思春期の少年少女の心理を描くことで、定評のある辻村深月。作風は、透明感のある文章と、各作品で登場人物がリンクしているのが大きな特徴と言えるでしょう。2012年には直木賞を受賞した彼女の作品を紹介したいと思います。

ホテル・アールマティで働くウェディングプランナー山井多香子。25歳まで勤めていた小さな出版社を辞めてプランナーになる専門学校へ入り、転職して5年が経ちました。
11月22日の大安吉日。ホテル・アールマティでは4組の結婚式が行われ、この4組の結婚式を時系列で、各カップルのそれぞれの登場人物と、多香子の目線で語られていきます。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2014-01-25
結婚式当日にも関わらず、新婦の加賀美妃美香は一卵性双生児の姉の鞠香と入れ替わりをしてしまいます。
多香子が結婚式の担当をしている、自分の非を認めないクレーマー新婦の大崎怜奈は、どこか憎めないキャラクター。
白須りえの甥っ子の真空は、大好きなりえちゃんが東君に殺されると思い込み、ある行動を起こしてしまいました。
鈴木陸雄は、実は結婚しているのに浮気相手のあすかと結婚式をあげることになっています。
登場人物の目線の語りで話が進み、しかもどんどん語る人物が入れ替わるので、読み慣れるのに少し時間がかかりますが、次第に話に引き込まれていきます。
後半起きる騒ぎにより、物語は大きく方向転換。幸せになれるのかどうか不安しかなかった4組のカップルはどうなってしまうのか。411ページと少し厚く感じてしまいますが、あっという間に読み終えてしまう作品です。
主人公は長野県にすむ普通の中学2年生、14歳の小林アン。母親が『赤毛のアン』が大好きで、この名前がつきました。
アンは学校では「リア充」と呼ばれるグループにいて、芹香や倖とバスケットボール部に所属しています。その中でのいじめや確執。母親の思い通りになりたくないという葛藤に悩んでいます。
アンの隣の席にいる、徳川勝利は教師の息子で、「ショーグンJr」と呼ばれ、クラス内での冴えない「昆虫系」に属し、どちらかといえば目立たなく、浮いている存在です。そんな徳川も、人には知られたくない秘密を抱えて苦しんでいるのです。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2015-05-20
徳川にアンは「自分を殺してくれない?」と依頼をします。「いいの?」と聞き返す徳川。「これは、悲劇の記憶である」という出だしから始まる「悲劇の記憶ノート」に殺され方、自分の死後に徳川にして欲しいことなどを書いていくアン。
アンと徳川が起こしたい「事件」は、意外な、予想もつかない結末で幕を閉じます。その結末とは?
クラスの上下関係や家庭での悩み、大人が読めば、自分にもあったと懐かしく感じるでしょう。物騒でグロテスクな表現もありますが、アンと徳川の成長した、不思議なくらいに爽やかなラストシーンまで一気に読んでしまいます。
『光待つ場所へ』は、表面的な付き合いが得意ではない主人公たちの、心の奥を描いた短編集です。本当はこんな風に思っているんだけど、そんなのはよくないことなんだと思い込んでいる人たちがいます。そんな人たちが、自分の思うとおりに生きてもよいんだと気づくまでの心の変遷が描かれた物語集です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2013-09-13
短編「しあわせのこみち」は小さい頃から絵が上手かったあやめの物語です。あやめは自分の絵の才能と他人の絵の才能をいつも比較し、自分の才能は他人よりも優れていると自覚してきました。そしてそれ以外の才能、例えば恋愛といった才能は諦めていたのです。そんな心の奥底を理解して接してくれる友達、田辺に出会います。
彼の作品を見た時、あやめは初めて自分にはかなわないという敗北感を抱くのです。でも、そんな彼と接していくうちに、あやめと考え方が似ていることがわかります。才能がありながら実は必死になって絵と向かいあう彼の姿勢を知り、彼を好きになり、自分の絵に対する思いを改めるのです。そしてあやめはこれまでとは違った想いがあふれる絵を描き、賞を取ることができます。自分の想いを絵に表すことができ、思いを遂げたのです。
いつでも自分自身でよいんだ、という物語を紡いでくれる辻村深月はやっぱり人の想いをきちんと表現してくれる作家です。日々の生活がやるせなくなったとき、『光待つ場所へ』を手に取り、ほっとしてみてはいかがでしょうか。
小学生時代や中学高校時代をふりかえると、感激したり落ち込んだりした時のような強い印象とは別に、ちょっとした出来事を鮮明に憶えていることがあります。どうしてそのシーンだけ切り出して憶えているのかはわからないけれど、そのシーンはしっかりと憶えているのです。
そんな思い出に、実はあなたはこんな風に考えてたり思ってたりしたんじゃないか、相手はこんなことを考えていたんじゃないか?といった感じで、辻村深月が言葉にしてくれます。表題作である短編「ロードムービー」は小学校で特別な友達になったトシとワタルの二人の思い出です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2011-09-15
ワタルの父親が経営する会社が清算されることになり、二人は別れ離れになることになります。別れ離れになりたくないトシは借金分である1,000万円を身代金として親に要求し、二人で家出するのです。
子どもだけの二人の逃避行は3日目にあっけなく終わります。トシとワタルが一緒に家出するほどの仲になった理由は、学校内で相性が合う二人を仲間外れにするようなイジメでした。二人が一緒に乗り越えてきたその過程を、辻村深月がやさしく丁寧に綴ります。
顔をあげて、胸を張って生きていくことは小学生であっても大変な勇気がいることです。そして、それを友達としてお互いに支えていく友情はとても大切です。本書を読んで、改めてそんなことを思い出します。
少年少女時代の心の動きを丁寧に綴った辻村深月ワールドを楽しみながら、ご自分の「あの頃」を思い出してみてはいかがでしょうか。
