自意識や心の内の葛藤を描き出す作家、赤坂真理
赤坂真理は1964年に東京都杉並区高円寺で生まれます。現在でもサブカルチャー好きの聖地として知られる高円寺に生まれた彼女は、大学卒業後「SALE2」というボンデージファッション雑誌の編集長を経て、1995年に「起爆者」で小説家デビューしました。
ちなみに赤坂真理が編集長を勤めた「SALE2」という雑誌ですが、ジャン・コクトーやマルキ・ド・サドの翻訳など、フランス文学者としても名高い小説家、澁澤龍彦が評論を上げていたという、サブカルファン垂涎ものの雑誌でもあります。
1995年にデビューした赤坂真理は、『蝶の皮膚の下』で文藝賞、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞の各賞の候補になりました。その後も『ヴァイブレータ』で芥川賞と野間文芸新人賞の候補に選ばれ、『ミューズ』でまたも芥川賞の候補になるなど、なかなか受賞にまでは至らない作品が続きます。
2012年に、天皇の戦争責任や戦後日本を16歳の視点から問う衝撃作『東京プリズン』で、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、2013年に同作で紫式部文学賞を受賞し、一躍大ブレイク。評論家としても活躍していくこととなります。
赤坂真理の作品では、女性特有の自意識や葛藤、というものが主に描かれています。そんな重苦しい内容の作品を、読点を極力排除した、非常に軽やかでリズミカルな、捉えようによっては独特な癖のある文体で描き上げているのが特徴です。
また、「J文学」と呼ばれる1990年代頃に起こった、サブカルチャーよりの若者にウケるポップな純文学運動の中心作家としても知られています。
映画化もされた赤坂真理の代表作『ヴァイブレータ』
頭の中から聞こえる、自分の人格であろう声に苛まれ、アルコールと食べ吐きで精神を安定させているライターの女性が主人公。彼女は、ひょんなことから、コンビニで知り合ったトラック運転手のトラックに乗り込み2人で旅をすることになりました。
道中、体と会話を重ねていった2人は、互いの孤独を埋め合い、主人公の女性は旅の終わりに再生へと向かっていく、というあらすじです。
- 著者
- 赤坂 真理
- 出版日
前半部の、主人公が頭の中で溢れ出す声に苛まれているシーンは、思考をそのまま文章化したのかと思わされるほどリズミカルで、かつ直接的な文章となっています。好き嫌いが分かれる部分ではありますが、このリズムにハマってしまう読者は多いでしょう。
思考をそのまま文章化したかのような、ということはつまり、非常に素直に読むことができるということでもあります。純文学における主人公の内面描写といえば、ひとまず難解で読みづらいものという先入観があるものですが、この作品はそう言ったこともなく、主人公の叫びをただ文字におこしただけ、という感覚すら抱けるでしょう。
ただ、社会に圧殺されてしまいそうな女性が主人公ですので、男性はとっかかりが難しいかなとも思いますが、こんなにも読みやすい純文学があるのかと体感していただきたい作品です。
赤坂真理の書くナイン・ストーリーズ『彼が彼女の女だった頃』
自身の心の声を抑圧しながら、誰にも顧みられることなく生きてきた女性が、ジャズセッションによって解放されてゆく「響き線」。狙っている学校に行ければすべてを手に入れることができると妄信し、しかしそれが幻だったということに気が付く「幻の軍隊」。自身をカメラアイが内蔵された箱のように思っている少年が、とある男性「パパ」と触れ合う中で自分を見つけていく「接続体」他、9編からなる短編集です。
- 著者
- 赤坂 真理
- 出版日
もはや掌編と言っていいような超短編から、中編程度の文量がある作品まで収録した作品集ですが、一貫して描かれているのは、主人公たちの自意識の葛藤、自分は自分であるのか、ということです。
しかし、作品によってその自我の模索方法は様々で、例えば上記の「響き線」の主人公は、弟に誘われた、ホテルでのジャズセッションでの音をきっかけに、少しずつ自身を抑圧する悩みから解放されていきます。
「接続体」は、主人公は男の子なのですが、彼は自意識というものをぼんやりと模索しています。そんななか、その模索していた自身を発見できたのは、主人公を買った「パパ」の言葉や、彼との触れ合いの中ででした。
この小説の登場人物たちは、自分を模索しています。それをセックスなどの行為によって、痛みを伴いながら実感として得ていくのです。「接続体」の主人公の「もっとさわって。僕に意味を書きこんで。僕が可視になるように。僕に意味を注いで。僕が人として生まれるように。」という独白が、この短編集を端的に表すセリフなのではないでしょうか。