謎解き一級品のハードSF
『星を継ぐもの』はもはや読んでいないのは損だと言っていいハードSFの傑作である。SFミステリの存在に気付いたのはこの作品がきっかけだった。
「月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。綿密な調査の結果、驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもなければ、ましてやこの世界の住人でもなかった。彼は五万年前に死亡していたのだ!」
――もうこのあらすじ紹介だけでワクワクしてしまう。アクションやコメディ要素は皆無で、科学者たちが仮定を積んで「死体の謎」を一つ一つ解明していくだけのシンプルな構成だが、読み進めるほど知的興奮が高まっていく。このプロセスはほとんど本格ミステリと言ってよく、ラストで合理的な解答が示されたときのカタルシスは筆舌に尽くしがたい。アメリカのミステリ専門誌にレビューが掲載されたことからも、この作品が「謎解き小説」として一級品であることがうかがえる。
- 著者
- ジェイムズ・P・ホーガン
- 出版日
- 1980-05-23
独創的な「倒叙形式」SF
こちらもSFミステリの代表作として知られる古典的作品。
『分解された男』の舞台は、テレパシー能力を発現した人々が登場し、犯罪の計画でさえ未然に察知されるようになった24世紀。大企業モナーク物産の社長ベン・ライクは、全太陽系の産業的支配を目論み、ライバル会社社長の殺害を企てる。心を読まれぬよう対策を施し、殺人をやり遂げたライクだったが、最高級のエスパーを持つ刑事リンカン・パウエルは犯人をいち早く見抜く……。
特筆すべきは、なんといっても『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』のような倒叙形式で物語が展開することだ。テレパシーを駆使するパウエルと、手練手管を尽くして対抗するライクの駆け引きがとにかくひじょうに面白い。テレパシーがあるんだからすぐ解決するだろ、と思うところだが、もちろんそこは手ぬかりなく、心をのぞいても、のぞいた内容は証拠として採用できず、動機・方法・機会の客観証拠を揃える必要があるのだ。
特徴的な文字デザイン(これは実際に読まないと説明が難しい!)あり、意外な結末あり、半世紀以上前の作品ながら、きわめて独創的な1冊だ。第一回ヒューゴー賞受賞。
- 著者
- アルフレッド・ベスター
- 出版日
不安定で不可思議な短篇集
アメリカのミステリ作家ヘレン・マクロイの短篇九篇が収められた異色傑作選が『歌うダイアモンド』だ。どのように異色かというと、ミステリの垣根を越え、超常現象や怪奇現象、さらには人間の心理や精神に至るまで、幅広い射程からアプローチしているところだ。そう、まさしくSFミステリの醍醐味を味わうことができる短篇集なのだ。
ダイア型の奇妙な飛行物体を目撃した人々が次々と怪死する表題作、ドッペルゲンガーに苦しめられる女性教師の謎を追う『鏡もて見るごとく』、火星人と地球人のシニカルな邂逅を描く『ところかわれば』、清朝末期の北京で起きたロシア公使夫人失踪事件を追う『東洋趣味(シノワズリ)』……。どの短篇も、謎への答えを示したのちに、どきりとする楔を打ち込んでくるのが特徴だ。しかもそれは、恐怖であったり、悲愴であったり、希望であったりと、多彩でどこか不安定である。
読み終えた後も、ジャンルを超えた深甚たる詩情に、この世の在りように思いを馳せてしまう……そんな不思議な短篇集である。
- 著者
- ヘレン・マクロイ
- 出版日
- 2015-02-27