作品ごとに異なる職業観や世界観を提示する、大人気女性作家・三浦しをん。映画や舞台など、クロスメディア化された作品も多い文庫本の作品を、それぞれご紹介します。

簪職人で豪快な源二郎と元銀行員で真面目な国政は2人合わせて146歳になる幼なじみ。本作は、正反対ですが固い絆で結ばれた絶妙な2人を中心に、下町で繰り広げられる心温まる人情物語です。
源二郎は子供のときにつまみ簪職人に弟子入りして自分の腕1本でやってきた破天荒な職人気質で、大騒ぎして口説き落とした妻は40代で亡くなってしまい子供もおらず独り身です。弟子の徹平とその彼女のマミに慕われて賑やかに暮らしています。
一方、国政は大学を出て、勤勉さを何よりも大事に働いてきた元銀行員です。親の勧めでお見合い結婚をして娘が2人いますが、数年前に突然妻が出て行ってしまい、妻子と別居して1人寂しく暮らしています。
正反対で気の合わないはずの2人ですが、東京都墨田区Y町で幼なじみとして子供の頃からずっと一緒にいる仲の良いコンビです。この2人を軸に老後や家族のこと、暮らしの中での人々の交流が温かく描かれています。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2017-06-22
人とのつながりの中に幸せがあると気付かせてくれる1冊です。
源二郎と国政は73歳になってもケンカや言い合いをしています。それでも根っこの部分でお互い信頼を置いていて、いざという時に支え合いながら暮らしているのです。そんな2人が愉快で温かいです。
70代になってもこんな関係の幼なじみが側にいるのはうらやましいですよね。そして国政が源二郎やその弟子の徹平との交流を通じて、出て行ってしまった妻と新たな関係を築いていくのですが、その様子に心を打たれます。また、2人が昔ながらの下町で日々の生活を送る様子から、日本の伝統や文化が感じられて素敵です。
昔ながらの日本の暮らしや、人とのつながりの温かさを感じながら、生きることの素晴らしさが伝わってくる作品です。
老舗古書店「無窮堂」の若き当主真志喜と同じ業界で卸専門の古本屋を営む瀬名垣の人とつながることのあたたかさを感じる1冊です。
もともと瀬名垣の父親はゴミの山から拾ってきた本を古本屋に売りさばく「せどり屋」だったため、古書界では嫌われ者でした。そんな中、瀬名垣の父が本に興味を持ち始めたことで「無窮堂」のご隠居、真志喜の祖父に目をかけられるようになり、幼い頃の真志喜と瀬名垣は兄弟のように育ちます。しかし幼い頃のある事件がきっかけで、2人の関係性は大きく変わってしまいました。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2004-05-25
冒頭、真志喜と瀬名垣のやりとりからは仲の良さが伺えるのですか、どこか距離を感じ遠慮し合っている場面も多いです。その2人の様子をもう1人の幼なじみ秀郎は「いつまで親友ごっこしてるんだい」と言っています。違和感をおぼえながら読み進めていくと、2人の生い立ちやわだかまりの原因が少しずつ明らかになり、物語に引き込まれていきます。
お互い必要としあっていますが、現状を変えられない2人。そんな中、2人は瀬名垣の受けた古書買い付けの案件に一緒に行くことになりました。そしてその買い付けで、はっとするできごとが起こります。
古書業界が舞台になっていて、一見すると物静かで地味な印象なのですが、登場人物それぞれが古書への愛に溢れ懸命に向き合っているので、その熱意や古書の魅力が物語全体から伝わってくるのがこの本のおもしろさです。
人と接する中で傷ついたりわだかまりができたりすることもありますが、それでもそれを乗り越えて関係を築いていくことの素晴らしさが古書を通じて描かれています。物語の中でそれぞれの視点から心情が語られていて深みのあるストーリーです。
また作中で可南子は、実在する出版社を思わせるような会社の面接を受けます。そのやりとりは実際にあったのかというリアルさで出版社の裏側を見たような気になります。面接官の発言、態度などはどこの会社でもあり得るようなものが多く、「あるある」と思える場面も多いのではないでしょうか。就活生だけでなく、就活を経験した方なら誰でも楽しめる内容になっています。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2005-03-02
健は、義太夫という独特な文化の世界に飛び込み、その真髄を求め、人生を賭けて芸を磨くためにもがいていきます。芸を志すものなら誰しもがぶち当たってしまう己との壁や、閉鎖的な世界ならではのしがらみとも戦いながら、ある時恋に落ちるのでした。しかし、その女性にはある問題があり……。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2011-07-14
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2009-01-09
淡々と流れていく、街の人々の些細な依頼から大きなトラブルにまで巻き込まれながら、なんとなくなりゆきで解決したりしなかったりする日常。人々と触れるなかで、二人は目をそらしてきていた痛みに向き合わされたり、少しだけ救われた気持ちになったり、癒されたりしていくのでした。シリーズが進むごとに、つかずはなれずである二人の幸福の再生の兆しが見えていく、ゆるい空気感が心地よい作品です。
