読書を楽しみながら日本各地を旅行した気分にさせてくれる旅情ミステリーの第一人者といえば、内田康夫です。教科書には載っていない地理や歴史の知識も深まり、ミステリーも堪能できる、そんな内田作品を5つご紹介します。

- 著者
- 内田 康夫
- 出版日
- 2011-08-12
- 著者
- 内田 康夫
- 出版日
- 2013-05-23
- 著者
- 内田 康夫
- 出版日
- 2012-11-09
- 著者
- 内田 康夫
- 出版日
- 2011-06-09
浅見光彦最後の事件。これまでシリーズで登場してきた各地の若い女性や浅見の家族、浅見が書いている雑誌の編集長、軽井沢のセンセが出席する壮大な誕生パーティが催され、浅見は34歳になります。はじめ、いくらなんでもひとりのルポライターの浅見にこんな盛大なパーティは不似合いなのでは?と思いますが、話が進むにつれ、これもひとつの伏線だったことに気づきます。
軽井沢のセンセとは、浅見光彦シリーズに度々登場する、他でもない作者の内田康夫本人です。作中、センセは無神経で噂好きな俗人として描かれ、あわよくば浅見の事件簿の題材にならないかとプライバシーを嗅ぎまわって迷惑がられているという設定なのが面白いです。今回もパーティに遅れてきたのにごちそうを食べ尽くし、編集者に尻をたたかれながら退場する様子には思わずにやりとしてしまいます。内田康夫独特の遊び心ですね。
- 著者
- 内田 康夫
- 出版日
- 2014-08-01
浅見はドイツ出身の女性バイオリニストであるアリシア・ラインバッハの来日の際のボディーガードを依頼されます。いつもは浅見のお節介に手厳しい、警察庁刑事局長の兄からの要請もあって気が進まないまま承諾しました。
ドイツの由緒ある名門の家柄出身のアリシアの今回の来日はコンサート以外にもうひとつ、祖母・ニーナから頼まれたことを果たす目的がありました。70年前にヒトラーユーゲント(ナチス党の青少年組織)来日の際にドイツから日本へと友好のしるしに渡された、フルトヴェングラー(ドイツの指揮者・作曲者)の楽譜を、返してもらうことでした。70年前に13歳だった祖母が授与役となり、日本の秩父宮様に渡して、“インベ”という日本人が保管していました。妨害はあったものの何とか無事に楽譜を取り戻すことに一役買った浅見でした。
“インベ”というのは丹波篠山の神社の宮司・忌部のことだとわかり、軽井沢・京都と知人を訪ねながら、忌部に関わる人達の記憶を聞いてきた浅見。アリシアのコンサートツアーに付き添って丹波篠山、神戸と動くうちにふたつの事件が起こります。いずれも忌部に関わりがありそうです。
アリシアとニーナのたっての希望でドイツにまで足をのばした浅見は、ラインバッハ家と日本との絆、そして自分の祖父母も関係していた歴史の1ページに触れることに。なんと14年前にチェコで起こった日本人殺害事件の存在も知ります。
さて、フルトヴェングラーの楽譜に隠されていたのはどんな謎で、96歳でなお、かくしゃくとした老人である忌部が70年間にわたって守り続けてきたのは何だったのでしょう。
第二次世界大戦で共に敗戦国となった日独の歴史がとても興味深く、お金や貴金属よりも尊い物、一見しただけではわからない価値のあるものは、人間の心にあると教えられました。長い歴史の中では、ドイツでのナチスによる退廃芸術の摘発や、日本でも水野忠邦が天保の改革で断行した奢侈禁止令など、時の権力者の一存で芸術までを支配しようという間違いが度々起こっていますが、人間の心までは支配することはできないのだなあと痛感した作品です。
独身を貫いてきた浅見ですが、34歳を機に、結婚へと気持ちが揺らぎます。それもこの作品のひとつの見どころとなっています。
2015年から体調を崩している内田康夫。彼の旅情ミステリーで部屋にいながら日本全国、いや時には海外までの旅を堪能させてもらった読者はみな、彼の回復を祈っていることでしょう。