原作をもっと楽しめる『クマのプーさん』絵本シリーズ
ミルンの手から離れてしまったプーさんですが、ミルンとシェパードが関わっているものが全く出なくなったわけではありません。
最初にご紹介したのは、原作から3話だけを収録した絵本でしたが、こちらは原作の「プーのはちみつとり」、「プー あなにつまる ふしぎなあしあと」、「プーのゾゾがり」、「イーヨーのたんじょうび」、「カンガとルー 森にくる」の5話を、1話ずつ1冊にまとめて刊行した、絵本シリーズです。
- 著者
- アラン・アレグザンダー・ミルン
- 出版日
ミルンとシェパードのオリジナルコンビに加え、翻訳も日本語版ではオリジナルキャストと呼んでも過言ではない石井桃子という、とても贅沢な絵本です。
第1集となっていますが、第3集まで刊行されているので、コレクションしてみるのも良いかもしれません。
最近はインテリアとして本を購入する方も増えています。そういう方にも、カラフルでかわいい装丁のこのシリーズは喜ばれるのではないでしょうか。
最初にご紹介した絵本版では物足りないけど、児童小説版は挿絵が少なくて、子どもに読み聞かせるのには……という方におすすめです。
これこそ原点。原作への愛が感じられる素晴らしい装丁の絵本
プーさんの生誕80年を記念して出版された、愛蔵版絵本です。
ミルンもシェパードも亡くなってしまったけれど、遺された作品へ向けられる読者たちの愛は、止むことはありません。
最初に紹介した『絵本クマのプーさん』は、日本語版として文を縦書きで記載してある「縦組み」でした。
シェパードの挿絵と石井桃子の名訳で、「原作に近い、日本語版の絵本」としての体裁は整えてあります。しかし英語は横書きですよね。画面構成が変わってくるので、そういった意味では、縦組みは少し原作の雰囲気を削いでしまっていたのかもしれません。
対して、こちらの愛蔵版は、文を横書きで入れている「横組み」になっています。
- 著者
- A.A. ミルン
- 出版日
- 2006-09-05
原作の装丁や構成、今もこの作品を愛している愛読者たちの心情も考慮した装丁となっています。中のページも、白が美しく出るように薄いクリーム地にしてあるなど、その繊細な気遣いが、本の隅々まで行き届いている作品です。
単純にハードカバー化して、ちょっと豪華に箔押しで飾って……という風に終わらせなかったのがよく分かる完成度です。
『クマのプーさん』誕生に隠された、本当にあったお話
さて、最後にご紹介するのは、『クマのプーさん』にまつわる、本当にあったお話。原題『Winnie the Pooh』のネーミングの由来となった、クマのウィニーのお話です。
この本で語られるウィニーは、第一次世界大戦の頃に実在したクマ。当時、カナダ軍に従軍していた獣医師のハリー・コルバーン中尉は、猟師さんから孤児の子グマを20ドルで譲り受けます。
コルバーン中尉の故郷であるウィニペグにちなみ、「ウィニペグ」と子グマは名付けられました。そう、ウィニーはウィニペグの愛称だったんですね。
詳しくは、ぜひ読んで確認していただきたいのですが、コルバーン中尉が従軍していた連隊が出征することとなり、ウィニーはその途中でイギリスのロンドン動物園に預けられ、1919年12月、正式に寄贈されました。
ミルンの息子、クリストファーと出会うのはそれからのこと。
当時の動物園では、子どもが柵の中に入り、餌を与えることも可能だったそうで、ウィニーに蜂蜜を与えたクリストファーはえらく気に入り、自分の持っているテディベアに「ウィニー」と名付けたのです。
- 著者
- リンジー マティック
- 出版日
- 2016-08-27
ウィニーは、直接的にプーさんのモデルになったわけではありません。プーさんの物語は、クリストファーと母ダフネが遊びの中で紡いだ物語ですから、個性や人格も、クリストファーやダフネの思い出が元になっています。
しかし、ネーミングの由来になっていたりしますよね。それは、ミルン家の親子が出会った様々なめぐり合わせが奇跡的に積み重ねられ、今のプーさんの形を成しているということではないでしょうか。
つまり、何か一つ欠けていたら全く違うプーさんの形になっていたかもしれない、ということです。
コルバーン中尉がウィニーと出会わなければ、ウィニーが渡英しなければ、ロンドン動物園でクリストファーとウィニーが出会わなければ……そう思うと、本当に奇跡的ですね。
ちなみに、この本の著者リンジー・マティックは、ハリー・コルバーン中尉の曾孫にあたります。
もし、リンジーが絵本という形でこのお話を世に送り出す縁に恵まれていなかったら、この絵本も誕生しなかったと考えると、『クマのプーさん』が誕生したこと自体が奇跡だったと感じずにいられませんね。