本作をもとに実写映画化した監督の大森立嗣。本作を含めて三浦しをんの小説を3度実写化しています。大森立嗣について詳しく知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
<大森立嗣のおすすめ監督映画ドラマ11選!実写化の名手が光を当てた原作が面白い>
また、映画にて多田を務めた瑛太、行天を務めた松田龍平について詳しく知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
<瑛太の出演映画・テレビドラマを原作とともに振り返る!自然体の魅力に迫る>
<松田龍平が実写化出演した映画、テレビドラマ一覧!原作を読むとわかる変幻自在ぶり>
小田急線世田谷代田駅から徒歩5分、築ウン十年の古い木造2階建てアパートを舞台に、アパートにまつわる人々の性と生について少し変わった人間模様を描いた7つの短編集です。その中で特に印象深い3つの作品を紹介します。
「シンプリーヘブン」は木暮荘の住人の坂田繭とその恋人の伊藤晃生が木暮荘でゴロゴロしているところに、繭の元恋人の瀬戸並木がやってくるところから始まります。並木は3年前になにも言わずに繭のもとから突然いなくなり音沙汰がなかったので、繭は別れたと思っていたのですが、並木は別れていないと思っていたのでした。
並木はお金がないからと言って繭の住む木暮荘に転がり込み、それからしばらく繭と晃生と並木の3人で不思議な共同生活を送ることになります。普通、このシチュエーションだとドロドロした修羅場を想像すると思いますが、なぜか3人で一緒に食事をしたりテレビをみたり、ほのぼのと過ごすので、読んでいてほっこりします。繭と並木のすれ違いがほろ苦く切ないですが、3人みんなが優しくて読んでいて心が温かくなる作品です。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2014-10-10
「黒い飲み物」はシンプリーヘブンの繭が勤める花屋の店主、佐伯と花屋と同じ敷地でコーヒー店をやっている佐伯の夫の話です。佐伯は近頃の夫の入れるコーヒーは泥の味がすると感じています。そして、そう感じるのはコーヒー自体のせいではなく、自分の舌や心のせいだと気付いているのです。というのも、佐伯は夫が夜な夜なこっそりと外出していることに気付き、浮気をしているのではないかと疑っているのでした。
夫を疑う佐伯の嫉妬、怒り、愛情、執着といった心の動きと、それに伴った行動が冷ややかに胸に迫ってきます。疑惑の真相に追っていく様子に迫力がありドキドキします。夫婦のあり方を考えさせられる話です。
「嘘の味」はシンプリーへブンに出てきた繭の元恋人、瀬戸並木が主人公です。並木はひょんなことから、繭が勤める花屋の常連であるニジコのもとに居候することになります。虹子は無職ですが1人で3LDKのマンションに住むミステリアスな女性です。並木は若者を住まわせるなんて下心があるのかもしれない、どうしたものかと気を揉むのですが、ニジコにはまったくそんな気はなく拍子抜けするのでした。
2人がささやかなやり取りで次第に距離を縮めていく様子が微笑ましく、癒されます。並木が繭との経験を糧に前へ進んでいく姿に勇気をもらえます。
ここで紹介した登場人物たちのほかに、駅のホームに生えた男根に似た水色のキノコを見つける女性や、セックスをしたいと願う木暮荘の大家の老人、下の階の女子校生を覗くサラリーマンなど少し奇妙な人々が出てきます。
最初はびっくりしてしまうのですが、そんな人たちが木暮荘の安普請ゆえに繋がって交流をしていくぬくもりに癒されます。木暮荘を軸に同じ人物も違った視点から描かれていることもあり、木暮荘がボロくて味があるように、その人の欠点も魅力も表裏一体だと気付けて面白いです。そして読み進めていくうちに登場人物たちが悩みもがきながら生きている姿に共感し愛らしく感じてくるのです。
人とつながる温かさや面白さ、自分の気持ちを伝えていく大切さが性をテーマにユーモアを交えながらほっこりと描かれている1冊です。
「辞書を作る」ということは、本ばかり読み、人と関わる生き方をしてこなかった馬締一人の力では、とても成し遂げられない大きな目標。プロフェッショナルとして誇りを持つ人々の協力を得て、辞書作りは初めて進むのです。地道で果てしない作業に、誠実に日々を捧げる一人一人の仕事にスポットを当てているので、こんな仕事があるのかと驚かせられます。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2015-03-12
すっかりこの村に馴染み、ここで生きていくと決めた主人公目線で語られる村を心に描いて読んでいくうちに、一緒に林業の世界について学べ、自然の中で暮らすことの喜びをともに感じることができる作品となっています。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2012-09-07
ある時灰二は走に、長距離選手への一番の褒め言葉とは何か、を説きます。「速い」選手が偉いのではない、「強い」選手であるべきなのだと。いろんな要素を冷静に分析し、苦しい場面でも粘って体を前に前に運び続けることが「強さ」だ、と彼は語りました。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2009-06-27