超攻撃的短編集『スクールアタック・シンドローム』
短編ですが、その内容は壮大とも言える暴力です。その過激な物語の中に優しさに満ちた親子愛が描かれています。一見相容れないものを見事に融合させた傑作です。
- 著者
- 舞城 王太郎
- 出版日
- 2007-06-28
表題作はダメな父親と彼が15歳の時に産まれた息子との物語です。この父親がどのくらいダメかというと「二年前に新宿の大塚家具で買った二十万円のソファが最近やたらと俺の中で大きな存在になってきていて、正直母親や恋人のように愛している。」といった具合です。半年間も愛するソファの上で一日中酒を飲んでダラダラしています。そして、暴力は突如として現れます。
知らない男が家に入ってきて殴り掛かってくる。その男の耳を食いちぎり、飲み込む。文章の中に異常な暴力性が生まれ、ここから暴力はどんどん伝染していくのです。
暴力は暴力を生み、招く。その事実の中、父は息子とのやりとりで、暴力以外のものを伝染させようと必死になります。その姿に泣けるのです。「…お前が本気で誰かを殺したりするとは思ってないけど、お前の周りにもしそういう奴がいたら、友達でなくてもちゃんと止めろよ。人が刺されるくらいなら、お前が刺されろ…」ダメでまだまだ子どもな父親の言葉はストレートに胸に響きます。
ダーク&ポップと形容されるこの一冊には、ダークな表題作のほかに、ポップな舞城王太郎流家族小説『我が家のトトロ』、超ダークな問題作『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』が収録されています。どちらも読み応え抜群です。本作は刺激物ですので、読書の際には十分な覚悟をご用意くださいませ。
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分厚い超ド級の傑作トリビュート『九十九十九』
このタイトルは、そのまま主人公の名前であり、作家清涼院流水の「JDC」シリーズに登場するキャラクターです。「ツクモジュウク」と読みます。
九十九十九は、素顔を見せるだけで相手を失神させてしまうメタ探偵であり、探偵神とも呼ばれています。必要なデータが全て揃った時点で瞬時に真相にたどり着く、神通力という推理法で事件を解決。笑ってしまうくらいチートな能力ですが探偵の神ですから、これくらいがちょうどいいのです。
これらの設定は清涼院作品から受け継ぎ、舞城作品の中でもそのまま描かれています。舞城王太郎は九十九十九の出生から描きます。
「産道を通って子宮から出てきた僕が感動のあまり 『ほうな~♪』 と唄うと僕を抱えていた看護師と医者が失神して、僕はへその緒一本でベッドの端から宙吊りになった。」
(『九十九十九』より引用)
これは本作の書き出しですが、産まれながらの異常性を感じさせます。
- 著者
- 舞城 王太郎
- 出版日
- 2007-01-12
本作の読みどころは、現実と小説の間にある境界線、読書の壁とでも言いましょうか。その壁をぶち抜き、何がフィクションなのか判りにくくし、読者を翻弄させる奇想天外な世界観です。
まず私たちが目にするのは目次です。全部で7つの章に分かれているのですが、第一話から始まり、二、三と続き、次の章は五話となっています。そして四話、七話ときて、最終話が六話となっています。どういうことだろうと思いながらも読み進めていくと、目の覚めるような破壊力で読書の壁に穴が開けられます。
「《清涼院流水》 を検索する。…《流水大説》 を書いていた時期、清涼院流水の作品の中に、九十九十九という名の名探偵が登場していることを知る。」
(『九十九十九』より引用)
現実世界の、それも舞城王太郎がトリビュート作として題材にしている「九十九十九」を小説世界にもそのまま書いてしまっています。この瞬間、現実と非現実の壁、つまり読者の壁に大きな穴が開けられ、それは物語が進むにつれて、舞城の手によって豪快に崩壊させられていくのです。
二転三転する物語に、脳内はパニック状態に陥ってしまうかもしれません。しかし、それが妙に心地よく、中毒者さながらに続きをむさぼり読んでしまうのです。
舞城王太郎作品の中でも最高傑作と名高い本作。皆さんも、頭の中を?マークが埋め尽くしていく不思議体験を楽しんでみませんか?
女性一人称の舞城王太郎文学『阿修羅ガール』
ちょっと軽い女子高生アイコは、興味本位で好きでもなんでもない同じ学校の佐野と関係を持ってしまいます。書き出しの文章は、そんなアイコの後悔が伝わります。
「減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。 私の自尊心。」
(『阿修羅ガール』より引用)
女子高生特有とも言える若者言葉が、リアリティを増長させているようです。
- 著者
- 舞城 王太郎
- 出版日
- 2005-04-24
物語が大きく展開していくのは、興味本位でやってしまった佐野を置き去りにしてホテルを出るところからです。
「私は私の財布から出た、私の持ち物だった、私の味方のはずだった千円札三枚を、残酷にも人身御供にでもするつもりで捨ててそこから逃げ出した。」
(『阿修羅ガール』より引用)
タイトルにある阿修羅が関係するのか、本作では三という数字をよく目にします。ここでは千円札が三枚。他にも、三部構成であったり、その内の二部が三章に分かれていたりと、何か大きな意味が込められていそうです。
読みどころは、悩みますが、三章に分かれた二部でしょうか。それぞれ別の視点での物語なのですが、ここでも読書の壁の崩壊が行われているように感じます。急にグッチ裕三が登場する辺りは、まさに壁の崩壊です。その後メルヘンな物語があり、グルグル魔人の物語があり、小説自体が崩壊しそうなほど目まぐるしく展開していきます。しかしながら、この二部の存在が、小説全体にピリッとしたスパイスのように効いているのです。同時に、三部に向けての推進力をも担っています。
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