忌まわしい過去に、兄弟の絆が試される。『いつもの朝に』
何をやっても冴えない中学生の優太と、勉強も運動も優秀な兄、桐人。二人は、周囲からも似ていないと言われる兄弟です。兄に劣等感のある優太ですが、明るい母親との三人暮らしは、それなりに幸せでした。
ところが、優太はふとしたきっかけで、亡き父の形見であるテディベアの中から、手紙を発見します。優太に宛てられたそれは、「本当の父親」の過去を知るための手がかりでした。
手紙の真偽と、自分の出生を確かめるため、優太は手紙に書かれた相手を訪ねますが……。
- 著者
- 今邑 彩
- 出版日
- 2009-03-19
手紙を書いた「父親」は、昔罪を犯していました。兄の桐人に励まされて、優太は恐ろしい事実を何とか受け入れますが、不安が残ります。手紙に書かれた「優太」とは、本当に自分のことなのだろうか、という疑念が湧いたからです。
誰しも子どもの頃、兄弟や身近な人に嫉妬し、劣等感を抱いたことがあるのではないでしょうか?不器用でまっすぐな優太に、そんな経験を思い出しながら、共感してしまうかもしれません。
桐人の予想外の行動と、怯えながらも兄の跡を追う優太。ラストへと向かって、息も吐かせぬ、怒涛の展開があります。二人の緊迫したやりとりは、必読です。
罪を犯した人間の、その子どもは、罪を犯すのでしょうか。血の繋がりへの恐怖から、兄弟が救われるための道のりは、厳しいものでした。このラストは、決して、涙なしでは読めないはずです。
今邑彩の、一風変わった連作短編『つきまとわれて』
各作品に、一つ前の登場人物が関わってくるという、ちょっと変わった連作形式になっています。
三十代後半、結婚を切望しているはずの姉が、良い見合い話を断った原因は、脅迫状らしいのですが……。表題作「つきまとわれて」。
「おまえが犯人だ」では、妹を殺した犯人をあぶり出すため、主人公が仕組んだ罠により、驚きの展開を迎え、「お告げ」では、マンションの中に予言をする超能力者がいるという、噂の真偽を推理します。
他にも、関連する要素のなさそうな8編がどう繋がるのか、是非確かめていただきたいです。
- 著者
- 今邑 彩
- 出版日
- 2006-02-01
どの作品も、謎解きをメインにしたミステリーとなっています。中心になるのは、日常に潜むふとした「なぜ?」という疑問です。
8編全てにきちんと謎解きがありますが、どれもすっきりと読めることが大きな魅力。無論それだけではなく、切なくも悲しくもある、愛憎劇までも楽しめます。
「おまえが犯人だ」は、殺人犯を探すという正統派ミステリーですが、他にもいくつもの謎が扱われており、「逢ふを待つ間に」では、ゲームソフトで妻を娶った男の幸福と、なぜ、破綻してしまったのかという結末が、ちょっと切なく描かれています。
短編ながら、どんでん返しがあるなど、一捻りある作品ばかりです。登場人物の心情に思いを馳せてしまうような余韻が残る、ただのミステリーではおさまらない今邑彩らしい短編集となっています。
見えないものが見えてしまう恐怖『鬼』
ごくありふれた生活を送る人たちも、不意に非日常に落ちてしまうことが……。そんな不安に満ちた短編が、収められています。
死んだはずの友達みっちゃんが、かくれんぼの続きをしている、「鬼」。
「シクラメンの家」では、一見円満だった家庭が、疑心暗鬼に歪み始める様子が描かれます。そして、窓辺に飾られるシクラメンに秘められた合図とは?
全10編からなる短編集です。
- 著者
- 今邑 彩
- 出版日
- 2011-02-18
一編が短めで読みやすく、謎解きの要素もあるので、手軽なミステリーとして楽しめます。
ですが、それ以上に魅力的なのは、何気なく覗く登場人物の内面に、どきりとさせられるところです。
心の中に隠したエゴイスティックな欲望、親しい人の知られざる一面への不安。読み終えて謎が解けた時、改めてゾッとしてしまうでしょう。どの短編でも、そんな恐怖を味わえます。自分の身の周りを振り返れば、似たような不安に思い当たるかもしれません。
読み終えて、どこか現実的で不安の残る短編ばかりです。待ち構えているのは、単なるハッピーエンドではありません。爽快感とはまた違う、一風変わったスリルを味わってみるのは、いかがでしょうか。