子ども達の幸せを願い、やわらかな絵で生命の愛しさを描きつづけた絵本画家いわさきちひろ。1918年に生まれ青春時代に戦争を体験し1974年に亡くなるまで、数多くの作品を残しています今回はいつも本棚においておきたい本をご紹介します。

いわさきちひろは日本を代表する絵本画家です。色とりどりの鮮やかな色彩をにじませる手法で描いた絵は、当初「ぼやぼやしていてちゃんと絵が描けていない」という画家たちの評価に孤立していました。絵描きの権利を守ることにも強い姿勢を示し、出版社が「買い切り」の形をとっていた絵も「原画をきちんと返しなさい」と根気強く要求しつづけてきました。この行動は、今でも新しく出版される本にたくさんの絵が挿絵として使われ、いわさきちひろにまた出会えるうれしさにつながっています。
1918年福井県に生まれたいわさきは、東京で三姉妹の長女として成長します。当時としてはたいへん裕福な家庭で、小さい頃から絵が上手な子どもだったそうです。書道もうまく、自立できるようにと書家を目指した時期もありました。戦争が終わり、自らの歩む方向を必死で模索し続けていた27歳のちひろは画家を目指します。
アンデルセンの『お母さんのはなし』を紙芝居に描く仕事がきっかけとなり、絵本画家の道を歩みはじめます。いくつものアンデルセン童話を描き、童話の夢がリアルな人の気持ちをを表していることにちひろは深く共感していきます。1ヶ月の赤ちゃんと1歳の赤ちゃんを繊細に描きわけるデッサン力で、子どもが最初に手にする赤・白・きいろ・緑・青・黒の6色をとても美しい色合いで描きつづけていきます。
31歳になると、のちに弁護士、国会議員となる松本善明と2回目の結婚。翌年には子どもも生まれました。
そして37歳の頃、絵雑誌などに発表した作品が小学館児童文化賞を受賞します。41歳の時に描いた『あいうえおのほん』でサンケイ児童出版文化賞受賞、54歳の時には『ことりのくるひ』がボローニャ国際児童図書展でグラフィック賞を受賞します。
精力的に制作活動をおこなっていたいわさきちひろですが、54歳の時に癌を患ってしまいました。翌年、描きかけの赤ちゃんの絵に目を描き入れたのを最後に絶筆。多くの人々から惜しまれながらこの世を去りました。
表紙を開くときれいな緑色、はじめの内表紙に描かれたことりが印象的です。ラストがいっそう愛おしく感じます。ことりがとてもほしかった女の子が、ことりを通して心を痛め、ことりのことを思いやり、最後は笑顔になるお話です。ページをめくるたびに、女の子の表情から気持ちの動きがひしひしと伝わってきます。いつまでも心があたたかくなるうれしい余韻をあじわってくださいね。
- 著者
- 岩崎 ちひろ
- 出版日
- 1972-06-01
じりりーん、じりりーん、なっているのはなあに。朝、まだねむたいももちゃんに、電話の向こうから、わたしはきらきらひかってまぶしいものよと話しかけてきます。きらきらひかるものはいったいなんでしょう。茶色のあひるも登場し、ちょうちょうからの電話で、黄色いお花がいっぱいの野原にさそわれていきます。
- 著者
- 松谷 みよ子
- 出版日
- 1970-05-05
パステルの線に悲しみの表情が描きだされた芸術的な絵本は、曽野綾子の愛にあふれた文章と非常にマッチした味わい深いものとなっています。読み返すことで何度でも感動をはこんでくれることでしょう。
- 著者
- ["アンデルセン", "曽野 綾子"]
- 出版日
「おやゆびひめ」の赤い大きなチューリップの表紙がとても印象的です。記憶の中にある初めて描いたお花の絵が赤いチューリップという人も多いのではないでしょうか。その時の記憶がよみがえるような懐かしい温かさを感じます。
- 著者
- ["与田 準一", "松谷 みよ子", "川崎 大治"]
- 出版日
- 1965-11-20
はじめましての春、なかよしの夏、ちょっと気になる秋、いいことありそな冬がきたと、思い出を男の子がパシャッと心にきざんでいく絵本です。ほのぼのとした好きの気持ちが心をときめかせます。いわさきちひろの絵のページ、窓のある仕かけに、きっと誰もが想像力をふくらませてページをめくることでしょう。
- 著者
- ゆうき まさこ
- 出版日
いわさきちひろ自身、息子へは深い愛をもって接していました。貧困時代は遠くの実家に預け、母乳をあげるために通い詰めたそうです。共に暮らすようになってからはデッサンを多く残しました。それだけの愛情を注いでいた彼女が描く赤ちゃんは純粋な親の愛を受ける子どもらしい子どもばかりです。
- 著者
- 松谷 みよ子
- 出版日
- 1971-08-20
