに、自らの過去と向き合いながら心を整理していく窪美澄の作品です。
由人は現在に苦しみ、野乃花は過去に囚われ、正子は未来を見失っています。そんな三人が、「迷い込んだクジラを見に行く」という一つの目先の目的によって同行することになり、生きるということを見つめ直します。
- 著者
- 窪 美澄
- 出版日
- 2014-06-27
辛く苦しい時、ふと「死にたい」と思うのは、誰しもあることだと思います。ですが、他者との交流の温かさによって救われるというのもまた、よくあることです。それぞれに生き辛さを抱えた三人だからこそ、支え合うことができたのかも知れません。
三人が見に行ったクジラは、大海から小さな湾に閉じ込められ、座礁しています。生きるためにもがくクジラの姿は、置かれた状況に閉じ込められながらも懸命に生き抜こうとするものの象徴だとも読むことができるでしょう。
全てが一件落着するハッピーエンドというわけではありませんが、読み終えて心に小さく温かい灯がともるような、これはそんな窪美澄の小説です。