『なくしてしまった魔法の時間』 安房直子ワールドを堪能する
この作品には、短編が11編と、著者のエッセイが収録されています。短編は安房直子の代表作である「きつねの窓」や「雪窓」などなど。動物と人との触れ合いが描かれた作品を読むことができます。
「きつねの窓」は教科書に掲載されたこともある有名な作品です。銃を担いで山の中を行く猟師の青年がきつねを追いかけると不思議な体験をするのです。桔梗が咲き誇る花畑に迷い込んだ青年は、子狐が人間に化けて営む染物屋に足を踏み入れます。子狐は何でも美しい青に染めると言い、猟師は相手が子狐だと気づきながらも、その話に引き込まれていくのです……。
- 著者
- 安房 直子
- 出版日
- 2004-03-01
「雪窓」は山のそばにあるおでん屋のお話です。そのおでん屋のおでんは格別で、常連客だったタヌキはいつの間にかおでん屋の助手になっていました。ある日そのおでん屋を訪れた不思議な少女が手袋を片方忘れていきます。雪女のようなその少女を追いかけて、屋台のおじいさんはタヌキと一緒に山の中へ向かうのでした……。
登場人物はみな人間味にあふれていて、親しみを感じるキャラクターばかりです。そして、人間と自然に会話を交わす動物たちが日常の景色からいつの間にか読み手をファンタジーの世界にいざないます。子どもの頃に感じていた夢と現実が混ざり合うような幻想的な感覚を、この作品で味わっていただけたらと思います。
『くまの楽器店』誰もが行きたくなる素敵なお店
これは不思議な不思議な楽器店のお話です。その楽器店は「ふしぎや」緑色のベレー帽をかぶったクマが店番をしています。クマの周りにはいろんな種類の楽器が並んでいます。太鼓・鈴・タンバリンにアコーディオンなどなど。
何日も雨が降り続いたある日、ずぶぬれの男の子がふしぎやを訪れました。雨で憂鬱な気分を振り払う、楽しい楽器を探しに来たというのです。クマが差し出したのは空の星よりまぶしいトランペット。男の子はトランペットのお礼に梅の実をクマにプレゼントします。
男の子が雨の中を歩きながらトランペットを吹いていくと、その音色に合わせて空の雲が動き出し、いつの間にか空には雲一つなくなってしまったのです!
- 著者
- 安房 直子
- 出版日
- 2009-08-27
ふしぎやにはさまざまな楽器がありますが、それぞれに不思議な力が込められているのか、手に取ったお客さんに次々と奇跡が起こります。
春の訪れを待ち遠しく思っていたウサギが大きな太鼓を叩くと、風に乗って菜の花の香りや小鳥の歌声が聞こえ始めます。
こんな楽器屋があるならぜひ行ってみたい! と誰もが思うのではないでしょうか。子どもに読み聞かせた後は、自分ならどの楽器が欲しいかと話し合ってみるのも楽しいですね。
『ハンカチの上の花畑』ノスタルジックな世界に潜む小さな恐怖
題名や表紙の絵を見るととてもほんわかした雰囲気を感じられますが、この作品には背筋がぞっとするような怖い要素が含まれています。
ハンカチの上の花畑にいる幸せそうな家族は、普通の人間ではないのです。彼らは菊酒という酒を造る小人で、古びた酒屋のおばあさんが大切にしまっていたビンの中で暮らしています。小人はおばあさんの言葉を聞くと酒を造るためにおばあさんのハンカチの上に菊を植えて花を咲かせ、とてもおいしい菊酒を作るのです。
郵便屋がおばあさんに菊酒の秘密を聞いたその日から、郵便屋はビンを預かり、菊酒を楽しむようになります。しかし、おばあさんに言いつけられた決めごとを破ってしまった郵便屋に、恐ろしい運命が忍び寄るのです……。
- 著者
- 安房 直子
- 出版日
- 1973-02-15
おばあさんからの言いつけを最初はしっかりと守っていた郵便屋。彼の人生が少しずつ明るく華やいだものになるにつれ、言いつけの大切さが揺らいでいく様が淡々と描かれ、読み手はハラハラしながらページをめくることでしょう。
褒美をもらったことで少しずつ仕事に対する姿勢が変わっていく小人達と、約束を忘れて行く郵便屋とその奥さん。人間のダークな一面を描きながらも、ファンタジックな設定と柔らかい言葉で紡がれた文章なので、読んだ後には不思議な爽快感があります。
郵便屋夫婦がどうなってしまうのか、ハラハラドキドキしながら楽しく読むことができる作品。本好きの小学生や、中学生以上の人にもおすすめです。