数奇な運命の因果『金色機械』
時は江戸。大遊廓の主人である熊悟朗は、人の悪意を見抜くことができる心眼の能力を持っています。
ある日、「自分を遊郭に売りたい」と、遥香という女が熊悟朗の元を訪れます。奉公に出たわけでも、売りに出されたわけでもなく、熊悟朗に会うために、自分を売りに来たという遥香。彼女もまた、思いのままに人の死を操れるという不思議な能力を持っていました。
「話を聞いてほしい」と遥香は熊悟朗に切り出したところから、複雑に結びついた二人の運命と、金色の機械との巡り合わせの物語が、幕を上げます。
- 著者
- 恒川 光太郎
- 出版日
- 2016-05-10
舞台は江戸ですが、「金色様」と呼ばれる、不思議な機械が存在し、SFファンタジーの要素もあります。
それぞれの章で中心となる人物が異なり、それぞれの目線でストーリーが展開していきます。バラバラに思える登場人物たちが、「金色様」を通して繋がりあっていく……。読み進めるごとに壮大な物語の全貌がどんどん明らかになるので、思わず没頭して読み進めてしまうことでしょう。
登場人物たちは、みな、一概に良い人とも悪い人とも言えません。絶対的な悪もなく、また反対に完璧な善も登場しないのですが、それぞれの生を、懸命に生きています。色濃く描き出される、人の冷たさ、怖さ、残虐さ。そしてそれを覆す慈愛の暖かさ。人の善悪はどのように決まるのでしょうか。
終盤、繰り返される金色様の言葉。
「テキモミカタモ、イズレハマジリアイ、ソノコラハムツミアイ、アラタナヨヲツクルデショウ」(『金色機械』から引用)
この小説の本質を語る言葉で、きっと読了後、深く記憶に残ることでしょう。激動の人生を歩む登場人物たちに心を奪われる作品です。
恐ろしいほどに美しい透明感が漂う恒川光太郎作品『草祭』
各作品に登場するのは、異世界の草原で獣になってしまった友人、集落の神様になった少年、動物に転生する薬を開発した男など……。「美奥」という名の美しい村にまつわる短編集です。
登場人物たちは、離婚やいじめ、虐待など、様々な問題を抱えています。彼らが現世のしがらみに倦み疲れてしまったとき、苔むした水路の奥や、家々の間の細い路地のつきあたりで、美奥への道がそっと開かれます。
生きるとは何か、死ぬとは何か。美しい輪廻と運命の導きを、静穏な文体で描いた作品です。
- 著者
- 恒川 光太郎
- 出版日
1つ1つのお話がとても美しく、読了後思わずため息をついてうっとりと余韻に浸ってしまうような短編集です。
見たことのない土地、美奥を想像すると、子どものころに戻ったような胸の高鳴りと、背筋がすっと冷えるような恐ろしさを同時に感じることでしょう。あまりにも描写が美しいので、迷い込んでしまうと分かっていても、「美奥に行ってみたい!」と思うこと間違いなし。この魔性の土地を作り上げてしまうのは、恒川光太郎ならではです。
物語に瑞々しい透明感と不思議な緊張感がずっと漂っていて、不思議とそれがとても心地よいのです。ふっと胸を駆け抜ける切なさはクセになってしまいそう。読んだ直後でも、思い返すとおぼろげに消えていきそうなほど繊細な物語たちは、きっと心に美しいまま留まり続けるでしょう。
恒川光太郎が描く、まさに現代風・創世記『スタープレイヤー』
くじ引きで1等賞を当てた、34歳で無職の女、斉藤夕月は訳も分からぬまま地球ではない惑星に飛ばされ、「スタープレイヤー」に選ばれたことを知らされます。
「スタープレイヤー」に選ばれたものは、多少のルールはあるものの、なんでも10個の願いが叶えられるという説明を聞いた夕月。それまでの生活で良いことがなかった彼女は、最初は自分の願いを叶え、それなりに満足するのですが、段々とその星の国家をまたぐ抗争に巻き込まれていき……。
- 著者
- 恒川 光太郎
- 出版日
- 2014-08-30
今回紹介した5つの作品の中では、一番ポップな雰囲気を出していますが、単なるファンタジーに終わらないところが恒川作品の凄み。
10個の願いは地球を出ても現実的で、人々の闇や欲望を織り交ぜ、時には心の深淵をのぞき込むようなシーンも登場します。しかし、『雷の季節の終わりに』や『金色機械』で登場するほどの、眩暈がするほどの狂気はないので、安心して物語に入り込むことができるでしょう。
物語の序盤、中盤、終盤で、願うものの大きさが個人単位から国家単位まで変わってきて、予想外のスケールの大きさにわくわくが止まりません!読者は必ず、「自分が夕月と同じ立場になったら、どのように10個の願いを叶えるだろう」と想像してしまうでしょう。少年少女にもおすすめの作品です。