日常のすきまに人生の喜びと哀しみを『大聖堂』
アメリカ文学界で「短編の名手」として名をはせたレイモンド・カーヴァーの短編集です。ピューリッツァー賞のフィクション部門で候補作ともなった、彼の代表作品となっています。
本作は1983年に発表され、1988年に50歳で亡くなった作者の晩年期の作品といえます。レイモンド・カーヴァーは若くして家庭を持ち、離婚を機にアルコール依存症となりましたが、40歳になる時にテス・ギャラガーという女性詩人と交際を始めました。『大聖堂』を書いたのはテス・ギャラガーと生活している頃でした。そのため、人情にあふれた温かいお話となっています。
- 著者
- レイモンド カーヴァー
- 出版日
表題作「大聖堂」は、主人公の妻の知り合いで盲目の黒人が家に泊まりに来るシーンから始まります。障害と黒人に偏見のあった主人公ですが、彼の明るい性格から自分の偏見に疑問を持つようになりました。ちょうどその頃テレビではヨーロッパの大聖堂に関するドキュメンタリー番組がやっていました。大聖堂に興味を持つ黒人ですが、夫婦はうまく説明できません。そこで黒人が提案をしました、「2人で大聖堂の絵を描いてみよう」。主人公は黒人と手を重ねて絵を描き始めます。絵が出来上がった時、主人公は今までにない感覚が芽吹いたことに気づきます……。
この翻訳本の特徴はなんといっても、村上春樹しか翻訳をしていないということでしょう。
また、春樹はこのお話に関して、「モーツァルト風にいえば、肝のところで例の決定的な転調が訪れるのだ。そのはっと澄み渡る意外な一瞬が素晴らしい」とこの上ないコメントをしています。あの村上春樹が絶賛する「澄み渡る意外な一瞬」とはどんなものなのか、とても興味深い一冊です。
翻訳の歴史も長い、読み継がれる青春ストーリー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』
1851年に出版された本作は、青春小説の古典として名高い一冊です。日本語訳は村上春樹訳を含めて4人の翻訳者から翻訳されています。一人称で主人公の心情などと一緒に物語を進めていくので、サクサクと読むことができます。
ホールデン・コールフィールドという少年がクリスマス前のニューヨークを舞台にあちこちをめぐるという内容です。高校を放校になり、街に追い出されたホールデンとその友人や知人との他愛無いやり取りのお話ですが、いわゆる「はみ出し者」としての心情やどこか欺瞞で満たされた社会への鬱憤を晴らす言動に満ち溢れています。こうした社会に対する鋭い視線を投げかける内容は、時代を越えて若者の共感を呼び、代々読み継がれてきました。
- 著者
- J.D. サリンジャー
- 出版日
今でこそ名著とされている本ですが、ホールデンの言動が教育者目線で問題とされ、ある州では一時期学校や図書室から一掃されたこともあるそうです。他にも社会への影響が強い作品とのことで、いかにメッセージ性や示唆に富んだ作品かということがうかがえます。
この作品に関しては翻訳の読み比べができる点が最も特徴的でしょう。過去には1952年:橋本福夫訳、1964年:野崎孝訳、1967年:繁尾久訳、2003年:村上春樹訳と4種の翻訳本がありますが、最もテンポがよく、口語的な表現が多いのは村上訳だと言われています。翻訳した時代や、翻訳者のバックグラウンドなどが関係しているのでしょう。
また、この事に関して村上春樹は興味深いコメントを残しています。
「翻訳には賞味期限みたいなものがある。旧訳があるものに新訳を存在させることは読者に対する親切だと思う」
自身は野崎孝訳を読んだということなので、野崎訳と村上訳と読み比べてみると、村上春樹の視点がよりよく分かるかもしれません。
村上春樹の作品をお得に読む