黒柚木作品。ネットで幸せアピールしていませんか?
主人公の耶居子(やいこ)は女子大を卒業して就職したものの同僚になじめず短期間で退社、その後のアルバイトも長続きせず実家の6畳間に引きこもり食べてはゴロゴロする生活です。そのため太って肌はボロボロ、お世辞にも美女とは言えません。そんな彼女の楽しみはネットで幸せそうな記事を見つけては攻撃することでした。自分の幸せを見せびらかすようなブログに悪口を書き込み炎上させたり、個人情報を調べ上げては嫌がらせのメールを送ったりするような日々の中でした。
その中でも、特に気になっていたのは「嘆きの美女」というサイトです。美人ならではの悩みを美人同士で話し合って解決しようというコンセプトの元に、耶居子から見れば傲慢で鼻持ちならない悩み事を投稿する女たちを次々に攻撃してサイトを休眠状態に追い込んだのですが、サイトの管理人が時々アップする記事の内容や写真から、美女たちが有名なケーキ屋に集まる事を探り当てます。自称美女の本当の姿を写真に撮ってネットにさらしてやろうと思い、耶居子はケーキ屋に待ち伏せに行くのですが、そこに自分と同じく美女の隠し撮りを目的にした男が現れ、逃げる男を反射的に追いかけた耶居子は車にはねられ重傷を負う羽目に。
- 著者
- 柚木麻子
- 出版日
- 2014-06-06
気が付くと耶居子は変質者から自分たちを守ってくれた恩人だと美女たちから誤解されていて、サイトの管理人のユリエと3人の美女が同居する家で手厚くもてなされ療養することになるのです。最初は心の中で美女たちに毒づいていた耶居子でしたが、彼女たちの人柄や今までの人生を知り、自分の先入観だけで攻撃していたことに気付かされます。また彼女たちと同じ食生活をするうち、耶居子は痩せて肌荒れもなくなり、いつの間にか綺麗になっていました。もともと機知に富んでいるうえ魅力的になった耶居子に男性も興味を示すようになり、美女たちとの間にも友情が芽生えていくのですが、ユリエの彼が耶居子に関心を持ったことから、優しかったユリエが豹変して……。
物語は序盤から耶居子の悪口雑言が繰り広げられるのですが、読んでいて不快感を覚えるどころか、むしろ引き込まれてしまいます。それは彼女の悪口が妬みや僻みといったマイナスの感情から発生するものではなく、純粋な怒りから生まれるものだからです。現実にもあふれている人のあざとい心や卑怯なところを敢然(かんぜん)と暴く耶居子の痛烈な毒舌は爽快そのもの。思わずニヤリとさせられます。
灰色の柚木麻子。幸せすぎるラストシーン
聖鏡女学園中等部2年生の範子は、気の合うチヨジ、スーさん、リンダさんたちと地味でも平和で楽しい毎日を過ごしていました。ある日、事件が起こり、クラスでの公開裁判の挙げ句、王妃と称される滝沢さんがクラスカーストのトップである姫グループを追われてしまい、範子たちが迎え入れねばならなくなります。
滝沢さんはとても傍若無人で、仲間たちのバランスも崩れてはじめ、かつての穏やかで平和な毎日を取り戻すために、範子たちは……。
- 著者
- 柚木 麻子
- 出版日
- 2015-04-04
黒とも白とも区別できない、いうなれば灰色柚木作品というところでしょうか。
誰もが経験のある傷つきやすい時代の物語。ちょっとした差異で仲間付けされ、カーストがつき、常に誰かと比べて過ごしていた教室での風景が浮かび上がってきます。毛色の違う者同士は仲良くなれない、つるめないが前提だったことをふっと思い出して、苦笑いしてしまうかもしれません。それくらいに教室での様子が生々しくも痛々しく描かれています。
苦しくなったり、つらくなったり、登場人物たちといっしょに怒ったり、やりきれない気持ちになったり。まるで教室にいて、彼女たちを見守っているような感覚に陥ることでしょう。
ラストシーンがなにしろ素晴らしいのですが、それを味わうためにも多少苦しくてもそこへ向かって読み進めて欲しい傑作です。
灰色の柚木麻子。あなたの友は本当に心からの友と言えますか?
