凛として立ち、歩き出す力が湧いてくる詩集
関東大震災で生母を失い、その後、3人の義母を持つ中で、たくさんの妹弟との死別・離別を経験することになる、石垣りん。14歳という若さで学業を終え、銀行員として働き、戦前~戦後という激動の時代に、家族の生活を支えながら生きた人生には、想像を超える苦しみや悲しみもあったことでしょう。
その人生から紡ぎ出された言葉は、彼女の名前のように、凛とした強さを感じさせるものです。
- 著者
- 石垣 りん
- 出版日
「自分の住むところには
自分で表札を出すにかぎる。
自分の寝泊まりする場所に
他人がかけてくれる表札は
いつもろくなことはない。
病院へ入院したら
病室の名札には石垣りん様と
様が付いた。
……中略
精神の在り場所も
ハタから表札をかけられてはならない
石垣りん
それでよい。」
(『表札など』より引用)
普段、何気なく素通りしてしまう事柄でも、生きることで磨かれてきた感性には、このように映り、自分の生き方への戒めになっていくことが、まっすぐに表現されています。
大地震、戦争、空襲……生きることそのものが必死だった時代を生き抜き、そこから生み出される言葉は、現代人にとって、磨かれた宝石のように貴重です。
「戦争の記憶が遠ざかるとき、
戦争がまた
私たちに近づく。
そうでなければ良い。」
(『表札など』より引用)
当事者として実際に戦禍をくぐり抜けてきたからこそ、分かり得る「記憶」が、彼女の感性によって「言葉」に結晶したような詩です。切なさと悲しみが、命の尊さと共に、ある種の美しさを帯びながら詠い上げられています。大切な人にプレゼントして、一緒にいる大切な時間を感じてみてはいかがでしょう。
言葉以上に語る空間で詩を表現した1冊
写真家・デザイナーとしても活躍した詩人、北園克衛。『カバンのなかの月夜』には、北園のグラフィックワークと造型詩が編纂されて収録されています。
インパクトのある表紙を見ると、とりあえず扉を開けて中へ入っていきたくなる、そんな不思議な魅力を放っています。そもそも、あまり聞きなれない「造形詩」とはいったいどんなものなのでしょう……。
- 著者
- 出版日
「プラスティック・ポエム」と呼ばれる造型詩は、一言で言ってしまうと、文字を使わない詩です。詩というのは、言葉ありきで成立するものなのではないのかという、根本的な概念を覆しています。実際、ページをめくると現れる、針金や石、洋書の紙片、タイヤなど、身近なもので構成された画面は、詩というよりもオブジェです。
そこに展開される空間に引き付けられ、見入っていると、感情を揺さぶる何かを感じることができるでしょう。それは、詩人の感性であり、その感性に共鳴した読み手の感性でもあります。
言葉というものは、日常生活で常に使用するものなので、受け手によって概念化されやすく、その奥底にある真意を伝えたいときには、得てして邪魔になってしまうことも多いものです。北園が「造型詩」を本書の表現手段に選んだのには、そこにあるのでしょう。
普段、言葉から考えることが当然になっているものにとって、この「造型詩」は、新鮮な感覚に触れることができる貴重な空間です。言葉では表現しきれないものを、大切な人と共に感じ、それについて話し合ってみるのも、お互いの間の距離が縮まるきっかけになるかもしれません。
詩人の感性に触れると、自分の感性も動き出します。忙しさに追われる日常生活の中で、このような機会を得るのは、なかなか難しいものです。詩集をプレゼントすることは、大切な人に、自分の中に眠っている感性に気づくきっかけをプレゼントすることでもあるのかもしれません。
心の中で光る言葉を、大切に思う人へプレゼントするには、この5つの詩集を候補に考えてみてはいかがでしょう。