主人公を取り巻く日常を描いた作品
主人公は、古道具を扱うお店「フラココ屋」の2階に住んでいる男性。彼がどんな人なのか、というよりも、この作品のメインは主人公の周りの人物です。近所の人たちの様子を、主人公が淡々と語っていきます。
- 著者
- 長嶋 有
- 出版日
- 2009-04-15
雑誌「新潮」にて掲載された連続短編集です。大江健三郎賞を獲得しました。
主人公はフラココ屋の住み込みアルバイトをしています。フラココ屋の周りには、変人と自覚していないような変わった人物たちがフラフラしているのです。
大家さんの孫娘、相撲好きな外国人、居候の人物など、ここでしか出会えない人たちがたくさん出てきます。
みんなどこか不安定で、ゆるゆる生きていました。仲良くしようと思っているわけではないけれど、身近にいることで自然と仲が深まります。
しかし、そんな生活はずっと続くわけではありませんでした。主人公の周りの人物たちは巣立っていきます。彼らはゆるい環境の「フラココ屋」の周辺に、このままいたいような気もしますが、1人ひとり人生のために旅立っていかなければならなくなるのです。
この作品では、大きな事件が起こるわけでもない、日常を淡々と追っていくお話となっています。また、主人公についての詳細な記載はありません。彼は、周りを観察し、記していくだけ。
人と人とのつながりや、思いやり、離れていってしまう寂しさなどが描かれているのです。なんでもない日常にも、必ずストーリーがあります。そんな部分を感じ取ることができる作品と言えるでしょう。
読めばきっと、心が温かくなります。
長嶋有の妄想をたくさん詰め込んだ作品
『安全な妄想』という題名の通り、長嶋の妄想がたくさん詰まったエッセイです。賞をいただいた大江健三郎のことや、日常で感じることを綴ります。
前回のエッセイよりもさらに妄想が詰まった作品です。
- 著者
- 長嶋有
- 出版日
- 2014-11-05
66篇のエッセイが詰まった内容です。
長嶋有が日常の中で感じたこと、考えたことをより深く追求していきます。といっても難しい話ばかりではなく、中には笑ってしまうような作品もあるのです。
特におすすめしたいのは、「愛しのジャパネット」。ジャパネット通販の番組を見ながら長嶋有は考えを巡らせます。商品のこと、出演者のこと、それからその場の雰囲気まで妄想するのです。題名の通り、ジャパネットという番組が好きだからこそ、深く考察する姿が非常に面白く感じられます。
普段何気なく見ているものも、長嶋有の手にかかれば物語になってしまうのでしょう。
彼は、他の作品でもなんでもない日常を多く描きます。小説の数々は、彼の何気ない「妄想」からくるものなのかもしれません。一般人ではそこまで考えつかないだろう、という感性にあっと驚かされることでしょう。
読みやすく、長嶋有の姿が身近に感じられることでしょうが、芥川賞を受賞した人物らしい風格も垣間見える作品です。決して親近感を感じさせず、かといって敷居が高いわけでもない。そんな微妙なバランスを保てるのは、彼の実力ゆえなのではないでしょうか。
ぜひ読んで見てください。
それはなんでしょう?答えがない遊び。
主人公のネムオは、「それはなんでしょう」というゲームをTwitter上で開催しました。
参加者は、お題に沿って自分の答えを発表します。そして、答えが発表されたのちに考察や解釈を披露するのです。
Twitter上では、この遊びを中心として様々な事情を抱えた、年齢も趣味も異なる人たちが交流を深めていきました。
- 著者
- 長嶋 有
- 出版日
- 2016-07-08
「それはなんでしょう」というのは、質問に対して答えるというシンプルな遊びです。しかし、その質問は、何を聞いているものなのか、明らかではありません。そのため、自分でも何を答えたらいいかわからず、無理やり回答するのです。
この遊びは、前に紹介した『ねたあとに』でもあそばれていました。いわゆる「言葉遊び」で、正解はありません。ただ、自分が考えついたことを話していくのです。
作品の舞台となる時代は、3.11が起こった直後でした。TwitterなどのSNSが流行り始めた時、初めて人命救助の意味を持ってSNSが使われた時でもあります。
SNSでの人と人との繋がりは、詐欺や犯罪の可能性もあり、あまり良しとしない意見も見られることでしょう。しかし、SNSの良いところは、知らない土地で違う生活をしている人と繋がることができる、という点にあります。
その部分を改めて気づかされる作品なのではないでしょうか。
知らない人たちでも、論じ、考えを共有することの大切さや、世界にはまだ出会ったことのない人がいる面白さに気づくことでしょう。