1972年から1973年にかけて、『戦火のなかの子どもたち』は制作されました。子どもを愛するいわさきちひろは“ベトナムから子どもがいなくなってしまうのでは”という不安からこの本にとりかかります。爆撃機から落とされる爆弾によってベトナムのこどもたちが苦しんでいる現実に、戦時中の苦しみを思い出しながら描いたであろうこの作品は、現代に存在する戦場のリアルを思い起こさせるでしょう。
- 著者
- 岩崎 ちひろ
- 出版日
- 1973-09-10
その街の子どもたちはいうことを聞かないと山に住む龍に襲われるというお話を聞かされて育つのですが、ある不思議な坊やはそれを信じず、むしろ自分の誕生日の祝いの席に龍を招きたいと言いだすのです。周りの大人たちや母親は呆れかえりました。
- 著者
- 浜田 広介
- 出版日
- 1965-11-01
それぞれの物語に描かれたイラスト全てがモノクロで描かれています。可愛らしい水彩のイラストから、珍しく輪郭線のはっきりしたデッサン風のリアルなタッチのイラストまで、この一冊でいわさきちひろの多彩な画法を楽しむことができます。
- 著者
- アンデルセン
- 出版日
- 1966-11-25
花の中から生まれたとても小さな女の子、おやゆびひめ。花とたわむれながら楽しく暮らしていたおやゆびひめでしたが、ある日突然ヒキガエルにさらわれてしまいます。それでも優しい魚たちが助けてくれたので、なんとかヒキガエルから逃げ出すことができました。
次にさまよい続けるおやゆびひめを助けてくれたのは、親切な野ねずみ。ところが野ねずみはおやゆびひめに、お金持ちのもぐらのお嫁さんになるよう言います。
もぐらのお嫁さんになれば、暗い地面の下で暮らさなければなりません。悲しみにくれるおやゆびひめ。果たして、おやゆびひめの運命はどうなってしまうのでしょうか?
- 著者
- ["立原 えりか", "いわさき ちひろ"]
- 出版日
- 2005-03-01
童話作家の立原えりかと、いわさきちひろのコンビが手掛ける名作えほんシリーズです。アンデルセン原作の名作を、みずみずしく描いています。
美しい花とともに描かれる、可愛らしいおやゆびひめ。お姫様が大好きな女の子なら、きっと夢中になるはずです。
様々な『おやゆびひめ』の絵本が出版されていますが、子どもへの最初の読み聞かせにはこちらをおすすめ。いわさきちひろ特有の幻想的な淡い絵が物語の世界観を盛り上げ、きっと子どもたちを夢中にさせてくれるはず。
大人が読んでも十分満足できる、美しい絵本です。ぜひ、親子でいわさきちひろの世界を楽しんでみてください。
冷たく暗い海に住む人魚。我が子だけでもにぎやかな人間の世界で暮らしてほしいと願い、小さな海辺の町の神社に子どもを置いていきました。
赤ん坊を見つけて育ててくれたのは、神社へ奉納するろうそく作りをしている老夫婦。その赤ん坊は人魚でしたが、神様からの授かりものだと老夫婦は大切に育てます。そして美しく育った娘は、老夫婦のろうそく作りを手伝うようになりました。
娘の作る美しい絵が描かれたろうそくは、幸運のろうそくとして評判に。しかし、その評判を聞きつけた悪い香具師が、人魚の娘を売るよう老夫婦をそそのかします。香具師が差し出す大金に目がくらんだ老夫婦はついに娘を売ることに……。
人間のエゴ、哀しみを描いた一冊です。
- 著者
- 小川 未明
- 出版日
大正時代に発表された小川未明の名作童話に、いわさきちひろが絵をつけています。
この絵本の作成に取り掛かった時、いわさきちひろは既に癌に侵され始めていました。そのため、この絵本は完成することなく、彼女の遺作となったのです。物語の内容と同様に、絵本を完成させることができなかったいわさきちひろの悲哀が伝わってきます。
この絵本はもともと小川未明の数編の短編をまとめて、それにいわさきが絵をつけるという作品になるはずでした。しかし、病魔に侵された彼女が描けたのは『赤い蠟燭と人魚』だけだったのです。
そのため、完成された絵以外にも、未完のラフスケッチが一緒に収録されています。ラフスケッチとはいえ、いわさきちひろらしい繊細で幻想的な絵は非常に素晴らしく、物語の世界観を盛り上げています。
悲哀に満ちた人魚の少女の物語は、読み終えた後にいろいろなことを考えさせてくれることでしょう。
貧しい兄妹、チルチルとミチル。ある日、謎のおばあさんから病気の娘のために「青い鳥」を探してほしいと頼まれます。その時、渡されたのはダイヤモンドのついた不思議な帽子……。
チルチルとミチルは不思議な帽子をかぶり、幸せの青い鳥を探す旅に出かけます。一体、青い鳥はどこにいるのでしょうか?
