男女の縁とは妙ちきりん
『縁切り神社』は文庫オリジナルの恋愛小説集です。中には恋愛ではない話もあるのですが、ほとんどが少々癖のある恋愛話となってます。癖はあるのだけれど妙にリアル、そして思わずはっとさせられる、そんなお話が満載です。
恋愛には幸せや喜びもあるけれど、同時にある痛みや苦しみ……そこにスポットを当てている作品に思えます。
人の気持ちなんて分からない、けれどどうにかして知りたい。そんなもどかしい気持ちが伝わってくるような作品です。
- 著者
- 田口 ランディ
- 出版日
表題作の主人公、水野季実子は京都の神社で自分の名前と元彼の悪縁が切れるようにと書かれた絵馬を見つけ、思わずぞっとします。
その元彼とは1ヶ月前に別れたばかりで気分転換に訪れた京都、迷い込んだ神社で偶然見つけてしまった絵馬……なんの因果なのか見つけたからには無視することができず……。
当たり前ですが人と人が関われば何かが起こる、特に恋愛においては互いの感情、更に別の人物の感情や思惑が錯綜し絡み合い、より複雑になっていきます。
しかし、いくら話が複雑に絡んでいるように見えても、最後に見えてくるものは単純なこと。男も女も、愛されたくてたまらないのです。
欲しいもので全てを満たしたい。何かが欠けても嫌なのに、求めることの浅はかさと虚しさにも気づいて、やるせなくなってしまう……そんなリアルな痛みが表現されています。実際にそんな気分になるのは、少々辛いと思うので、読書越しに感じて見てはいかがでしょう。
あの山にどうして惹きつけられるのか
古来より信仰されている富士山霊……その山に引き寄せられたそれぞれの話が集められた一冊です。
「青い峰」、「樹海」、「ジャミラ」、「ひかりの子」という中編小説4編で構成されており、そのどれもに富士山が登場します。
全編から富士山はそびえ立ち、私たちをそっと見守ってくれている、何をしてくれるわけではないけれどずっと……そんなメッセージが込められているようです。
- 著者
- 田口 ランディ
- 出版日
- 2006-03-10
新興宗教の信者として解脱するために修行していた男を主人公にした「青い峰」は主人公の男がコンビニのチーフをしている様子から始まります。
元々は医大生だった彼がどのようにして現在に至ったのか、そしてこの世界に生きるということは……。
「樹海」は中学を卒業し、それぞれの進路がある15歳の男の子3人の物語です。
卒業記念に富士の樹海に入り過ごした一夜の出来事を描いてます。
市役所の環境課に属する青年が主人公の「ジャミラ」ではゴミ屋敷に住む1人の老婆との邂逅によって青年はゴミとは一体何なのか、それを拾う者と捨てる者……ということを考えつつ今までの自分を見つめ始め……。
「ひかりの子」の主人公は産婦人科に勤務する看護婦でひょんな事から富士登山をすることになり……山頂を目指して登っていくうちに自身の心の中の思いが解けていきます。
それぞれ主人公が異なる4編であり、内容もリンクしているわけではないのですが、富士山で繋がっている作品です。
どれも切なさや物悲しさを含んだ作品なのですが、雄大な富士山の前では些細な出来事なのかもしれないと思わせられます。
田口ランディが綴る、本物の恋をするための自分探し
「この短編集に描いた女の子たちは、みんな「石探し」をしている。自分の気持ちを見失って、ジャストな自分を探そうとしている。」(『ミッドナイト・コール』あとがきより引用)
恋愛短編集『ミッドナイト・コール』、どの物語も女性が主人公です。
彼女たちは働く大人の女性だけれど、不安や不満を抱えつつ生きている……当たり前ではあるが、それでもどうしようもなく感情の渦に巻き込まれてしまいます。
- 著者
- 田口 ランディ
- 出版日
- 2003-10-02
女たちはかくも愚かなまでに愛されたくてたまらない、けれど愛してもらえないから求め続けている……だからと言って必ず愛してもらえるとも限らない……。
各作品どれも主人公の女性たちはどことなく満たされていません。失恋している話が多いせいもあるでしょうが、共通して男の気持ちが分からないのです。
どうしてこんなに好きなのに、何でわかってくれないのだろう……そんな彼女たちの声が聞こえてくるようでなりません。
「私がこの短編集を書いたころ、私は自分に自信がないのは自分だけだと思っていた。とても自己嫌悪を感じていて、それで書いたのがこの一連の短編なのだ。」(『ミッドナイト・コール』文庫版のためのあとがきより引用)
つまり不安なのは彼女たちだけではない、誰だって他人のことを確実に理解し得ないのだから多かれ少なかれ不安に思うことはごく自然なことなのです。
ただ人の気持ちは見えないことが多いので比べられません。それゆえに不満を抱いたり不安になったりするのです。
自分を見失うことがあったとしても大丈夫、また恋をすればいい、この本にはそんなエールが込められているような気がします。