過去は一番新しい真実になりうる『世界は一冊の本』
長田弘の詩の特徴は、日本だけでなく世界に、そして宇宙に視線が向けられているところです。世界中を旅してあるき、外国と親しく触れ合った長田の独自の視点と言えるでしょう。
この詩集の表題作「世界は一冊の本」は、金八先生でも朗読され、どこかで聞いたことがある、という方もいるかもしれません。
「世界は一冊の本」には、次のような記述があります。
「本を読もう。
もっと本を読もう。
もっともっと本を読もう。
書かれた文字だけが本ではない。
日の光り、星の瞬き、鳥の声、
川の音だって、本なのだ。…」
(『世界は一冊の本』より引用)
世界のありとあらゆることから感じよう、学ぼう、という姿勢は若い人はもちろん、自戒として何歳になっても心にとめておきたいものです。
この詩に呼応するように、世界で起きる戦争や様々な詩人、芸術家などに着想を得た詩が多く収録されています。昆虫学者のファーブル、スペインのフランコ政権下で生きたファリャ、カザルス、ピカソなどの芸術家など。
今はもう語ることの無い人々をテーマにした詩の数々は、まさに、私たちが看過しがちなものを訴えかけてきます。
巻末には、この本に収録された詩のテーマとなった人々についての短文が、「おぼえがき」として収録されています。
- 著者
- 長田 弘
- 出版日
- 1994-05-30
巻末の「おぼえがき」の最後に、この本をまとめた長田の気持ちが凝縮されています。
「世界は一冊の本である。どんなに古い真実も、つねに一番新しい真実でありうる」
(『世界は一冊の本』より引用)
古いものたちの声に耳を傾け、今を生きる人々が自らの心に問うべき、という長田の思想が強く表された詩集です。
自分の心に問う「うつくしいもの」とは?『世界はうつくしいと』
長田が「寛ぎのときのための詩集」としている作品。
さまざまなものについての「~~の話をしよう」と、提案される詩のシリーズは、子どもの頃、眠る前に読まれた短い絵本を思わせるものです。
特に、表題作の「世界はうつくしいと」の「いつからだろう。ふと気がつくと、うつくしいということばを、ためらわず口にすることを、誰もしなくなった。」という、一節にはハッとさせられます。
そういえば、自分が素直に「うつくしい」と口に出して、言葉に書いてみたのはいつのことだったのか。読む人に問いかけてくる詩がたくさんあります。
長田の詩は、ひらがなが多くつかわれている、という特徴がありますが、この詩集は特にそうした詩がたくさん収録されています。
決して、読みにくいものではなく、読む者に柔らかい味わいを与えてくれる文字の使い方。つい、知っている漢字はすべて使いたくなってしまうものですが、それも、その人の選び方次第なのだと、教えてくれますよ。
- 著者
- 長田 弘
- 出版日
- 2009-04-24
長田からの「うつくしいもの」の提案に心が洗われていくと、自分の口からも新しい「うつくしいもの」が生まれてきそうな気になりますよね。
長田の提案は、自然によるもの、年月を感じさせるものなどが多いのですが、何に美しさを感じるかは自分次第。むしろ、そうだった、自分はこういう「うつくしいもの」が大好きだったんだ、と自分を見つめなおすきっかけとなるかもしれません。
たった二つの詩をクリムトの知られざる名画と味わう『詩ふたつ』
長田の「花を持って、会いにゆく」、「人生は森のなかの一日」の二つの詩を、クリムトの風景画を共に収録した詩集。
作家の落合恵子が、長田の2編の詩を見て、ぜひ、組み合わせたい!と企画した作品です。詩集とはいうものの、出版元が子どもの絵本の出版・販売を手掛けるクレヨンハウスであるためか、大人のための高級な"絵本"といった印象の本です。
亡くなった長田の妻、瑞枝にささげた二つの詩には、亡くなったものへの愛と尊敬、そして、残されたものの心が痛いほど表現されています。
「死ではなく、その人が
じぶんのなかにのこしていった
たしかな記憶を、わたしは信じる。」
(『詩ふたつ』より引用)
- 著者
- 長田 弘
- 出版日
- 2010-05-20
この詩集の中に紹介されているグスタフ・クリムトは『接吻』など、女性をが登場する作品が有名な画家ですが、今回登場するのは、彼の風景画です。
きわめて写実的、というわけではないのに、見る者に一瞬、写真であるような錯覚を与える独特の作風が、暖かい言葉で柔らかく表現しながらも、人の心に深い印象を残す長田弘の詩とよくマッチしています。