人はそれぞれ人生の中で様々な人に出会いますが、仲良くなれる人もいれば苦手な人もいるでしょう。友達だったはずの人が何かのきっかけで急に嫌いになったり徐々に離れていったりすることもありますよね。
『本屋さんのダイアナ』は2人の少女の友情を描いていますが、友情物語の一言で片づけられる単純な作品ではありません。柚木麻子は少女文学のような誰にでも読みやすい文章の中から、人の生き方について鋭く問いかけています。本作を読み進めるうちに、友達を選ぶということは自分の生き方を選ぶことなのだと気付かされるでしょう。
- 著者
- 柚木 麻子
- 出版日
- 2016-06-26
こちらも灰色の柚木麻子作品。
主人公の女の子は純日本人なのに名前は「ダイアナ」、しかも漢字で書くと「大穴」。学校で自己紹介をするたびにクラスメイトから馬鹿にされ傷ついてきました。ダイアナの母親はキャバクラ勤めのシングルマザーで、チャラチャラした服装に軽薄な喋り方、小学生のダイアナの髪を自分と同じ金髪に染めるような人です。ダイアナは名前と金髪のせいで学校では孤立し、家に帰れば母は毎晩のように留守、唯一の楽しみは図書館で借りた本を読みふけることでした。
そんなダイアナに転機が訪れるのは小学校3年生の新学期。いつものようにクラスで名前を馬鹿にされていたとき、彩子という同級生が自分をかばってくれます。実は彩子も本が大好きでよく図書館に行くのですが、そこで見かけるダイアナにずっと前から興味を持っていたのです。彩子は裕福な両親に育てられた優等生ですが、ダイアナの人目を惹く美貌や自分と全く違う生い立ちなど自分にはない非凡な個性を羨ましく思い、ダイアナはその個性ゆえに常に嫌な思いをしてきたので、彩子の上品さや知的で優しい両親、裕福な家庭など誰にも恥じるところのない彩子の恵まれた境遇に憧れます。
しかし彩子は苦労知らずに育ったせいで実は自分勝手なところがあります。自分は中学から親のすすめる私立のお嬢様学校に進学するのですが、ダイアナと離れたくないため「ダイアナのお母さんは自分の親より休みなく働いているのだから、いざとなればまとまったお金が作れるだろう」などと思うようなところがあるのです。彩子はよかれと思ってダイアナを自分が受験する中学校の下見に誘うのですが、そこでダイアナが感じたのは自分と彩子との大きな格差、自分ではどうすることもできない厳しい現実でした。しかも彩子は、ダイアナが自分に知らせずに同級生の男の子と一緒に出掛けたというだけで理由も聞かずにダイアナに絶交を言い渡してしまいます。
その後2人は別々の人生を歩み10年後に再会することになるのですが、物語はその間のダイアナと彩子を交互に描きながら進みます。ダイアナはいつか本屋で働くことを夢見ながら公立の中学・高校と進学する中で周囲に溶け込む努力をするのですが、ただの誤解から心ない友人に深く傷つけられてしまいます。彩子は優等生として中高一貫の女子校生活を送ってきましたが、温室のような環境から抜け出したいとの思いで共学の大学に進学し、そこで人生で初めて他人から心に大きな傷を負わされるのです。人から理不尽に傷つけられてきたダイアナ、無意識のうちに人を傷つけてきた彩子、2人がそれぞれ選んだ道は……。
子供から大人へと成長する過程で何を受け入れ何を拒むべきなのか、自らの意志で何を選択し何を捨てるべきなのか。自分が歩んできた道をもう一度見つめ直したくなる一冊です。