中川ひろたか×村上康成コンビの代表シリーズから
中川ひろたかの代表作「ピーマン村の絵本」シリーズは、全12巻を通して保育園での一年間の生活が描かれています。今回ご紹介する『おおきくなるっていうことは』は、4月の入園式、始業式のお話になっており、「成長」をテーマにした一冊となっています。
「大きくなる」とはどういうことでしょう? 身体が大きくなること、できることが増えること、色々なことが考えられるようになること……。色々と成長の指標はあれど、一言で表現するのはとても難しいことです。
そんな疑問を、中川は丁寧に噛み砕き、様々な例を挙げながら、子どもたちに説明してくれます。
- 著者
- 中川 ひろたか
- 出版日
- 1999-01-25
中川の経歴を聞いた上でこの本を読んでみると、まるで彼の保育士時代を見せてもらっているような気分になるでしょう。それは、ピーマン村の保育園の園長先生が、子どもたちにお話しているという設定で書かれているからです。
優しく子どもたちに語り掛ける園長先生の言葉は、子どもたちでもわかるように、難しい言葉は一つも出てきません。なのに、大人が読んでも「うんうん」と頷いてしまうほど、「おおきくなるっていうこと」をしっかり捉えています。
そのお話に合わせて村上の描く子どもたちがまた可愛くて、実に子どもらしいやんちゃさ、おてんばさが滲み出ているのです。
普段はあまり意識することのない、「成長する」ということ。子どもたちの進学、進級のタイミングや、弟や妹ができた時、お誕生日などの節目節目だけでなく、大人が行き詰ったと感じた時も、何度も何度も繰り返し読みたくなる絵本です。
中川ひろたか×あべ弘士で送る、面白おかしい絵本
わにのスワニーとシマフクロウのしまぶくろさん、仲良しの2人の楽しい毎日を描く面白おかしい3篇のお話。上でご紹介した『あっぷっぷ』のように、徹底的に子どもたちを楽しませるために描かれたような絵本です。
かと言って、まったくテーマ性が皆無かと言うと、そうでもありません。仲良しで毎日一緒に遊ぶスワニーとしまぶくろさん。2人の日記は、同じことをしているのに全く違います。同じことでも、人それぞれ感じ方が違うこと、みんな違うけど仲良くなれるということ、生活の中で子どもたちが極々自然に身に着けている多様性を、自然と描いているのです。
- 著者
- 中川 ひろたか
- 出版日
- 2016-07-23
本作を語る上で避けて通れないのは、「しまぶくろさん」の強烈なキャラクター性でしょう。名前からして、しまふくろうの「しまぶくろさん」ですから、既に大人は「しょうもない」と思いつつもクスリとやられてしまいます。
そんなしまぶくろさんですが、スワニーからかかってきた電話に「しもぶくれです」と出たり、とにかく細かく丁寧なぐらいにふざけて見せてくれるのです。そんなしまぶくろさんのかますネタに素直に乗っかるスワニーのおかげで、しまぶくろさんの面白さが増幅され、キャラクターが際立ちます。
加えて、特筆すべきはあべ弘士の絵でしょう。動物が主役の絵本を数多く手がけるあべ弘士は、名作『あらしのよるに』の絵を担当したことでも有名です。そんなあべ弘士は、本作では中川の思い描く、すっとぼけたような作品の雰囲気を見事に絵で再現。可愛さの中にもナンセンスさを秘めた、ひょうきんな動物を描き出しています。一度読んだ後に絵だけを流し読みしてみても、何だか笑いが込み上げてくるような描写なのです。
子どもを楽しませるために、真剣な姿勢をとる中川にしっかりと応えたあべ。2人の強力なコラボレーションで送るオモシロ絵本です。ぜひ、皆さんも読んで笑顔をもらってください。
忘れられない、あの夏の一日。中川ひろたかが祈るように描いた絵本
最後にご紹介するのは、日本に生まれた我々にとって、忘れてはならないあの夏の一日、広島に原爆が落とされた日のことを絵本にした作品です。
中川は叔父を原爆で亡くし、母も被爆を経験しています。その事実が、孫まで授かった中川に、本作を書く決意をさせたと言います。
彼のように、子どもと向き合う仕事をしていると、子どもたちの笑顔が普通に見られるような平和な日々がいつまでも続くように、自然とそんな気持ちが芽生えてくるのでしょう。
この絵本は、中川の母の視点から描かれますが、中川の母もまた、投下後一週間たった街に入り、被爆しています。それでも生き延び、自分を産んでくれた、自分の孫まで至る命を繋いでくれた母の気持ちを何とかして多くの人に伝えたい……その想いが形になったのが、この絵本なのです。
- 著者
- 中川 ひろたか
- 出版日
- 2011-07-15
本作は、最初に取り上げた『おこる』と同じ、長谷川義史が絵を担当しています。中川は、アメリカ旅行の帰りの飛行機の中で、長谷川にこの絵本の話を語り、絵をお願いできないかと依頼しました。それに対し、長谷川も即応じ、飛行機から降りてすぐ、出版社に電話して「自分に描かせてほしい」と頼んだそう。このエピソードだけでも、2人のこの作品に対する熱く真剣な想いを感じていただけるのではないでしょうか。
また、本作には英文も掲載されていますが、これはどうしても世界中の人に触れてもらいたいという中川の希望によるものです。
8月6日のことですから、内容は生々しいかもしれません。読むのが辛くなってくることもあるかもしれません。しかしそれは、中川と長谷川両名が、原爆体験者と真摯に向き合い、その想いをなるべくそのまま伝えようと真剣に取り組んだ結果なのです。
未来を生きる子どもたちのため、二度と同じ悲劇を繰り返さぬよう、戦争の悲惨さを真摯に描ききった作品です。