名コンビ・猪俣公章との思い出を綴る
クラブ「姫」の経営から音楽の世界へと活動の幅を広げた山口ですが、作曲家の猪俣公章とは名コンビと謳われていました。「千曲川」「一度だけなら」など、共に数々のヒット曲を生み出し、「いのさん」「おっかぁ」と呼び合うほど親しい間柄となりました。
しかし、常に順風満帆な生活を送っていたわけではありません。両者ともに浮き沈みがあり、時には衝突してお互いに冷たい態度を取ってしまうこともありました。けれども猪俣が亡くなった後は、次々と愉しかった日々が甦ります。
ライバルであり親友でもあった2人。女とお酒が大好きだった猪俣を、愉快なエピソードを交えながら記しています。
- 著者
- 山口 洋子
- 出版日
坂本冬実、森進一などを弟子に持つ昭和の名作曲家、猪俣公章。親しい間柄だからこそ知ることができた、彼の素性が余すところなく盛り込まれています。仕事の話、プライベートの話、どちらも豪快で荒々しい様子ですが、山口洋子はそんな彼を、本当は寂しがり屋なのだと語っています。繊細な心の動きを言葉の端々から読み取っているのです。
お酒での失敗談や性癖など、他人に話すことが憚られる内容までも盛り込んでしまうところに、山口洋子らしさが現れています。自分の感じたことを包み隠さずそのままの言葉で表現しており、読み進めていくうちに心地よさが生まれます。すかっとした爽快感のある人間模様や、1980年代の音楽業界の様子を感じ取ることができる作品です。
男と女の物語が詰まった山口洋子の短編集
中年銀行マンと、芸能界でマルチに活躍する美女の不倫を描いた、表題作の「ドント・ディスターブ」や、ナンパを生業とする男の夏の出来事を描いた「Mrサマータイム」など、7つの物語を収録した短編集です。
「ドント・ディスターブ」は、家庭を持つ中年銀行マン唐木が、自身の銀行に講演会に来た美女を接待したことがきっかけに、不倫関係になる物語です。2人はホテルで時間を共にするようになり、仲も深まっていきます。そして関係をもってから2年、家族にも不倫がバレてしまい、唐木は今の関係を終わらせようとするのですが……。
「Mrサマータイム」は、自らのルックスを武器に次々と女性を抱いていく道夫が主人公。いつものように、いきつけのホテルのプールで美容サロンの美人社長を誘いますがあっけなく失敗。しかしある朝、プールで溺れかけていた彼女を救出し、そのまま男女の関係に。そして知ってはいけない秘密を知り……。
- 著者
- 山口 洋子
- 出版日
男女の関係をストレートな表現で記している本作。生々しいベットシーンや愛を囁きあう場面があったりと、刺激の強い内容です。大人の恋愛がテーマということもあり、登場する女性の放つ言葉には不思議な魅力があります。
例えば「ドント・ディスターブ」に登場する女性は唐木を次のような言葉で誘っています。
「そうよ、不倫。正しい不倫のありかたって唐木さん御存知」(『ドント・ディスターブ』より引用)
色っぽい雰囲気をまとった女性の口から、こんな言葉が出てきたら男はイチコロなのでしょう。読者も心を持っていかれそうな感覚になってしまいます。
愛し合う男と女たちには、果たしてどのような結末が待っているのでしょうか?読み進めずにはいられない、そんな魅力にあふれた短編集です。
直木賞を受賞した山口洋子の代表作
1985年に直木賞受賞した『演歌の虫』。いわずとしれた山口洋子の代表作です。主人公は作詞家として活動する中村容子。そして、彼女と仕事での親睦があった有能な音楽ディレクターの室田克也を中心に、音楽業界の裏側を舞台にした物語が進んでいきます。
様々な問題を起こしつつも、頭の中には常に演歌のことがある室田。そんな室田を慕っていた中村でしたが、突然、悲しい別れが訪れます。
- 著者
- 山口 洋子
- 出版日
音楽業界の裏側が描かれている本作。華々しいスター街道を歩む歌手たちとは裏腹に、音楽プロデューサーや作詞家・作曲家といった裏方たちの、陽の当たらない仕事ぶりが詳しく描かれています。しかし、厳しい環境にいながらも彼らが音楽を愛する気持ちは変わりません。健気に仕事に取り組む姿がたくましく映ります。
主人公の女性が作詞家で、名前が中村容子という点から、本作は山口洋子自身の姿を重ねているのではないかと言われています。彼女が生きてきた音楽業界の実態と、そこで出会った人々の温かさを、この作品に投影しているのではないでしょうか。ぜひ、手に取って読んでほしい一冊です。