あったかいごはんを一緒にたべよう。『僕らのご飯は明日で待ってる』 瀬尾まいこ
他人に無関心な葉山亮太と、しっかり者であっさりとした上村小春の、高校生から大人になるまでの長編恋愛小説です。一緒に食事をすることでお互いを知り、やがて食卓を囲む家族になるまでの7年間を描いています。
高校最後の体育祭で、一緒に米袋に入って50m競走する競技に、出場することになります。
三年前に慕っていた兄を失ってから、亮太の心は時間が止まっていました。人が死ぬ小説ばかり読んで過ごす亮太は、天真爛漫でずけずけと物を言い放つ小春と過ごすうちに、止まったままだった心が動きだします。
好きという気持ち以上に、何かに惹かれ合う二人。情熱的ではない二人だけど、いざというときに伝える熱い想いに、胸を掴まれます。
- 著者
- 瀬尾 まいこ
- 出版日
- 2016-02-24
やがて、家族になった二人は、幸せな未来を思い描くのですが、待っていたのは、つらい現実でした。病気に襲われた小春の叫びは、胸に耐え難い痛みを生み出します。そして、亮太に支えられ、二人はある決断をするのです。
幸せのかたちは人それぞれで、二人の選んだ未来に、考えさせられ胸が熱くなります。そして、自分にはないものに、気付かせてくれるかもしれません。
淡白なのに、温かい優しさを感じる二人の会話は、コミカルに展開していくのですが、この絶妙な距離感で交わされるやり取りが「共に生きる」ということなのかもしれない、と思わせてくれます。「あなたがいれば、わたしは大丈夫」こんな風に思えるその気持ちは、最高の愛ではないでしょうか。
「絵」の真実 『黄色い目の魚』 佐藤多佳子
絵を書くことが大好きな悟木島悟と、絵が大好きな村田みのり。それぞれの視点で交互に、6章で恋模様が描かれた恋愛小説です。
16歳の、感情の針が激しく揺れ動く時期、授業中に落書きばかりしている悟と、叔父にしか心を許さないみのりが出会います。揺れながら、揃わない足並みながらも、少しずつ心を通わせていく二人。その二人が惹かれていくプロセスが、わかりやすく連ねられていて胸が捕らわれます。描かれた何気ない無意識なしぐさ、それらが与えた躍動感に、いつの間にか物語の中に引き込まれてしまいます。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2005-10-28
死んだ父親の影響で絵と出会った悟と、叔父が漫画家であることで絵と出会ったみのりの、二人にしかない感情。終始、“絵”を通して「描く」「描かれる」ことで、自分自身やお互いを見つめ、そして向き合っていく様子は涙が止まらなくなります。それでいて、誰にでもある譲ることのできない自分を、自然な形で認めてくれるような、そんな作品です。どんなに時を経ても、自分の本質は何も変わらない。そのままの自分でいい、そう感じるだけで、心が温かくなる恋愛小説です。
恋心に、部活に、家庭問題に悩み、そして周りに迷惑をかけている大人の生き方を目の当たりにしてきた二人が、自分がどう生きたらいいのか迷いながら、心身共に成長していく様子が、とても綺麗に感じます。不器用で純粋な距離感は、二人の心情が凄く伝わり、二人の目を通して見える世界は瑞々しく、心が洗われるようです。
言葉にできない、心に潜む感情の激震が、丁寧に紡がれた恋愛小説に、心の奥深くでズシンとした青春と恋の痛みを感じてみませんか?
想い宝石箱 『放課後の音符』 山田 詠美
大人の感性が早くに芽生えてしまった「わたし」と、彼女を取り巻く少女たちの奏でる恋愛賛歌。恋に磨かれていく少女たちを傍観し、「わたし」も大人へ踏み出していく恋模様が8編で紡がれた恋愛小説です。美しい言葉で表現し包み込み、香りも音も感じられるほど魅力的な作品です。
主人公たちの恋、男の人と夜を共にすることへのひそかな興味、それをどう受け止めたらいいのか迷う少女たち。もう子供じゃないけど、まだ大人にはなれないもどかしさが、心の奥で共鳴します。アンクレットや香水で、少し背伸びしてみるドキドキ感がふんわり溶けていく様は、かつての自分の心も浄化されていくようで、じわじわ胸に沁みます。
友人の妊娠や片想いに失恋、友人たちが女性への階段を上りはじめる様子を傍観してきた語り手である「わたし」の心が揺さぶられるも、自分の想いを受け止め女性の階段を上り始めます。「わたし」のたどり着いた、女性への道のスタートラインはちょっぴりスパイスが効いていてドキドキしてしまいました。
男女をカクテルで表現したり、恋をスパイスと表現したり、じんわり胸を打ちながらも遊び心のある描写に読む手が止まらなくなる恋愛小説です。
- 著者
- 山田 詠美
- 出版日
- 1995-03-01
幼いけれど純粋な好奇心に満ち溢れた淡い想い。それは遅かれ早かれぶつかる壁ですよね。恋に恋したり、青春の時間を無駄遣いしたり、でもそれは費やさなきゃいけない大切な経験です。精一杯大人の女に見えるための努力をして、いくつもの放課後を乗り越え大人になっていくんですよね。
みずみずしさに溢れ、切なさがずっしりとつまった、宝石箱のような彼女たちの恋模様は、傍観者だった「わたし」が素敵な恋に出会えたように、傍観者だったはずのあなたも、いつの間にかこの恋愛小説の主人公にさせてくれるかもしれませんね。