本当に怖いものは…?妖怪ものの真骨頂アリ!第3巻
学校のとある小部屋には、何かがいるらしい。
学校の怪談として語られるその噂が現実のものとしてささやかれるようになる頃、新任数学教師の三浦が奇妙な行動を起こすようになります。演劇部の物置となっている小部屋、その壁に書かれた恨み言。禍々しい気配。そして、襲いくるのは――。
形のないものが好む、形のあるものの虚。これまでの明るく元気な展開から一転、ジャパニーズホラーを感じさせるのが『妖怪アパートの幽雅な日常』3巻です。
- 著者
- 香月 日輪
- 出版日
- 2009-12-15
夕士も気づけば高校2年生。アパートの賄い、るり子の作るお弁当は見た目も栄養バランスも完璧で、夕士は昼休みになるたびにクラスメイトの女子に囲まれています。
ハーレム状態の夕士を面白く思わない同級生も現れるものの、夕士は運送会社でのアルバイトで鍛えられた肉体と妖怪アパートで培われた度胸でやっかみを退けていきます。
しかし、夕士を面白く思わないのは同級生だけではありませんでした。それが新任数学教師の三浦です。
女子高から転任してきたという彼は、夕士が女子生徒に囲まれている姿を見て激昂します。乳繰り合うな、と鬼のような形相で怒鳴る三浦の姿は、普段の、感情や面白さを一切削ぎ落とした授業をしている姿とはまるで別人です。
この状況に初めに警鐘を鳴らしたのはプチ・ヒエロゾイコンのフール。フールは学校の怪談を解き明かすことを夕士に勧め、その調査の中で夕士は恨み言の書き連ねられた壁と、そこを巣窟とする禍々しいものに対峙することになります。
一生懸命やっているのに報われないなんておかしい、と叫ぶ三浦。年をくっただけの人間は大人とはいえない、と語る長谷。本当に尊敬できる大人に、自分はなれるだろうか。なれているだろうか。ふと自らを振り返りたくなる一冊です。
成長が成長を生む第4巻!
高校2年の夏休み。夕士は今年も運送会社でのバイトに精を出します。しかし、バイト先ではちょっとしたトラブルが。
なんと、新しく雇った若いバイトの半分以上が辞め、かろうじて残った2人も、ろくに挨拶もせず、休み時間もスマホを見ていて周りの会話に入ろうとしないというのです。
押しつけられた新人教育。仕事中に見つけた飛び降り自殺寸前の女性。夕士の熱い夏が始まります。
- 著者
- 香月 日輪
- 出版日
- 2010-06-15
『妖怪アパートの幽雅な日常』4巻を一言で言えば、「成長し、成長させること」でしょうか。今作では妖怪アパートの住人達に支えられ成長してきた夕士が、他者の成長を手助けすることになります。
最初の成長は夕士。夕士は修行がレベルアップしたことで、一回の修行が終わる頃には意識を失っていたり、立てなくなって霊能力者や画家に抱えられ風呂に入れられるなど、尋常ではない経験をします。この状況から抜け出したいともがく夕士を、秋音含む周囲の大人たちが自分の経験を語ることで励ましていきます。
次の成長はバイト先の新人2人。彼らはやる気がそれほどあるわけでもなく、しかしそれ以上に他者との関わり方のわからない若者です。仕事でわからない言葉が出てきても聞かない、道具を使わない。社員たちには理解できないその行動は、聞いていいかわからない、勝手なことをして良いかわからない、といった葛藤からくるものでした。
少しの言葉で人を不快にしてしまうことを知っているからこそ、ためらってしまう。夕士は会話のきっかけをつくることで、新人たちに一歩踏み込む勇気を与えます。
一方、夕士の奮闘を見守る妖怪アパートの住人達は、新人たちのコミュニケーション不全は情報の性質の変化が原因ではないか、と推測します。
