思春期の学生に強烈に刺さる。取り扱い注意
2009年に単行本化された、6作目の『何もかも憂鬱な夜に』という本をご紹介します。
1週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定する、20歳の未決囚の山井を担当している刑務官の「僕」が、山井とのコミュニケーションを通じて互いに生と死について考え、山井がある事について決意するまでのやりとりを描いた小説です。
- 著者
- 中村 文則
- 出版日
- 2012-02-17
主人公が芸術によって救われ、殺人犯の山井も主人公によって感化されていきます。どちらも少し外れた生き方をしてきた人間であり、その外れた事について理解を深め合っていくのです。
中村文則の小説の特徴である、読者に直接語り掛けるストレートな描写がなされています。その説得部分がまるで読者に直接語り掛けているような描写が多く、読者はこの主人公と山井に共感を覚える事でしょう。
読む人によっては、この二人のやりとりはただの狂人のやりとりにしか思えないかもしれませんが、その場合は完全にエンタメ小説として楽しんでしまいましょう。
中村文則の作品をお得に読む
芸術家の行き過ぎた欲求は自信の破滅を引き起こす
2013年に単行本化された『去年の冬、きみと別れ』は、タイトルから少し察しにくいですが、推理小説の分類に入ります。
ある猟奇殺人事件の全貌及び被告の素顔をあぶり出し、ノンフィクション作品として刊行することを出版社から依頼された、主人公でありライターの「僕」が、被告の木原坂雄大の真相に迫っていく、という話です。
二人の女性を殺した容疑で逮捕されて死刑判決を受けていた被告の木原坂雄大が何故猟奇殺人事件を起こしてしまったのか?という心情的な部分が中心となって描写されます。
中心となるのは被写体への異常なまでの執着が乗り移ったかのような写真を撮る、被告の木原坂雄大に関する話です。この男の真相を暴くという単純な話ながら、木原坂雄大の本人と周りを取り巻く狂気が大きすぎて、まるでSF小説でも読んでいるのではないかという錯覚にさえ陥る、そんな内容です。
- 著者
- 中村 文則
- 出版日
- 2016-04-12
全く共感できない話や、感情移入が出来ない話がこの木原坂雄大という男性からたくさん出てきます。しかし、読者からすると、この男性が写真という芸術に夢中になりすぎている、という事は理解できます。
真相も非常にいびつなものです。狂気の人間がするトリックなど、常人には理解し難い、というか、どうにでも出来てしまうので、推理小説としては、ミステリーファンの中ではあまり評価は高くありませんが、それでも、この濃い世界観は魅力的です。
中村文則の小説の特徴として、挫折感や、不条理な思いを抱えて生きてきた経験がある人間が共感したくなる描写を強烈に作品内でするというものがあります。その為、少しでも木原坂雄大の気持ちが理解できると、この作品の見え方は他の人とは断然違うものとなり、評価も高くなるでしょう。
また、木原坂雄大の狂気と相成って全く予想できないどんでん返しが多く出てきます。どんでん返しの展開や、木原坂雄大の狂気の人生のストーリーを読みたいと少しでも思ってくれた方は、是非この『去年の冬、きみと別れ』をお勧めします。
余談ですが、芥川龍之介の『地獄変』という小説を読了前後で読んでおくと、より両作品を楽しむ事が出来ます。青空文庫で無料で読む事が出来るので、もし『去年の冬、きみと別れ』を読むかどうかで迷っている方は、まずは青空文庫で『地獄変』を読んでみてもいいかもしれません。
壮絶な虐待体験で生まれる、強い生きるという意思
最後にご紹介するのが、2005年に単行本化され、芥川龍之介賞を受賞した『土の中の子供』という作品です。
幼い頃に両親に捨てられて、預けられた遠い親戚に酷い虐待を受ける主人公の「私」が山に埋められるもなんとか生き延びようとする、というストーリー。生々しい虐待描写が多く、ひたすら主人公が暴力に晒されるのを読者視点で見ることになります。『教団X』では生々しい性描写が多く出てきましたが、暴力というジャンル上、『土の中の子供』の方が読んでいて心に刺さるものがあります。
- 著者
- 中村 文則
- 出版日
- 2007-12-21
中村文則の作品を2、3冊読んで、「もう強烈なメッセージが心に来る本を読むのは疲れたよ」という方がいたら、ちょっと敬遠したくなるかもしれません。
ですがご安心下さい。この『土の中の子供』を読んだ人の感想は、「深い」「確かな救いがある」と、前向きな感想が非常に多いです。むしろ、今までの中村文則作品を読んできて、少し疲れたと思った時に、救いのある作品として、本作をおすすめします。