狐塚孝太と月子、木村浅葱は同じ大学に通う仲間です。その大学の周辺で連続して殺人事件が起こります。
その一連の殺人事件は、i(アイ)とθ(シータ)、二人の間で進められる残忍で取り返しのつかないゲームでした。なぜそんなゲームが続けられるのか?その理由はシータである浅葱の悲惨な過去にあります。その悲惨な過去以来、分かれ離れになっている双子の兄「藍」が、姿を見せないiであると浅葱は思い込んでいるのです。ゲームが終了したときに二人が再会できるというルールのため、浅葱はゲームをやめることができません。
そんな殺人ゲームに狐塚孝太と月子は巻き込まれていきます。孤独な浅葱が唯一心を引き寄せる相手が月子であり、月子は孝太を慕っているからです。三人の関係に加え、それぞれの交友関係にも複雑な交友関係が存在しています。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2008-05-15
人間関係、とりわけ学生時代のそれは、「きっとこう思われている」、「こうに違いない」という思いとそれを取り繕う表面的な付き合いに縛られていたりします。それは性格だったり、初対面の時の印象であったり、些末なことかもしれません。そんな不安定な付き合いの先の本音がほとばしる瞬間に「え、そうだったの」「そんな風に思ってたのか」という本心で交流できるタイミングが到来します。本心で交流できるかどうかでその後の付き合いが変わっていくのです。
辻村深月は登場人物の心情、それも一人の心に宿す複数の心情を縦横無尽に描くことができます。そのいくつもの心情を組み合わせ、物語を大胆に展開していくのです。そしてその展開に読者は振り回され、ますます物語に引き込まれていきます。
人間関係と殺人ゲームを組み合わせた展開や重要な伏線、あえて終盤に明らかにされる事実により、物語は全く想定外の結末へと至ります。
明るく爽やかな青春物語も多い辻村深月ですが、『子どもたちは夜と遊ぶ』は、人間の人格や性格など心の奥底を題材にするもう一つの辻村ワールドです。ぜひとも手に取って、心の奥底の描写を楽しんでみてください。
死者との再会で救いを得る者、そうでない者。自分なりの答えを見出した者に、改めて自分の未来を見つめなおす者。結末はそれぞれですが、死者と向き合った彼らからは確かな変化と、成長が見て取れます。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2012-08-27
この小説の読みどころは、物語中盤の「ぼく」と「先生」のやり取りでしょう。とてもわかりやすい言葉で、命や倫理、世間の常識などの問題を語っていきながら、なおかつ「ぼく」が本当はどうしたいかを整理していきます。おかげで、実は「声」に不思議な能力を宿しているぼくが、市川雄太に会うと決め、そしてどういう「声」をかけるか、覚悟を決めていくことができました。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
作品の特徴はなんといっても辻村深月自らファンであるという、藤子・F・不二雄への愛を感じさせる、ドラえもんのオマージュがいっぱいに詰まっていることです。たとえば各章のタイトルは、馴染みのあるドラえもんの秘密道具の名前からとられています。作中でも彼女はたびたび秘密道具の名前を口に出したり、藤子・F・不二雄の「ぼくにとって『SF』は、サイエンス・フィクションではなく『少し不思議な物語』のSFなのです」という言葉から「スコシ・ナントカ」という言い回しを好んで使ったりと、彼女の周りはそんな世界で満ちているのです。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2008-11-14
上下巻構成のこの作品、上巻ではたくさんの伏線が張られ、それを下巻で一気に回収していくという形になっています。この伏線回収があざやかで見事としか言いようがない出来で、それがなんとも気持ちがいいのです。チヨダ・コーキが「小説で人を殺した」と言われることになった10年前の事件とは、と聞くと少し不穏な感じがしますが、実際は心温まる青春ストーリーなので、安心して読むことができます。『凍りのくじら』の主人公も出てきますので、そちらも注目です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2010-01-15
この話はとにかく構成が見事としか言いようがありません。詳しく説明してしまうと読んだときの楽しみを奪うことになるのでここではあえて触れませんが、読み終わった後もう一度初めから読み直したくなることでしょう。全てを知ったうえで見直すと、物語の別の側面が見えてくる作品です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2010-09-15
香屋子たちのアニメ「運命戦線リデルライト」と同じシーズンに放送される「サウンドバック 奏の石」の制作現場の話が二章の内容になります。やり手監督である斎藤瞳が出した企画はロボット少年ものシリーズ。一章とは別にひたすらに制作現場、その場所で様々出来事に翻弄されながらもなんとか作品を完成させようとする監督の姿が書かれた章です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2017-09-06
この作品はいつか巣立っていく、別離の日が待ち構えている、そんな高校生たちの姿が描かれています。島という土地が育む仲間意識、そして外部へと与えてしまう疎外感、排他性、そういった点が娯楽性のあるストーリーと共にスポットが当てられているのです。小さな島にいからこそ見える人の良さ、そして小さな島だからこそ出ていく人の醜さ。そういったものをすべて内包して、子供たちを見送る大人たちの覚悟や、高校生たちの想いが生き生きと本の上を踊っているようでした。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2016-07-15
いかがでしょうか。青春の胸の痛みを存分に感じ取れ、そして最後にはほっとできる、それが辻村深月の作品の大きな魅力です。ぜひそんな時代を思い出しながら、読んでみてはどうでしょうか。