狂言回しを体現する男・西尾維新
西尾維新1981年生まれの小説家です。漫画原作者、脚本家としても活躍しています。
西尾維新の作品には数多くの狂言回しが登場しています。作品中語り部の名前は明かされず、「ぼく」とだけ表記され続けているものもあるほどで、主役として話の中心にいるはずなのに、よく考えてみれば「ぼく」の本名だけは分からないといったことが起こりうるのです。
言葉遊びや毒を交えたキャラ同士のコミカルな掛け合いが特徴。たたみかけるようなセリフ量と独特なセリフ回しを自由自在に操り、コミカルとシリアスの境界線を反復横跳びしているかのような切り替えの鮮やかさを見せてくれます。西尾維新の作品に初めて触れた人は少なからずの衝撃を受けるのではないでしょうか。
青春の1ページを怪異とともに『化物語』
本作から始まった「物語」シリーズは青春の中に紛れ込み、日常を侵食してくる怪異とそれに向き合う高校生たちの物語です。
吸血鬼や蟹、蝸牛に猿、蛇、猫などさまざまな怪異との出会いによって彼らの日常は明らかに変化させられてしまいました。いままでの平凡な日常はどこかへ消え、新たな日常がまた始まるのです。
本作品の語り部兼主役である阿良々木暦の頭上から落ちてきたのは同じクラスの戦場ヶ原ひたぎでした。「深窓の令嬢」とも呼ばれている彼女には重大な秘密があったのです。
「体重がない」正確には体重が10分の1程度まで減ってしまっている彼女は紙のように繊細で、自らの弱みを人に見せまいと必死で周囲との距離をとっていました。とても慎重に行動してきたはずの戦場ヶ原でしたが、なんと廊下に落ちていたバナナの皮で滑って階段から落ちてしまったのだというのです。最後の最後で詰めの甘い戦場ヶ原は、阿良々木を脅し、口封じをすることに決めました。
そんなとき、阿良々木はある種の確信をもって戦場ヶ原に伝えます。
「僕なら、お前を助けられるかもしれない」
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2006-11-01
本作の最大の特徴ともいえる要素はキャラ同士のボケとツッコミの応酬です。
「当たり前って・・・あなたのような生物の頭蓋骨に脳みそが入っているというのは、それはそれは、もう奇跡のような出来事なのよ」
「酷い言われようだなおい」
「気にしないで。当然のことを言ったまでよ」
といったヒロインたちから繰り出されるコミカルなボケに対する阿良々木の鋭いツッコミはさながら夫婦漫才のよう。
「銅四十グラム、亜鉛二十五グラム、ニッケル十五グラム、照れ隠し五グラムに悪意九十七キロで、私の暴言は錬成されているわ」
「ほとんど悪意じゃねーかよ!」
「照れ隠しというのは嘘よ」
「一番抜けちゃいけないところが抜けちゃった!」
このようなパロディ(上記は鋼の錬金術師)や版権ネタもあったりして、元ネタがわかる時にはニヤリとさせられるような場面も多くあります。
話が進むにつれて阿良々木のマニアックな嗜好が徐々にエスカレートしていくさまが愉快で、物語の筋とは外れた部分も楽しみになっていきます。
ひとりの女性のために、刀は戦い続ける『刀語』
一振りの刀として鍛えられてきた鑢七花がとがめという女性と出会い、人の心を得るとともに彼女の刀として彼女の目的を完遂するために戦う物語です。
伝説の刀鍛冶「四季崎記紀」は、所持数が多い軍が戦を優位に進められるといわれるほどの刀を千本作っていました。
天下泰平を成し遂げた尾張幕府はそれらの刀で反乱が起こることを恐れ、「刀狩り」を行います。そして988本までは収集することに成功しました。ですが、その残りの12本こそが四季崎の作り上げた究極の刀「完成形変体刀」だったのです。
尾張幕府より「完成形変体刀」の収集を命じられたとがめが協力者を求め七花のもとを訪れます。そして、七花に旅の供をするように言いました。「愛のために」戦えというとがめに対し、はじめは上辺だけの「愛してる」を伝えることが多かったのですが、次第に七花の気持ちは本物になっていき……。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2007-01-10
一本一本刀にまつわるエピソードがしっかりとつづられており、その刀にかかわってきた人間の心情も浮き彫りとなっています。
しっかりしているように見えて肝心なところの抜けているとがめと、何も考えていないように見えて重要なところではしっかりしている七花というある意味バランスのとれたふたりの掛け合いはどこか間が抜けていて、そこに加わる刀の所有者たちのどこか破綻した人間性もあいまってとても印象的な会話が繰り広げられていきます。
二人は無事に刀を収集し終えることができるのでしょうか。そして、徐々に見えてくるとがめの真の目的とは……。