まさに「ミステリーはユーモアともに」という東川篤哉の作品。
東川篤哉は1968年に広島県尾道市で生まれ、岡山大学法学部を卒業後はガラス壜メーカーの経理部門に勤務しましたが、26歳のときに退社しています。月収12~13万円程度のアルバイト生活を経て、鮎川哲也が編集を務める公募短編アンソロジー『本格推理8悪夢の創造者たち』に『中途半端な密室』が採用されました。当時のペンネームは東篤哉。
2002年に有栖川有栖の推薦を受け、『密室の鍵貸します』で本格的にデビューを果たしました。
2010年に発売された『謎解きはディナーのあとで』は初版7000部だったのですが、じわじわと部数を伸ばし、なんとシリーズ累計320万部。東川篤哉はベストセラー作家の仲間入りを果たし、この作品は自身の代表作にもなりました。
作中にユーモアあふれるかけ合いやギャグを織り混ぜることで知られていますが、基本的にはトリック重視の本格派です。贅沢にトリックを取り入れた『交換殺人に向かない夜』や軽やかな仕掛けが魅力の『もう誘拐なんてしない』まであり、東川篤哉は見事に書き分けています。
広島県出身ということもあり、広島カープのファンで、作品にはカープに限らず野球がよく登場します。
また、東川篤哉はインターネットや携帯電話は使用したことがないらしく、情報を得るのはテレビや新聞だと言うことです。
探偵執事と新米刑事のお嬢さまが活躍するユーモアミステリー 『謎解きはディナーのあとで』
世界的な企業グループの令嬢であり、新人刑事でもある宝生麗子が遭遇するいくつもの難解な事件を、彼女の執事の影山が概要を聞いただけで推理して解決に導いていく連作シリーズ。
言うまでもなく東川篤哉の代表作です。初版部数が少なかったわりに書店員から強い支持があったようで、各書店では大々的にキャンペーンが展開され、発売からわずか3日で重版が決定し、朝日新聞の書評コーナーやTBSの「王様のブランチ」で紹介されるなどの話題性もあって、半年後には100万部を売り上げました。東川篤哉は、この作品で2011年の本屋大賞も受賞しています。
「影山が麗子に対して丁寧かつ無礼な暴言を吐くときは、彼の頭の中で推理が確信に変わったときだ」と作中にもあるとおり、本格ミステリーでありつつも、執事であるはずの影山が主の麗子に暴言を吐いたり、麗子と上司の風祭との丁々発止のやりとりがユーモアいっぱいでコミカルで、気軽に楽しめる東川篤哉の作品になっています。
- 著者
- 東川 篤哉
- 出版日
- 2012-10-05
連載されていた小説誌「きらら」の読者層がおもに女性だったことで、ミステリーを読み慣れていない人たち向けに考えられた作品だったということも、この読みやすいテイストに繋がっているのでしょうね。
刑事としては地味に徹しつつも、非番の日はしっかり「お嬢さま」として振る舞い、パーティやショッピングに出かけます。おしゃれ大好きで、衣装選びの長さで影山を呆れさせたり、買い物に熱中するあまり、どうして買ったのかわからなくなるようなものを買ってしまったりする麗子と、ダークスーツに銀縁眼鏡姿で、謹厳実直を絵に描いたような仕事ぶりを見せつつ、麗子には丁寧な言葉使いで毒を吐く影山の対比がとにかく魅力的な作品。
東川篤哉の作品をまだ読んだことのない方はぜひ一度手にとってみてください。
探偵部副部長のまわりには事件が多い『放課後はミステリーとともに』
東川篤哉のシリーズもののひとつ「鯉ヶ窪学園」シリーズの番外編にあたります。主人公は鯉ヶ窪学園探偵部副部長の霧ヶ峰涼。シリーズ本筋も物理トリックを織り交ぜた技法を駆使して、読者を欺くミステリーとしてかなり面白いのですが、ヒロインの魅力をとって、あえてこちらを紹介します。
正直に言ってしまうと、ミステリーに名を借りたドタバタ青春モノなので、最初のページに、本作品集は、ミステリーの仕掛けをご堪能いただくため、第1話「霧ヶ峰涼の屈辱」からお読みくださるようお願いいたします、との注意書きがあるのが、なんともお茶目です。
- 著者
- 東川 篤哉
- 出版日
- 2013-10-04
事件は一応起こるものの、びっくりするほど涼が推理を的中させず、エアコンみたいな名前をいじられるばかり。推理を当てるのは他の人なのですから、普通のミステリーなら狂言回しになるであろう役柄です。いうなれば、金田一映画の「よーし、わかった!」の警部さんみたいな感じですね。
東川篤哉はミステリーのシンプルなネタを膨らませ、コミカルなの話として作り上げるのがほんとうにうまいなぁと思います。随所に彼の広島カープ好きを感じさせるネタも登場します。わかるひとには、にやりですよ。
本筋の東川篤哉の「鯉ヶ窪学園」シリーズと組み合わせて読んでみてくださいね。