重厚なミステリーを得意とする横山秀夫
横山秀夫は1957年生まれ、東京都出身のミステリー作家です。1998年に『影の季節』で松本清張賞を受賞し、デビューを果たしました。
「このミステリーがすごい!」などのランキングの常連で、『半落ち』、『64』はそれぞれ1位にランクインしています。
謎解きとしての面白さよりも人間ドラマに重きをおいた重厚なミステリーを得意とする横山秀夫のおすすめ作品を6作ご紹介します。
6位:横山秀夫が世に出た注目作
「全く新しい警察小説のジャンルを開いた」として、第5回松本清張賞を受賞した横山秀夫の小説家デビュー作です。第120回直木三十五賞の候補にも推挙され、TBSテレビでドラマ化されました。
D県警を舞台とした短編4作です。異色なのは、警察小説でありながら、刑事や大きな事件が全くと言っていいほど登場しません。警務部と呼ばれる、県警内部の管理部門を軸に物語は展開します。
- 著者
- 横山 秀夫
- 出版日
警察という硬直化した階級社会の中で県警本部、とくに職員の人事を握る警務部門は中枢組織であり、そこで働く職員はノンキャリアながらもエリートとして登場します。
横山秀夫が秀逸なのは、警察組織や登場人物のプロフィール描写が丁寧な点、かつ、説明調でなく自然な点にあります。
おすすめは、第一話はタイトル作の「陰の季節」です。横山秀夫の作品は、タイトルにもこだわりを感じます。「陰の季節」とは、「陰」、つまり、うららかな季節から遮られ、春の光が当たらない「人事部屋」を軸に繰り広げられる人事異動時期を意味します。
主人公は警務部警務課調査官の二渡真治、同期ナンバー1で警視に昇格したノンキャリアエリートです。人事を巡りさまざまな人間模様がうごめく中、二渡は「陰」のように動きます。
この調査官の働きぶりを、さまざまなシーンを通じて読者に自然に伝えているところに、横山秀夫のこだわりを感じます。
-くそったれが
二渡は、パソコン画面の前に映し出されるS署長の顔写真に毒づいた
-やはり、運転免許課か教養課あたりで眠ってもらうか
マウスの手で画面の組織図を縦断しながら、二渡はS署長の収容先を探していた。
(『陰の季節』(文春文庫) P10~11より引用)
二渡が不祥事を起こしたS署長の更迭先に悩むシーンです。このシーンを通じて、不祥事を起こした署長は、表立って処分するのではなく本部の閑職に異動させること、署長の運命も調査官のクリック一つで決まる現実を丁寧に描いています。
横山秀夫は印象に残るシーンを張り合わせながら、物語を展開するのがとても上手です。
その他にも、
「地の声」では、不祥事を起こした警察官を処分する「警察の中の警察」監察官、
「黒い線」では、自己保身のために隠蔽も厭わない組織の中で苦悩する婦人警官
「鞄」議会対策に追われながら、子供のいじめ問題に悩む秘書課の警部
と、警務部内の各セクションで働く職員たちの働きぶりを、出世欲、野心、時には使命感を絡ませながら詳らかにし、読者を引き込んでいきます。
いずれの話にも二渡が登場し、4つの作品を組みひものようにつなげています。また、「陰の季節」の舞台は、「64」と同じD県警です。「64」の前に一読することをおすすめします。
横山秀夫の作品をお得に読む
5位:「陰の季節」に続くD県警第2作
「陰の季節」の「黒い線」で登場した、似顔絵婦人警官の平野瑞穂が主人公の短編集7作です。
仲間由紀恵主演でテレビドラマ化されました。
プロローグは、山間の廃校でタイムカプセルを開けるところから始まります。「わたしのゆめは、ふけいさんになることです。(中略)ふけいさんは、すーごくかっこいいです。ぜったい、ぜったいふけいさんになりたいです 一ねん一くみ ひらのみずほ」
(『顔』(徳間文庫) P5~6より引用)
- 著者
- 横山 秀夫
- 出版日
憧れの警察官に採用された瑞穂を待ちうけていたのは、閉鎖的で硬直した警察組織でした。この作品では、「だから女は使えねえ」と罵倒されながら、愚直に立ち向かう瑞穂たち女性警察官の生きざまに魅かれます。とくに男性たちが保身や足の引っ張り合いに汲々としているのに対して、彼女たちのひたむきさ・真摯さが際立ちます。
前回の事件もあり、瑞穂はリハビリを兼ねて広報に異動になります。その広報の職場はというと・・
「婦警なんか寄越されたんじゃ、一人減と同じじゃねえか」
瑞穂の配属が決まったとたんに、船木が警務課で当たり散らしたという話は、回りまわって瑞穂のところまで届いた。
予想通り船木は荒れた。南係長の椅子を蹴り、乙部主任の机には拳を落とした。
(『顔』(徳間文庫) P15~17より引用)
警察って本当にこんな職場なのかと思わせるほど、男尊女卑の男社会、パワハラがまかり通る職場が浮き彫りになります。
「陰の季節」では大きな事件が起きないのに対して、「顔」では、平野瑞穂が女性ならではの推理で事件を解決する筋立てになっています。
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