小池真理子が描く日常に潜む狂気と殺意のサイコスリラー『双面の天使』
4作品が集められている短編集です。今回は最後に収められている表題作の「双面の天使」をご紹介します。
美しい幼い兄弟である潤と茜のもとに、後妻としてやってきた和歌子。和歌子に対して芽生えた二人の嫌悪感は、子供ゆえの単純さ、純粋さ、残酷さで、利己主義な和歌子を窮地に追いやっていきます。和歌子の元恋人の存在も絡んで、事態は子供たちの思惑通りに進んで行くのですが……。
最後に一捻りあることで、ゲームのように楽しんでいる子供たちの残酷さが際立っています。
- 著者
- 小池 真理子
- 出版日
- 1989-07-20
その他の作品も、日常の中でほんのわずかに生じたずれのために、潜んでいた殺意や狂気が表面にあらわれてくるサイコスリラーとなっており、その鮮やかな結末には誰もが驚いてしまうのではないでしょうか。
女性の怖さから始まるサスペンス『あなたに捧げる犯罪』
日本推理作家協受賞作品である「妻の女友達」を含む6話が収められています。そのいずれもが、悪意が潜む日常の恐怖が描かれたサスペンスです。最初にご紹介した「双面の天使」との大きな違いは、この作品は女性の持つ怖さに焦点を当てているということです。
ここでは第一話「菩薩のような女」をご紹介します。病院長である父親は頑固で気難しいところがありましたが、後妻が運転する車で事故にあってからは、それが更にひどくなっていったのです。自分を奴隷のように使う夫に献身的な若い後妻の愛子と、二人の娘、未だ独身の父の妹は女同士うまくやっていました。そんな中、家に火事が起こり、一人残されていた父親が焼死してしまい、よくある事故として処理されたのですが……。
- 著者
- 小池 真理子
- 出版日
- 2014-02-13
他5作品を通して、女性が持っている怖さを女性ならではの視点で描かれていますが、短い作品でテンポよく書かれているため、不快感がなく、勧善懲悪的なすっきりとした気分が味わえます。
アートとしての掌篇小説集『午後のロマネスク』
あとがきで作家本人が書いておられる通り、”掌にのってしまうほど、ささやかな短い小説集=掌篇小説集”として、17作品が集められています。短いものでは2頁程で終わってしまうほどの話ですが、その短さに反して、じわりと長い余韻を楽しめる作品ばかりです。また、一話ずつ版画が飾られており、装丁も美しい本ですので、是非ハードカバーで本の重みを感じながら読んでいただきたい一冊です。
- 著者
- 小池 真理子
- 出版日
その中の一話をご紹介します。最終話「声」。ふた目と見られないほど醜い女は、球を転がすように美しい声を持っていました。その声に魅かれた男は、女を電燈もない屋根裏に閉じこめていました。女を目の前にしながら、その顔を見なくてもすむように、その声だけを心ゆくまで聞いていられるようにするために、男は自分自身の目を見えなくさせることを決心したのです。
谷崎潤一郎の『春琴抄』を思い出す方も多いのではないでしょうか。自ら失明させるという発想は同じですが、二人を待ち受ける結末は、春琴抄とは大きく違います。二人を待ち受けるのは幸せか、それとも絶望か。結末を楽しみにお読みください。
なお、短編集ではありませんが、『イノセント』という作品も、ハナブサ・リュウの写真と相まって、退廃的な雰囲気を味わえるアート作品ですので、そちらもお薦めです。