文学としての童話を築き上げた小川未明
浜田広介と坪田譲治と並んで「児童文学界の三種の神器」と評され、「日本のアンデルセン」「日本児童文学の父」などの異名も持つ小川未明は、ロマンティックで清潔な作品が持ち味の日本を代表する童話作家です。短編を得意とし、ロマンティックな作風をベースに詩情の込められたもの、ヒューマニズム精神にあふれたもの、リアリズムを追求したものなど、独特で多岐に渡る作品が長きにわたり読み継がれています。
小川未明(本名 小川健作)は新潟県高田(現在の上越市)生まれ。早稲田大学英文科に在学中、処女作「漂浪児」を雑誌『新小説』に発表したことにより作家としての人生を歩み始めます。しかし、作家として地位を築き始めた1926年(大正15年)、童話作家になることを宣言。その後は日本児童文学者協会の初代会長を務めるなど、日本の童話文学の第一人者として精力的に執筆を行いました。
小川未明の作品が短編である理由は、雑誌への掲載作品が多いという時代背景によるものです。その一方で未明と共に「児童文学界の三種の神器」と呼ばれた坪田譲治によると、本人の"短気"な性格によるものではないかとも言われています。
「先生は好きだと来たら矢も楯もたまらぬように大好きで、嫌いと来たら、これも矢も楯もない大嫌いとなられる性であるようです。」(『小川未明童話集』解説より引用)
好きなものに対する熱い情熱が、このような後世にも語り継がれる日本童話の礎となっているのでしょう。
醜い心を描いたヒューマニズム作品『赤い蝋燭と人魚』
人間の住む町は美しく、人情があって優しいと信じた妊婦の人魚。赤ん坊が幸せになるようにと、海岸の小さな町のお宮に産み落とします。その赤ん坊を拾ったのは子どものない老夫婦。2人は神様のお授け子だと大切に育てることにしました。
やがて大人しく利口な娘へと成長した人魚は、老夫婦のために災いを避けることの出来る蠟燭(ろうそく)を作ります。しかし老夫婦は、名声を聞きつけた香具師の口車に乗って大金と引き換えに人魚を売りに出してしまい……。
- 著者
- 小川 未明
- 出版日
- 2002-01-01
1921年(大正10年)に天祐社から刊行されたものを底本とした、小川未明の代表作です。
自分の子どもに幸せになって欲しいという願いを込めて断腸の思いで人間世界に送る人魚の母親、姿形が違うため引きこもりがちで内気だけれども心優しい人魚の娘、商売のため言葉巧みに人をだます香具師、大金に目がくらむ老夫婦、この5人のヒューマニズムを描いた物語。特に老夫婦の心の動きには人間の根柢にある身勝手で弱い部分が描かれています。
人魚の娘が作る蝋燭が売れることにより、老夫婦にはお金が、災いを防いでくれる神様には名声が手に入ります。しかしその時、蝋燭を作った人魚の娘のことを慮る人間は居ません。子どもにもわかり易い表現で描かれたこの部分、大人が読むとドキッとするのではありませんか?
最後、人魚の娘を貶めたことにより、様々な不幸の訪れとともに村は滅びます。もし香具師が現れなかったら……、もし香具師の口車に老夫婦が乗らなければ……、村は滅びずに済んだのでしょうか。あなたはどう思いますか?
静かな夜の優しい物語『月夜とめがね』
月のきれいな穏やかな晩。おばあさんが針仕事をしていると、見知らぬ男が眼鏡を売りにやってきます。丁度目が霞んでいたおばあさんのために、男が選んだのはなんでもよくみえるという眼鏡。その眼鏡のよく見えることと言ったら!
しばらくの後、今度は美しい女の子がやってきます。香水製造場に働くという女の子は指を怪我して血が止まらないとのこと。傷の手当てをするために先ほどの眼鏡をかけたおばあさんの目に映ったものは……。
- 著者
- 小川 未明
- 出版日
- 2015-05-20
童話らしい愛らしく温かみのある物語です。舞台は月のきれいな春の夜、出てくるのはいつも針仕事をしている心優しいおばあさんです。
おばあさんの元にやってきた2人のお客さんはとても風変わり。夜中に訪れる眼鏡屋さん、そして12、3歳の少女は、ともすればとても気味の悪い来訪者です。しかし2人のお客さんは美しい月明かりに照らされ幻想的に描かれていますから、何が起こるのだろうかとワクワクしてしまうことでしょう。
幻想的で美しい月の出る夜には、ファンタジー溢れる素敵なことが起こるかも……読み終わるとそんな気持ちになりますよ。月のきれいな夜には耳を澄ませてみませんか?