梨木香歩、というと映画化もされた『西の魔女が死んだ』が有名ですが、実は児童文学だけでなく幅広い年代向け・ジャンルの小説を書かれている事をご存じでしょうか。 穏やかで清々しく心温まる中に、ぐっと心臓を鷲掴みにされるようなスパイスを随所にちりばめたような梨木作品は、どの世代の方が読んでも楽しめる、そして考えさせられる深みがある作品ばかりです。「自然」「思想・宗教」「国際文化」など色彩豊かに織り交ぜながら、広がる梨木ワールドをご紹介します!

主人公の女性は学生時代に英国のS・ワーデンというところに下宿しており、本作はその下宿屋の主人であるウェスト夫人と過ごした日々の思い出が綴られています。近所の人々との交流や羊が行き交う風景などが描かれたイギリスの片田舎の牧歌的な話かと思って読んでいる内に、それぞれのエピソードに込められた深遠なテーマに気づかされる作品です。
主人公と同じ頃に下宿生活をしていたジョーは、付き合っている彼が他人の小切手帳を盗んで勝手に使う男だと知っていながら付き合いを止めません。そしてジョーと一緒に下宿で暮らし始めた彼は、ウェスト夫人の小切手帳も盗んでしまいます。
また、ナイジェリア人の金持ちの男は自分の子供たちを続々と英国留学させ、昔なじみという理由から必ずウェスト夫人の家に子供たちを下宿させるのですが、彼らは常に尊大な態度で接してくるのでした。
その他、国の内外を問わず様々な人々がウェスト夫人の下宿屋を訪れますが、習慣や生活様式、考え方などがまったく異なる相手に困ったり嘆いたりしながらもウェスト夫人は決して彼らを拒否せず受け入れるだけではなく、彼らが困っている時は全力で助けようとさえします。その姿は、たとえ相手を理解できなくても相手の存在を受け入れることが大切なのだと主人公に伝えています。梨木香歩はウェスト夫人を描くことで、世界平和へとつながる道を読者に示しているのでしょう。
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 2006-02-28
その後、主人公がカナダ旅行に行った話には主人公が受けた人種差別の話が書かれており、アメリカ出身のウェスト夫人が帰郷した時の話には、マンハッタンで現実に起こったテロ事件のことが触れられています。
最後はアメリカにいるウェスト夫人が日本に帰った主人公に宛てた手紙で終わるのですが、その手紙を読めば『春になったら苺を摘みに』という可愛らしい響きのタイトルに込められた梨木香歩の痛切な思いを知ることでしょう。誰もが一度は考えてみるべき悲しい現実を1人の女性の生き方に込めて描いた、全世界の全世代の人々に紹介したい作品です。
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 2015-06-20
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 2015-02-18
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 2001-08-01
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 2006-09-28
梨木香歩の作品には《豊かで手つかずの自然への敬愛の念》や《年上(比較的年配)の賢者のような人々への尊敬と愛情》そして《人とは違う個性を持つ人を認め尊重し、徹底的に寄り添うという筆者の姿勢や覚悟感》が、どの物語の根底にも流れているように思えます。これらは、作家自身の知性や人間的な魅力の深さに依るものなのかなぁと思わざるを得ないのですが、読んでいて温かくもぐさりとくる瞬間が幾度もあります。感受性豊かな若い世代にも、「忙しくてそんな事最近忘れていた」というかつて少年少女だった世代にもぜひ一度手に取って欲しい本ばかりです。
また、梨木作品には、様々な形で傷ついた人達が出てきます。そんな彼らに寄り添い、静かに傷みと向き合っていく物語を通して、いつしか私たち自身も癒され、浄化され、強くなっていくことができる。そんなしなやかな強さを持つ梨木作品の持つ『魔法』がみなさんにも届きますように。