3位:少しめずらしい、江戸時代のミステリー『写楽 閉じた国の幻』
写楽とは、江戸時代中期に存在したとされる絵師です。江戸には10か月ほどしか滞在していませんでしたが、その間に役者絵を次々と送り出し、その数は百数十点に及んだとされています。そんな彼に関する情報は白霧に包まれたように謎とされていて、その正体はおろか、出自や経歴さえも分かっていません。様々な研究がなされており、数多くの見解がなされていますが、数百年経った今でもわかっていないのです。まさに、日本のミステリーですね。
この物語はそんな写楽の正体を追い求める人々のお話です。時に現代で写楽の研究家が写楽の秘密を追いかけ、時に江戸時代へと移っていくなど、時空を超える展開を繰り広げていくことになります。そして多くの伏線を回収しながら、最後には驚きの結末が待っています。
- 著者
- 島田 荘司
- 出版日
- 2013-01-28
本作のおもしろい所は、『切り裂きジャック・百年の孤独』と同じように現実にある未解決事件に、島田荘司の緻密な研究と練り込まれた論理でひとつの答えを導き出している所です。島田荘司はこの作品を執筆するにあたり、かなりの時間と労力を写楽調査にあてたことがうかがえます。作者は自身のその姿を、登場人物たちに投射したのでしょう。その熱意溢れる研究意欲と、持ち前の推理小説としての面白さに脱帽です。
上下巻に分かれていて、中身としては450ページほど。手軽すぎることも重すぎることもなく、ちょうどよい読み応えのある作品となっています。
2位:島田荘司が贈る、本格警察刑事もの『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』
島田荘司の手がける二大シリーズのひとつ、「吉敷竹史」シリーズ。全部で16作品にまとめられており、日常に潜むミステリーに島田の筆力が光る作品です。研究家や漱石、ホームズといった少し特殊な人物が捜査にあたるわけではなく、ある警察官をその中心に据えている点が他の作品と一線を画するポイントでしょう。
主人公は東京都杉並区荻窪に住む一介の警察官、吉敷竹史です。警視庁捜査一課殺人班に所属する彼の元には、奇怪な事件が次から次へと舞い込んできます。強引な捜査に疑問を覚える吉敷であるため、時に上司から不当な扱いを受けることもありますが、不器用なりに真相解明に努めるのです。色気のある外見と、少し陰のある過去……なんとも魅かれるキャラクターですね。
- 著者
- 島田 荘司
- 出版日
本作品のポイントとしては、吉敷竹史が島田荘司の考える理想の警察官像を投射した人物という点です。推理小説作家という職業上、刑事関係のことには造詣が深い作者であるかと思いますが、その第三者の立場から描かれる理想の警察官とはいかなるものか、と気になるところです。
また、冤罪事件やいじめなどの社会問題や、実際にある各地の伝承や伝説をモチーフにしている点も現実との生々しい交差が感じられて面白いです。
ミニ情報として本作品での男女にまつわるお話を。作者いわく「本作品は女性の読者を意識して執筆した」とのことですが、作中の女性はほとんどが少し性悪な感じに設定されています。そのためか、作者の意図は外れて男性のファンの方が多いみたいですね。また、7作目『灰の迷宮』では珍しく魅力的な女性が出てきて、吉敷のためにラーメンを作ります。こちらは少し感動的なお話です。
また、3作目『北の夕鶴2/3の殺人』は伊坂幸太郎が大絶賛するというお話です。どんなものかとても気になるところですね。
1位:世界が認める島田荘司のデビュー作『占星術殺人事件』
島田荘司が30歳の時にデビュー作として世に送り出した、記念すべきシリーズです。第1作の『占星術殺人事件』は惜しくも新人賞を受賞することはありませんでしたが、ミステリー作家としてのセンスが選考委員会で認められ、続編を含む本シリーズは作者の代表作となったのです。
全部で30巻ほどになりますが、中でも『占星術殺人事件』が出てきた時の衝撃がミステリー文学界を震撼させるほどのものだったとのことで、ファンの中でも絶大な人気を誇ります。
物語の主人公は「探偵が趣味の占星術師」と自らを称する御手洗潔(みたらいきよし)。幼少期より卓越した頭脳を発揮し、15歳でアメリカの名門大学へ入学し、20代半ばで助教授となった後に世界を放浪し、京大医学部やミュージシャンを経て占星術師となるという、数奇で恐るべき経歴を持つ変人です。
そんな変人・御手洗と同じ釜の飯を食うのが、石岡和己という男です。御手洗が携わった事件を本にして出版しているうちに、御手洗の伝記作家となってしまいます。御手洗潔シリーズは、この石岡の目線で物語が進んでいきます。
- 著者
- 島田 荘司
- 出版日
- 2013-08-09
本作品の見どころはなんといってもこの個性あふれる登場人物と、そこで起こる事件とトリックの斬新性にあるでしょう。その斬新さはあまりにも行き過ぎて現実味がなさすぎると評価され、それが元で受賞を逃しているほどです。また、かの有名な『金田一少年の事件簿』などにもトリックを模倣されたことがあるくらい、ミステリー界へと与えた影響は計り知れないものでした。
第1作『占星術殺人事件』は2014年に、イギリスの大手紙「ガーディアン」において「世界の密室ミステリーベスト10」に選ばれています。島田の強すぎる個性と筆力によって、デビュー時の選考は順風満帆とはいきませんでしたが、それだけに新人作家の新鮮なエッセンスがつまった作品として今や世界的に認められるようになったのでしょう。
また、御手洗潔というキャラクターの命名は、島田荘司が幼少期につけられたあだ名に由来しているとのこと。作者としても思い入れの強いキャラクターなんですね。
記念すべきデビュー作であること、その特徴的な登場人物や時に奔放なアイデアによる緻密なトリックから生まれる推理小説としての面白さ、世界が認める推理小説であること、そして作者の思いが特にこもっていることから、島田荘司のおすすめランキング第1位にふさわしい作品といえるでしょう。
全30巻を制覇するのは長い道のりのようにも思えますが、第1作『占星術殺人事件』を開けばそんな思いは霧散してしまうはずです。ミステリーを読んだことがある人も、ない人もぜひとも一読する価値のあるシリーズです。