SFとミステリーを織り交ぜた独自の世界観をもつ作家、井上夢人
井上夢人は、デビュー当時は岡嶋二人というペンネームでした。彼ひとりではなく、徳山諄一とコンビを組んでおり、『あした天気にしておくれ』で、第27回江戸川乱歩賞の候補となり、『焦茶色のパステル』で第28回の江戸川乱歩賞を受賞しています。
その後も、『チョコレートゲーム』で第39階日本推理作家協会賞長編賞を受賞したり、ゲームブック『ツァラトゥストラの翼』を発表したりしましたが、1989年に『クラインの壺』を刊行したのち、コンビを解消しました。
1992年には『ダレカガナカニイル…』で、ソロ作家として再デビューを果たした井上夢人は、主にミステリー小説作家として活躍していきます。SFを取り入れた推理ジャンルを開拓しており、コンビ時代よりも更に幅広い世界観を表現するようになりました。
コンピューター文化にも初期から強い関心を持っており、自らのサイトで自作を積極的に紹介していたのも特徴です。作中にコンピューター要素を取り入れるさきがけの作家のひとりでもあり、現在はエッセイを自身で電子書籍化するなどの取り組みも行っています。
そんな井上夢人の作品の中から、特にチェックしておきたい代表作を5つ、ピックアップして紹介していきましょう。
ビートルズの名盤をモチーフにした推理サスペンス
主人公の鈴木誠は、醜い容姿のせいで、学校に行くこともなく引きこもり続けています。洋楽の専門誌で、ビートルズの評論を書くことだけが、鈴木と社会との繋がりでした。そんな彼があるきっかけから、麗しいモデル・絵里に心を奪われてしまいます。
初めは気づかれないように絵里を観察していた誠ですが、行為は徐々にエスカレートし、ついに彼女の男友達を殺害してしまうに至りました。
トリックを駆使したミステリー作品であると同時に、恋愛要素を織り交ぜたサスペンス作品でもあります。ハラハラの展開に、最後まで目が離せないでしょう。
- 著者
- 井上 夢人
- 出版日
- 2014-06-13
タイトルは、主人公がビートルズを愛好していることからも分かるように、ビートルズのアルバム名から取られています。章立てもアルバムの曲名の順番になっており、章ごとの内容もまた、歌詞とリンクするものを感じさせる構成です。
当時リリースされたボーナストラックのタイトルも組み込まれているため、ビートルズファンの方は、本作を2倍楽しむことが出来るかもしれません。
実は井上夢人は、自身のペンネームも、ビートルズの「夢の人-I’ve Just Seen A Face」から取っています。しかし、ただファンとしてタイトルを借りたのではなく、ラストシーンのどんでん返しまで読み込めば、本作がどうして『ラバー・ソウル』なのかがよく分かるはずです。
初期のコンピューターを使った驚きの展開
ストーリーは、向井洵子という主婦がワープロで作成した日記から始まります。彼女の身の回りで起きた不思議な出来事を綴った日記は、徐々に事件性を帯びていくのです。54個のファイルが収められたフロッピーディスクが、この物語のキーとなります。
作中に仕掛けられた、驚くべきギミックも本作の醍醐味です。コンピューターに託された日記というスタイルだからこそ実現する仕組みと言えるでしょう。謎が謎を呼ぶ展開は、一度読み始めたら目が離せないはずです。
- 著者
- 井上 夢人
- 出版日
- 2004-09-14
作者の井上夢人は、マイコンと呼ばれていた時代から、コンピューターの愛好家としても知られていました。本作は、彼が当時夢中になっていたコンピューター知識をふんだんに取り入れ、推理小説として組み上げた作品となっています。
本作は、伏線を張り巡らせたミステリー作品ではありますが、一人称で進む読みやすい物語となっています。複雑なトリックにも、分かりやすい表現が用いられているため、気軽に手に取りやすく、夢中になれること間違いなしでしょう。
「このフロッピィディスクは、あなたに読んでもらうために作られた。」という一文が、物語の枠を飛び越え、読者であるあなたに語りかけてくるはずです。