私立探偵マーロウ、現る。
記念すべき長編1作目であり、フィリップ・マーロウという私立探偵の存在が知れ渡った作品でもあります。
大富豪に呼び出されたマーロウは、その娘が抱えるトラブルを解決してほしいとの依頼を受けます。そのトラブルを引き起こしている犯人は古書店を経営しており、マーロウはその古書店から捜査を始めますが……。
- 著者
- レイモンド チャンドラー
- 出版日
- 2014-07-24
作品冒頭、大富豪を訪ねたマーロウは、邸宅に入るや否や女性(大富豪の次女)に誘惑されます。言葉で誘い、マーロウに向けて倒れ掛かってくる女性……世の男ならこれでクラッときてしまうはずなのに、マーロウは欠片も動揺せず、「ドッグハウス・ライリー」と適当に名乗り、遅れてやってきた富豪執事に向けて「乳離れをさせたほうがいい」と歯に衣着せぬ発言をします。
権力にこびずどんな状況でも動揺せず、減らず口を忘れぬマーロウは、まさにハードボイルドな探偵です。今作はそんなハードボイルドがたっぷり詰まった小説であり、ただの探偵小説という枠には収まらぬ文学的な雰囲気に包まれています。
フィリップ・マーロウの魅力とレイモンド・チャンドラーの抒情あふれる文章、そして繰り広げられる会話劇は、あなたの心をつかんで離さぬはずです。
レイモンド・チャンドラーの作品をお得に読む
彼女が愛したのは誰だ?
長編第2作目。ある依頼を失敗したマーロウが通りに佇むシーンから物語は始まります。依頼金をもらいそこねたことを気にする彼の目の前に、身長2メートル近い“ビール会社のトラック”のような男が現れます。
『さらば愛しき女よ』はこの男「大鹿マロイ」をきっかけとして始まった事件にマーロウが巻き込まれていく物語です。
冒頭の「大鹿マロイ」の異様である外見描写、そして“ビール会社のトラック”という、秀逸な例え……読者を静かに物語へと引き込んでいくチャンドラーの腕前は、素晴らしいものです。
- 著者
- レイモンド・チャンドラー
- 出版日
調べを進めていくうち、マーロウはたくさんの人物に手を伸ばしていくのですが、その際のやり取りがとても面白く、飽きません。
マーロウは情報を得るためにあるホテルの黒人受付に話しかけます。
「聖書を読んで聞かせるかね。それとも、酒を買おうかね?」
「聖書は家のもののいるところで読むもんだ」と黒人は答え、マーロウが持ってきたウイスキーを一緒に飲み始めます。こんなに格好良く気の利いたやり取りが平然と繰り広げられます。まさにジャズセッションのようであり、チャンドラーの面白さを象徴するシーンです。
そして物語の方も、マーロウの元に別の事件が転がり込み、別の事件だったと思われた2つの件が絡み合っていく様はお見事としか言いようがありません。
マーロウだって無敵ではありません。今回は思い切り殴られ麻薬を打たれ監禁されるという一般人なら絶望してしまうような災難に遭遇しますが……やはり、その場面でもマーロウは一味も二味も違うことを示してくれます。
そして作品終盤に展開される、ある女の最後の決断は何ともほろ苦いものです。
作中全般通して作られる当時のアメリカの煙掛かった雰囲気と、詩的なレイモンド・チャンドラーの文体に引き込まれること間違いなしです。