3巻『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと消えない絆〜』
3巻ではまた新たな主要人物が登場します。辻堂にある「ヒトリ書房」を営む井上太一郎です。古書の市場で、栞子たちが落札しようとしていた本をほんの少しの差で落札する場面から、彼の目利きが良いことが分かるでしょう。
この市場で、大輔と井上は知り合いました。お互い会うのは初めてだったはずなのですが、井上はさらりと「お前が五浦か」と言います。さらに「栞子に気を付けろ」という内容のことを言われるのです。
大輔はなぜ自分の名前をこの人が知っているのだろうか、どうして栞子さんをそんな風に言うのか、と疑問に思うのでした。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2012-06-21
1話目は、井上が市場で落札した荷物の中から『たんぽぽ娘』という1冊が無くなっていることに気が付き、栞子が盗んだと疑ってかかるところから、物語が始まります。
彼は栞子の母・篠川智恵子と仲が悪かったため、栞子に対しても良いイメージを抱いていないのでした。
この話は『たんぽぽ娘』を盗んだ真犯人を探しながら話が進んでいきます。またしても栞子は、少しのヒントと持ち前の洞察力から、真犯人にたどり着くのでした。 そしてこの事件が解決した後、大輔はなぜ自分の名前を知っているのか井上に質問するのです。
それに対して井上は栞子の母親、篠川智恵子が送ってきたクリスマスカードを見せます。 カードには、自分と近しい人間しか知らないはずの「本が読めない体質」のことも触れられていたのでした。
なぜ体質のことまで知っているのか。母親と音信不通というのは嘘で、栞子は実は篠川智恵子と連絡を取っているのだろうか、井上が言っていた「気を付けろ」とはこのことか、と大輔は不信感を募らせていき……。
栞子への信頼が揺らぐ大輔の葛藤に、ハラハラさせられることでしょう。
4巻『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと二つの顔〜』
4巻では、篠川母娘の関係が前進します。なんと、篠川智恵子が栞子の前に姿を現すのです。なぜずっと連絡をよこさなかったのか、彼女は一体どこから大輔の情報などを知り得たのでしょうか。
鍵を握っていたのは、1巻の時に小山清の『落穂拾ひ・聖アンデルセン』をめぐる事件の相談にやってきた常連の、志田と名乗る男でした。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2013-02-22
この巻では登場人物の人間関係の変化が見どころといえます。篠川母娘だけでなく、ヒトリ書房の井上と初恋相手の関係や、大輔と栞子の関係も大きく動き始めるのです。
もちろんこのシリーズの大きな軸である「古書をめぐる事件を解決する」という流れは同じですが、今までの巻よりも登場人物の心境の変化が細かく描かれています。
特に、篠川栞子と妹の篠川文香が、母親に対する考え方が違うことから仲違いをしてしまうのですが、その関係の修復にも本が使われている描写が秀逸です。
『旅の絵本』という本を栞子、文香、智恵子の三人で眺めている場面はとても素敵で、それまでの確執が嘘だったかのように描かれています。
「馬に乗った主人公が旅をしていく絵本なんです。どのページにも必ずどこかに主人公が描かれているんですよ……ほら、こことか。それを見つけるのが楽しいんです」
栞子さんが指を指しながら説明すると、篠川智恵子も口を開いた。
「文香は本を読まない子だったから、こういうものならいいと思ったのよ」
「うん。いいよこれ……昔は分かんなかったんだろうな。それどころじゃないし」
と、文香。
(『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと二つの顔〜』より引用)
一つの本を囲んで会話をしているだけで、不思議と穏やかな空気になっていくこのシーン。本が、本好きの母娘を惹きこんで関係を取り持っているように感じられます。
人を繋げるのに本が関係している……前述した、このシリーズのもっとも魅力的な要素が詰まっている4巻です。
5巻『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと繋がりの時〜』
「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズも折り返し地点となりました。この巻から少しずついろいろなことが片付いていきます。まず、大輔と栞子の関係、栞子と母親の関係が落ち着くことが一番大きなことでしょう。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2014-01-24
この巻で最も印象的な話は、1話の『彷書月刊』でしょう。『彷書月刊』は、本に関する様々な特集を組んでいる、いわば本について書かれた雑誌です。
話は大輔が聞いたある噂から始まります。最近、このあたりの古書店に『彷書月刊』を売っては、1、2週間で「やはり大事なので返してほしい」と再び買い取っていくというのだ。そして次の古書店に売りに行くという不可解な行動。
栞子は雑誌に書かれていた「新田」という文字や背表紙の社名の下に記された小さな黒丸、そして1巻から登場していたセトリ屋の志田と、彼と共に店に顔を出すようになった老人の言動から、この噂の真相を突き止めていくのでした。
この巻はどの章の物語でも、人々を繋ぐ本にまつわる深いエピソードが入り込んでいます。本の謎を解いているだけの単純なストーリーかと思いきや、本をめぐる人々の行動に時には感動し、時には背筋がヒヤリとすることもある、古書ミステリーの醍醐味を感じられる巻でしょう。