猫型生体機械がお届けする未来SFの最高傑作『ねこのめシリーズ』
この作品は、『天秤の錯覚』、『羅針盤の夢』、『六分儀の未来』の3冊からなるシリーズです。
猫型生体ロボットであるジゼルは、惑星エルシにある銀河随一の企業E・R・Fコーポレーションの会長夫妻の娘・なつめが飼い主。ジゼルは身体の弱い彼女のために内蔵レコーダーで銀河の様子を撮すため、彼女の兄である会長代理のアスラと旅に出ます。二人は魔法使いが失敗してできた穴をふさぐために、二人は辺鄙な田舎の惑星・桔乃藻のとある村を訪れます。
その村にいた夕見という記憶喪失の少女と出会いますが、その正体は穴の調査用に製造された人型をした完全なる機械であるサイバノイドだと、アスラはジゼルに告げます。ふとしたはずみで、村の子供が穴に落ちたことをきっかけに、夕見は自分に組み込まれたプログラムとその存在意義を思い出し、子供を救い出すのでした。
天秤の錯覚
小林めぐみ
KADOKAWA / 富士見書房
主人公であるジゼルは、また、他の惑星を訪れて冒険しながら、人と機械の境目を見つめていきます。人工知能を持つもののプライド。いつも人間のプログラム通りに動くジゼルやサイバノイドたちの感情。コンピューターが大暴走したときだって、機械はプログラムに忠実だったに違いないと思ってしまいます。
かわいらしく人語でおしゃべりをする猫型生体機械といえば、誰もが一度は夢見る存在ではないでしょうか。ですが、ジゼルの存在を身近に感じれば感じるほど、人間と、脳を持つジゼル、自我を持たないサイバノイドの関係を通して、心は一体どこにあるのだろうと改めて考えてしまう作品です。一番残酷なことができるのは、やはり人間なのかもしれません。
考え始めると非常に深いテーマが見え隠れしますが、α軸走行、反重力システム、科法使いといったSF心をくすぐられる言葉が多く出てきます。ぜひ3冊まとめての銀河をかけめぐるジゼルの冒険と成長ぶりをお楽しみください。
生物系スペースオペラ『宇宙生命図鑑 - book of cosmos』
惑星ジパスの新米博物館学芸員となった芳沢トキ乃。雑用ばかりの毎日に少し疲れてきたころ、
スペースバスで出会った神父アレクと、三毛猫のように見えるガラリア星人セイジロに誘われて、研究対象であるヒーラーの遺跡を訪れることにします。アレクは教会に伝わる「宇宙生命図鑑」の欠落したヒーラーについての改訂作業をしているというのです。
著者
小林 めぐみ
出版日
惑星ジパスの原住民であり、農耕中心の生活をしているヒーラーは、雄がいなくなり、雌のクローニングだけで繁殖しているといいます。ヒーラーのうち、子供を産むのはがっしりとした武骨なクバシムで、華奢なヒリは子供を産みません。トキ乃が出会ったのは、クバシムであるディリと、ヒリであるウルマ。そして、セツワ。
なぜ雄はいなくなったのか。誰が古代遺跡を作ったのか。クローニングの繁殖に、果たして愛はあるのか。
遺伝子を変えていくことで環境に順応させていくことが進化の常ですが、心がそこについていけなくなることもあるのかもしれません。種族に逆らっても、ディリとウルマが自分たちの気持ちを選んだことが正しかったのかはわかりません。それでも、二人が幸せになってほしいと願う人が多いのではないでしょうか。
あなたもこの図鑑の一項目が埋まる瞬間に、立ち会ってみませんか?
幼な妻が繰り広げるSFコメディ『食卓にビールを』
主人公は結婚してまだ6か月、なんと16歳の女子高生兼新進気鋭の小説家です。物理とビールをこよなく愛する彼女が、ほんわかとした日常の中で出会う不思議でおかしなSFコメディ短編集です。
何気なく手助けした女の子は、なんとミミズ型宇宙人だったのです。目覚めると家は、同じ顔をしたエイリアンが十人もいで、地球侵略の基地にするといいます。ところがひょんなことから釣りを教えることになって……。果たして、彼女は宇宙人の侵略を防ぐことができるのでしょうか。
食卓にビールを
小林めぐみ
KADOKAWA / 富士見書房
このお話はそんな空想の世界と現実の世界が奇妙に混じり合った世界観が面白いのです。ある時の舞台は住宅展示場。シンク下には巨大なコントローラがあって、家を航行操作できます。窓のシャッターが閉まると、あっという間にそこは銀河です。いつの間にか、他の不動産屋さんと、家レースが始まってしまいます。
この作品では、緊迫した雰囲気や戦争で誰かが死ぬようなことはありません。お気楽な日常に、お気楽なSFが奇想天外に入り込む、予想もつかない展開が繰り広げられるのに、どこかほんわかとした作品です。各短編の間に挟まっている、これまた奇想天外な謎の手紙もSFらしさが満載です。お供にはもちろんビールを用意して、お楽しみいただきたい作品です。