文学性の高い小説が多いと思われがちですが、違う楽しみ方のできる作品もあるのをご存じですか?生きることに悩んでいる時、不安に苛まれている時に、あなたが一歩踏み出すエネルギーとなる考え方を与えてくれる宮本輝の小説をご紹介します。

借金取りから逃げ、不安を感じながらの毎日の中で、登場人物の一人である陽子の存在が、哲之の希望となっていきます。けなげに哲之を信じ、素直に受け入れる陽子。愚直なまでに真っ直ぐな思いを陽子にぶつけるように、何も武器を持たない哲之は何事もそらさずぶつかっていきます。有名大学でもなく、借金を抱えた家庭に育ち、いつも弱音を吐いている哲之。等身大の若者像が、読む者の共感を呼び起こします。 若い時は、自分に自信もなく、拠り所にする武器もありません。そんな若者は、素直に相手にぶつかることが、唯一の方法なのです。
- 著者
- 宮本 輝
- 出版日
- 2010-05-07
幼児の頃から療養生活だった志穂子にとって、絵葉書は生まれて初めて受け取るラブレターでした。その時、それまで自覚したことのない無自覚の歓喜が生まれます。それは、自分の中の不幸や無気力を乗り越えられるエネルギーそのものが歓喜したようなものでした。志穂子は一歩踏み出します。終わりでなくて、いつでも始まりなのだと信じて。
- 著者
- 宮本 輝
- 出版日
- 2008-05-15
青春の時代。それは、煌びやかで何かを得ることのできる希望の溢れる時代と思われているふしがあります。しかし、むしろ逆で、「失う」時代なのかもしれません。まだ何も持っていないのに、失う。あるものを失うのでなく、ありたいという「思い」を失うのもかもしれません。
- 著者
- 宮本 輝
- 出版日
富樫が深夜のテレビ番組で見た、地球から五千光年彼方にある巨大な星雲。その中の星の誕生と消滅。星雲がひとりの人間に見えてきます。生まれ、生き、創造し、絶え間ない生命活動を行い、やがて死んでいく一人の人間だと。ひとりの小さな自分という人間も、このとんでもない宇宙の片隅の星雲も、共通したエネルギー、もしくは同じ波長のリズムによって生命活動を営んでいると気づかされるのです。
- 著者
- 宮本 輝
- 出版日
「心は巧みなる画師の如し」主人公の志乃子の座右の銘であり、絶えず自分に言い聞かせている言葉です。人が心に描いた通りに、現実となっていくこと。願望実現と言えるものかもしれません。
- 著者
- 宮本 輝
- 出版日
- 2015-07-17
妻の亜紀と夫の有馬靖明は愛し合って結婚しました。亜紀は星島建設の一人娘で、星島建設に就職した有馬は社長である妻の父から会社の後継者にと望まれており、2人の結婚生活は裕福で順調であったはずなのですが、ある夜、警察からの突然の電話でその幸せは破られます。
その夜、仕事で出かけていたはずの有馬は、実は瀬尾由加子というクラブのホステスと旅館に泊まっており、2人で心中を図ったというのです。急いで病院に駆け付けた亜紀は、無理心中を図った由加子がナイフで有馬を刺した後、自分も喉を切ったことを知ります。結局、由加子だけが死に有馬は助かるのですが、その事を契機に2人の関係は急速に冷え、離婚に至ったのでした。
- 著者
- 宮本 輝
- 出版日
事件について一切語らなかった有馬に対し、亜紀は真実を教えてほしいと手紙を書きます。最初は二度と亜紀からの手紙は読まないし返事もしないと返信した有馬でしたが、その後も一方的に送られる亜紀の手紙の中に書かれていたある一言から、有馬も手紙を書き送るようになるのです。
離婚した後、亜紀も有馬もそれぞれ不幸を抱えて生きており、亜紀はその原因は全て有馬の不貞から始まったことだと思っており、有馬は自らの現状は運命や業といったものが原因であると思い無気力に生きていたのですが、それぞれ自分の気持ちを正直に書く事で自らを客観視できるようになり、相手の思いを知ることで、思いやりの心と共に現実に立ち向かう勇気が芽生えていきます。
読者は全ての物語を、別れた夫婦が送りあう手紙を読む事で知ることになります。状況説明や他人の言動などは全て手紙の中にしか書かれていませんが、宮本輝の文章力と構成力の巧みさは各場面の情景をありありと描き出し、読者に何の不足も感じさせません。
偶然と必然の重なり合いで途切れたり絡まったりした人生の糸を紡ぎ直し再生させていく過程を往復する手紙だけで表現した、卓越した文章力を持つ作者ならではの秀作です。