スペインをギターと共に巡る『カディスの赤い星』
漆田亮が経営する会社の得意先である日野楽器では、ギター製作の名工であるラモスをスペインから呼び寄せていました。
そのラモスは漆田に、20年前スペインの自分のところを訪ねてきた日本人のギタリストを探してほしいと頼んできます。漆田は頼みに応え、その男を探すうちに大きな事件に巻き込まれていくのです。
1986年発表の直木賞を受賞した作品です。2007年には新装版が出版されました。過去にはテレビドラマ化もされた名作です。
- 著者
- 逢坂 剛
- 出版日
- 2007-02-10
ラモスが語った、20年前の自分を訪ねてきた日本人のギタリストについてのエピソードは、美しいものです。ただの人探しかと思われましたが、ラモスはパコという日本人青年の演奏を見て、真相を打ち明けてきます。
ラモスが本当に探していたのは、名工がこしらえたという赤いダイヤモンドがあしらわれたギターでした。そのギターの名前が、カディスの赤い星です。サントスという日本人のギタリストが、工房から持ち出したのです。
それと時を同じくして、ラモスがスペインから伴ってきた娘のフローラが、本国へ戻ることになります。日本の過激派と通じており、果ては公安に追いかけられるまでになったからです。
スペイン語も使える漆田は、フローラと共にスペインへ行くことになりました。奔走する漆田の姿と、漆田の目を通して見るスペインの情景に心躍ることでしょう。
作中に描写されている時代のスペインは、情勢的に安定した国ではないので、事件が次々と起こり、息をつく間を与えません。逢坂剛はスペインについて詳しいので、その描写を楽しむことができるでしょう。
30年を隔てて明らかにされる真実を読む『燃える地の果てに』
1965年、ホセリートと名乗る日本人の青年が幻のギター製作者を探して、スペインの小さな村であるパロマレスに滞在していました。とある晩、その村に米軍機が墜落し、核爆弾が行方不明になってしまいます。
その30年後の1995年、バーを経営する織部はその事件の当事者たちの消息を探るため、パロマレスへと向かいますが、村人は誰も語ろうとしません。彼らは何を隠しているのでしょうか。
1998年発表の、逢坂剛が愛するスペインとフラメンコとギターの魅力を詰め込んだミステリーです。
- 著者
- 逢坂 剛
- 出版日
1966年は、パロマレスを訪れたギタリストの日本人青年であるホセリートを中心にした物語です。米軍機墜落と同時に、核爆弾が行方不明になりました。
次々とアメリカ人、スペイン人、イギリス人、果てはソ連のスパイまでが登場します。その中で戦闘機の積荷の行方とスパイの正体について明かすために、多くの男たちの躍動が見られるのです。
その後、30年後の1996年にバーのオーナーである織部を中心に話が進んでいきます。彼が村を訪れる頃、1966年の事件に関わった人達の行方が全く分からなくなっています。彼らはどうなったのか、村人はそのことについて口を開こうとしません。
真相を探そうとする過程が、互い違いに編み込まれるように書かれて、物語は進んでいきます。最後に全ての謎が白日の下にさらされるのです。
登場人物が多く、男性も女性も魅力的なキャラクターたちばかりなので、読み応えがあります。そして1966年の米軍機墜落事故をモチーフに書かれた作品ということを考えると、ただの物語として消化する以上の読後感があるでしょう。
アメリカに渡ったサムライの軌跡を追う『果てしなき追跡』
1896年、箱館で亡くなったと思われていた土方歳三は、実は一命を取り留めていました。幼馴染の時枝ゆらの協力を得て、意識のないままアメリカ船に乗せられ密航します。
しかし土方は頭部を撃たれたためか、意識を取り戻した時には今までの記憶を全て失っていました。過去を失ったサムライはアメリカ西部に始まり、海へ大陸へと向かう壮大な旅へと足を踏み入れます。
2017年発表の歴史スペクタルの始まりの物語です。
- 著者
- 逢坂 剛
- 出版日
- 2017-01-17
土方歳三というキャッチ―な実在人物を使い、古きアメリカ西部における開拓時代の情景を描き出しています。
またその情景の中で、アメリカ人や少女の目線を通して、「刀を差すサムライとは何か」が余すところなく描写されています。ライフルや銃と対峙する際に武士道を貫くのです。
土方は幼馴染とアメリカへ密航する中で、船の中で記憶喪失になっていることに気付き、名前をも変えてしまいます。そのことで彼を彼たらしめる部分が消えたように感じるかもしれません。しかし心の根には、そのサムライ魂が刻まれていると分かります。
土方とゆらの2人がサンフランシスコを経て西部へと向かう中、連保保安官のティルマンがしつこく追いかけてきたり、インディアンとも交流を持ったりと、滅茶苦茶な展開の旅行記を読んでいるような感覚にもなるでしょう。
まだまだ彼らの旅は続きますが、土方歳三がどうアメリカという地に馴染んでいくのか、楽しみになります。また同じく逢坂剛作品の『アリゾナ無宿』や『逆襲の地平線』の前日譚としての物語でもあるので、併せて読んでみてはいかがでしょうか。