- 著者
- ["立原 えりか", "いわさき ちひろ", "Maurice Maeterlinck"]
- 出版日
- 2005-09-23
世界的に有名なメーテルリンクの名作を、童話作家の立原えりか・いわさきちひろのコンビが手掛けた名作えほんシリーズです。
チルチルとミチルの兄妹が、幸せの青い鳥を見つける為に不思議な世界を旅します。どのページも色鮮やかな水彩画が目を引き、思わず部屋に飾りたくなるような美しさです。
兄妹は不思議な世界でさまざまな人たちと出会います。その中でも特に印象的なのが、子どもを愛するお母さん。
「あなたたちをだきしめるたびに、よろこびでつつまれてきれいになるの。」(『あおいとり』から引用)
子を思う母の気持ちが描かれていて、子育て中のお母さんなら思わずはっとする場面でしょう。本当の幸せとは何か?ぜひ、親子で読んでほしい絵本です。
ある寒い日、爺さまは罠にかかった1羽の鶴を助けます。家に帰ってそのことを婆さまに話していると、1人の美しい娘が家を訪ねてきました。
雪まみれで冷たくなっている娘をいたわり、優しく世話する爺さまと婆さま。娘は親がいないということで、そのまま2人の子になりました。
やがて娘は、「決して覗かないでください。」と言ってはた織りを始めます。3日経って完成した布は、大変美しいものでした。
娘の織った布は高値で売れ、貧しかった爺さまと婆さまの暮らしは楽になっていきます。しかしある日、どうやってあんなに美しい布を織っているのか気になった婆さまは、約束を破ってはた織りをしている部屋をのぞいてしまい……。
- 著者
- 松谷 みよ子
- 出版日
- 1966-10-01
『つるのおんがえし』は昔から日本中で語り継がれてきたお話。この絵本では鳥取に伝わる「鶴女房」型のものを元に作られたそうです。
娘に「決して覗いてはいけない」と言われて一度は約束を守った爺さまと婆さま。しかし、2度目は好奇心に負けて娘がはた織りをしている部屋を覗いてしまいます。その結果、2人は大切なものを失うことに……。
子どもに約束を守ることの大切さを伝えることができる絵本なので、ぜひ、親子で読んで感想を話し合ってみてください。
村の子どもたちと楽しく遊ぶ娘の楽しげな表情、そして本当の姿を見られてしまった寂しげな表情。いわさきちひろの繊細な絵が、物語を盛り上げてくれます。
親を亡くした少女カーレンは、親切な奥様に引き取られ何不自由のない暮らしを送っていました。そんなある日、教会の大切な儀式に参加することになったカーレン。彼女が教会へ行くために新調した靴は、真っ赤なダンス靴でした。
美しいダンス靴を履いたカーレンは、思わず踊り出してしまいます。家へ戻ると奥様から「教会へ行くときは古くても黒い靴を履いていかなくてはいけない。」と、叱られてしまいました。
そのうち、奥様が重い病気にかかってしまいます。それでも、カーレンは楽しみにしていたダンスパーティーに行けなくなってしまったことが悲しくて、赤い靴を履いてしまうのです。
赤い靴を履いた足は勝手に踊り出し、家を飛び出すカーレン。必死に足を止めようとしても止まらず……。恐ろしい運命がカーレンを待ち受けています。
- 著者
- ["アンデルセン", "神沢 利子"]
- 出版日
- 1968-08-01
詩人・童話作家の神沢利子が文を、いわさきちひろが絵を描いているアンデルセンの名作です。
美しい赤い靴に惹かれたカーレンは、全てを捨てて踊り続けてしまいます。お世話になった奥様の看病すらできません。しまいには奥様は亡くなってしまい、そのお葬式の様子を遠くから眺めることに……。
カーレンはおしゃれの誘惑に負けてしまったばかりに、罰を受けます。最後には止まることができない足をどうしようもなく、切り落とすことに。おしゃれが好きな女の子たちからすれば、なかなか恐ろしいお話です。
恐ろしい話ですが、最後には神様から救いの手が差し伸べられて静かにハッピーエンドを迎えます。人間の身勝手さ、心の弱さを絵が美しく表現しています。
美しく恐ろしいアンデルセン童話の世界を、いわさきちひろの絵と共に楽しんでみてください。
いわさきちひろが挿絵・イラストを手がけた絵本を紹介しました。絵本だけでなく雑誌や書籍にも多く作品を残している彼女の絵は、人生を通して愛に生きた女性のタッチだと思います。水彩画で優しく、デッサンのようなタッチではっきりとした輪郭を出す絵は彼女の人生そのものではないでしょうか。子どもと家族への愛、世界中のこどもへの思い、平和への願いを様々な作品に残しているいわさきちひろの絵本をぜひお楽しみください。