3: 死までのゆるやかな道『10月はたそがれの国』
ブラッドベリの名声を確立させた19編の短編が収録されています。抒情的な作品はほぼなく、彼の初期作品の特徴であるホラーや怪奇物がほとんどです。どの作品にも悪夢と死の影がつきまとい、容赦のないバッドエンドが待ち構えます。精神的に余裕があるときに、読むことをお勧めします。今回は、特に後味の悪い『つぎの番』『使者』をご紹介します。
- 著者
- レイ・ブラッドベリ
- 出版日
- 1965-12-24
『つぎの番』の主人公は、メキシコ旅行中の若い夫婦。ある小さな町で観光をしていると、町人から「ここでは死人をミイラにして墓地に安置している」と聞きます。学術的にミイラに関心のある夫は、嫌がる妻を連れてミイラを見に行きます。妻は、土の中の狭い空間にずらりと死人が立つ姿を見て、死の恐怖におののきます。妻は、強迫観念にかられ、旅行者であるにも関わらず、「自分も死んだらミイラにされこの町に安置される」と思い込むように。墓地を離れてからも「私が死んだらあそこに入れないで」と、何度も狂ったように夫に頼みます。夫は「馬鹿な事をいうな」と一笑に付しますが、ノイローゼになった妻は体調を崩し…。
非常に短い短編で、物語の最後の数行までなにが起こったのかわかりません。妻に異変が起きたことはわかりますが、具体的な事件や、夫の感情描写がほぼないため、読者が想像するしかなく、モヤモヤ感が残ります。ラストの夫の晴々した様子には、疑問を抱かざるを得ません。再読すると、初読時には気づかなかった含みに、はっとさせられることでしょう。
『使者』は、体が弱くほぼ寝たきりの少年と、彼の飼い犬のお話。外に出られない少年が季節の移り変わりを知ることができるのは、犬のおかげです。外で自由に走り回る犬が、彼の元に、秋の風と匂いを届けてくれます。
少年の話し相手は、彼の元に訪ねに来てくれる学校の若い女性の先生でしたが、ある日、彼女は自動車事故で亡くなります。死の冷たさを知った少年は、犬に「訪問者歓迎」の札を付け、自分の部屋を訪れる友達を望むようになります。
ある日、犬の様子がおかしくなり、行方をくらまします。外部から情報を得られず、閉ざされる少年の世界。やがて季節は、冬に移り変ります。ドアの向こうには、誰かが立っている気配がします。
鍵となるのは、先生が亡くなった際に、少年が母親に「お墓の中で横になってばかりじゃあきるだろう。どうして時々起きてこないの?」と聞いたこと。
オチは、日本の幽霊話を思わせます。犬は、誰をどこから連れてきてくれたのでしょうか?少年のその後は、読者の想像にゆだねられています。
4: 人の心からあふれ出す毒『メランコリイの妙薬』
他の短編集と比べると毒は控えめで、ブラックな結末の作品はほぼありません。しかし、ハッピーエンドかといわれると疑問が残るような、モヤモヤ感が残ります。メルヘンチックな内容が多く、読みやすいお話が多いです。本作で収録されている22編の中から、今回は、現代社会に警鐘を鳴らす『誰も降りなかった町』をご紹介します。
- 著者
- レイ・ブラッドベリ
- 出版日
殺人願望を秘めた男が、長年温めてきた計画を実行しようと駅に降り立ちました。見知らぬ街の見知らぬ人間を殺す計画。標的にされた老人は、「私も待っていた。殺しても後腐れのない余所者(よそもの)が来ることを」と思いがけないことを言います。会ってはいけない人間同士が、関わってしまったのです。
誰もが無自覚に抱える闇に焦点が当てられています。爆発しそうなストレスや、鬱屈を抱えているのは、自分だけとは限りません。極限まで追いつめられた人間は果たしてどうなるのか、と考えさせられます。
5: ホラーと幻想的な作品の傑作集『黒いカーニバル』
24編が収録された、ブラッドベリ初期作品の傑作集。ホラー作品と、幻想的な作品の割合は半々であり、両方の世界観を堪能したい方におすすめです。今回は、特に抒情的な『青い壜』をご紹介します。
- 著者
- レイ ブラッドベリ
- 出版日
- 2013-09-05
舞台は、地球がほぼ壊滅した近未来。都市も崩壊し、生き残る人間もわずか。そんな折、世界のどこかには、手に入れた者の願いをなんでも叶える「青い壜」がある、という噂が流れます。「年を取りたくない」「金持ちになりたい」と多くの人間が、「青い壜」を探します。主人公も、壜を手に入れるため、奔走します。「俺は酒が飲めればそれでいい」という欲のない無害な友人を引き連れ、破壊行動や、壜の奪い合いに身を投じていきます。
金銭を手に入れたい主人公は殺人もいとわず、青い壜を手に入れます。しかし、壜の飲み物を飲んだ途端、なにかが起こります。一方、壜をめぐる争いに興味のない友人。迫る人類滅亡を受け入れ、小さな喜びを見つけながら静かに生活し、現状に満足しています。
どこまでも欲深い人間と、欲のないつましい人間。本当の幸せとはなにか−−両者の違いから学べることは多いはず。