兄2人を失踪、姉2人を自殺で亡くした三浦哲郎。彼の作品には、その過酷な生い立ちが色濃く影を落としています。とはいえ、シリアスで重厚な作品ばかりではありません。ここでは、純愛小説から子供向けのメルヘンまで、三浦文学を初めて体験する読者におすすめの5作品を選びました。

- 著者
- 三浦 哲郎
- 出版日
- 1965-06-01
そのデートと後の手紙のやりとりで、2人はお互いの生い立ちをさらけ出します。志乃は自分が娼婦の街の娘であることを、「私」は家族を襲った不幸の数々を明かしました。
かつて次姉が自分の6歳の誕生日に自殺したため、誕生日を祝ったことがないことを「私」が告げると、志乃はこう答えました。
「来年の誕生日には、私にお祝いさせてください」(『忍ぶ川』より引用)
しかしそれから一月もたたないうちに、「私」は志乃に婚約者がいることを知らされてしまうのです。
実際の妻との出会いを私小説として描いた本作で、作者は1960年に芥川賞を受賞しました。他の作品と同じく三浦哲郎自身の生い立ちを背景としながらも、ここにはこれから若い2人で未来をつくっていこうという、ある種の明るさが感じられます。
何といっても、どんな境遇にあっても強く愛らしい志乃の姿はとてもチャーミングです。端正な筆致で描かれた眩しいほどの凛々しさは、時代をこえて読者の胸を打ちます。
崩壊の予兆はいたるところにありました。
- 著者
- 三浦 哲郎
- 出版日
- 1989-04-28
「長編よりも、隅々にまで目配りのできる短編の方が性に合っている」
生前そのように語っていた三浦哲郎が、ライフワークとして取り組んでいたのが連作短編集『モザイク』でした。その第一集である本作には、24の短編が収められています。
かつて津軽海峡を行き来し本州と北海道を結んでいた青函連絡船がありました。表題作「みちづれ」は、その連絡船の青森県の港にある花屋で、主人公の「私」が菊の花を買い求めるシーンからはじまります。
彼には、何十年も前に連絡船から身を投げてこの世を去った兄妹がいました。その兄妹を弔うために、毎年命日近くになると連絡船に乗り、海に花を落とすことにしていたのです。
- 著者
- 三浦 哲郎
- 出版日
そこにはペドロの他にも、ヒノデロ、ダンジャ、モンゼ……と、変わった名前をもつ9人の座敷わらしがいました。勇太は彼らから「ユタ」と呼ばれ、すっかり仲良しに。そして、その不思議なちからを借りて、クラスメイトたちを次々に見返してゆくのでした。
- 著者
- 三浦 哲郎
- 出版日
- 1984-09-27
取材先で突然吐血し、救急車で病院に運び込まれる「私」。染めるのを止めた白髪を、知人から「10年老けたようにみえる」と言われ思わず涙を流す妻。結婚前提で付き合っているボーイフレンドを家族に紹介する長女。そろそろ家を出て独立したいと言い出す次女。
- 著者
- 三浦 哲郎
- 出版日
- 2016-08-26
こだわり抜いた文章で、亡き兄妹を悼むように綴られた三浦哲郎の作品は、きっとあなたの心の琴線にも触れるはずです。ぜひ一度じっくりと味わってみてください。