今でこそ情報はインターネットで手軽に得られるようになったものの、本来、情報とは与えられるものではなく、自分から動いて取りに行って初めて得られるものだ――そう語る詩人の言葉は、まるでこちら側を見透かしているようです。
さて、最後の成長は、飛び降り自殺をしようとしていた20歳前後とみられる女性。しかし彼女は化粧や服装が派手なだけで、友人関係や親との関係に悩む普通の小学6年生の女の子でした。見た目ばかり育ってしまって心の成長が追い付かない。周りの「似合うよ」を信じてちぐはぐになってしまった有美に、夕士は心ばかり大人になろうとしてちぐはぐになっていた過去の自分を重ねます。
後日、お礼を言いに来た有美に請わて夕士は、自分の所属する英会話クラブの活動の一つである、外国人クラブ主催のバーベキュー大会へと有美を連れて行きます。夕士に挨拶をきちんとするようを言い含められ、緊張しながらバーベキューに臨んだ有美は、そこで初めて、尊敬できる大人たちに出会うのでした。
それまで周りにいた薄っぺらい話ばかりの友人や大学生たちとは違う、人生に深みを持った大人たちの言葉や経験談。それらは有美に将来の夢を与え、そのために英語を学ぶという目標を定めさせます。
今作で一番成長するのは初登場の有美でしょう。しかし、これまで与えられるばかりだった夕士が与える側になっていたという、見えづらい成長に気づかされるのも、『妖怪アパートの幽雅な日常』4巻の魅力と言えます。
恐怖要素にゾクゾクな第5巻!
「滝が欲しい……」
夕飯の時間、秋音がつぶやいた一言にアパートの住人はにわかにざわめきます。
「今度は滝で修行? 大変だねー」
ラクガキのような顔で笑う詩人。どうせ滝を造るならアパート地下にある洞窟温泉の横に造って一杯やろう、と楽しげな画家。大家さんに頼んでみよう、と和風カレーうどんをおかわりする秋音(三杯目)。かくして、町のど真ん中、おんぼろアパートの地下に、勇壮な滝が出現することになります。
一方、夕士の通う高校には新しい教員が現れます。二人のうち一人は若いイケメン、もう一人は美女。浮き足立つ生徒たちに、迫る文化祭。実りの秋が始まります。
- 著者
- 香月 日輪
- 出版日
- 2011-01-14
『妖怪アパートの幽雅な日常』5巻では、敵役という表現がぴったりの新任美女教師の青木や、自己中心的な言動ばかりの少女が夕士たちを悩ませます。それを象徴的に表しているのがこの言葉。
「地獄への道は善意で舗装されている」(『妖怪アパートの幽雅な日常』5巻より引用)
正義や正論を振りかざし、自覚なく悪意を振りまく人たち。こちらが何を言っても傷つくことなく、一切の言葉が届かないような人たち。そういった人たちと対峙するべく、生徒会長の神谷や英会話クラブの江上部長といった、男前でまっすぐな女子生徒が登場します。
一面的にしか物事を見ず善意や正義で相手を支配しようとする人たちと、いかにして共存してゆくのか、夕士たちの奮闘に思わず応援したくなること間違いなし。
中盤までは軽快なテンポでテンションの高いストーリーが展開されますが、終盤ではイケメンの千晶先生が女子生徒に刺されるなど、ホラーとはまた別の、ぞくりとするストーリーに。中盤との落差がずしりとくる構成となっています。
それらのお口直しともいえる巻末付録は「スペシャル・ヴァレンタイン・デー」。
成仏するために妖怪アパートで暮らす幼い幽霊クリと、夕士と長谷による心温まるストーリーです。母親に殺されてしまったクリが妖怪アパートで幸せを受け取ってゆく姿は、クリの愛らしさも相まって幸せな気分にさせてくれます。
ありのままに生きることの価値、そして、生きやすく生きること。アパートの住人たちや悩みながら進む夕士たちが、前へ一歩進む勇気をくれる一冊です。