大佛次郎の遺作となった明治維新史『天皇の世紀』
『天皇の世紀』は今回ご紹介する文春文庫版で全12巻刊行された大佛次郎の超大作です。本作は1967年1月1日から1973年4月25日まで、約6年間にわたって朝日新聞朝刊で連載されました。彼は25日掲載分を「病気休載」と締めくくり、30日に逝去したため、これは未完のまま遺作となりました。
本作は後に明治天皇となる祐宮の誕生から戊辰戦争に至るまでの激動の時代を描いた大佛次郎の明治維新史です。膨大な歴史資料をあたって緻密に描かれた本作は歴史小説として大変評価が高く、テレビドラマ化も果たされ、多くの国民が明治維新について知る契機ともなりました。
- 著者
- 大佛 次郎
- 出版日
- 2010-01-08
物語は明治天皇の誕生からはじまり、ペリーの黒船来航に安政の大獄。さらに攘夷運動、その後の大政奉還と新政府樹立、そして勃発した戊辰戦争まで描かれます。歴史に親しみのない人にとってこのような歴史的事件やできごとは、「歴史の教科書に載っていて、テストのために丸暗記した」程度のものかもしれません。
文字になって教科書に載っているそれらは、日本人が過去に経験した出来事であることに間違いありません。しかし、それを理解することはできても、なんとなく実感が薄い。本作は、そう思っている人にとって、一読の価値がある作品でしょう。史実に忠実に描かれた大佛次郎の物語は、力を持って読者に迫ります。「日本にはこんなことがあった」と、思い知らされるような内容です。
1897年生まれの大佛次郎は、明治維新後の日本を生きた人です。連載を終えることなくこの世を去ってしまいましたが、彼はこの続きの物語、明治時代の歴史も描こうと思っていたのではないでしょうか。この作品は明治を知らない私たちのために彼が遺してくれた、史実を伝える物語だと思えてなりません。大佛次郎の心意気を感じる傑作です。ぜひ読んでみてください。
パリ・コミューンをモチーフにしたノンフィクション『パリ燃ゆ』
次にご紹介する大佛次郎の大作『パリ燃ゆ』は上でご紹介した2作とは全く雰囲気の異なる作品です。彼は大衆向けの時代小説で名を挙げましたが、その後史実をもとにしたノンフィクション作品も多数手掛け、高い評価を得ました。
題材となっているのは1871年の3月から5月にかけてフランスで起こった史上初めての労働者政府「パリ・コミューン」。本作はその成立に至る過程とヴェルサイユ軍による弾圧の様子を描いたドキュメンタリー作品です。
大佛次郎は当時の新聞や著作、人々の証言などを丹念に調べ上げ、執筆にあたりました。まるで実際に見てきたかのようにリアルな筆致で描かれる凄惨でいてドラマティックな物語は、読者に当時のパリの空気を追体験させるほどの迫力を持っています。
- 著者
- 大佛 次郎
- 出版日
- 2008-03-07
全3巻にわたる壮大な物語の序盤で描かれるのは、「パリ・コミューン」の約20年前。1851年の12月にナポレオン3世が起こしたクーデターの様子です。彼は見物に来ていた一般市民を国家に危機をもたらす内敵だと主張し、大量に殺傷しました。
その後このクーデターが王党派や財界に支持されたために多くの共和主義者が逮捕または追放されることとなり、後に『レ・ミゼラブル』などを書いたフランスの文豪、ヴィクトル・ユーゴーも労働者に変装し、ベルギーのブリュッセルに逃れます。
ここから、パリを舞台にコミューン成立までの長い過程が描かれていきます。歴史小説に難しいイメージを持たれる方は読むのをためらってしまうほどボリュームのある作品ではありますが、読んでみると大佛次郎の筆力によって各場面がリアルに想像でき、先へ先へとページをめくっていくことでしょう。
誰もが憧れる花の都パリ。その土地で起こった実際の出来事。フランスの歴史や政治、そして思想を学ぶことのできる素晴らしい1作です。興味のある方は、ぜひ読んでみてくださいね。
猫好きで有名な大佛次郎による傑作『スイッチョねこ』
最後にご紹介するのは偉大な時代小説家、大佛次郎が「私の一代の傑作」と評した著者お気に入りの童話『スイッチョねこ』です。大佛次郎の文に安泰が絵をつけ、かわいらしい絵本に仕上げてフレーベル館から出版されました。
著者は大の猫好きで、面倒を見てきた猫は野良猫を含めなんと500匹以上だそう。『猫のいる日々』という題のエッセイを刊行して猫への愛を語ったこともあるほどで、大佛次郎の猫好きは大変有名な話です。
- 著者
- 大佛 次郎
- 出版日
物語の主人公は白吉という名前がついた、小さな白ねこ。
「あんなにいい声をしている虫だもの、きっと、たべてうまいにちがいないなあ。」(『スイッチョねこ』より引用)
なんだか呑気な白吉は、虫が食べたくて食べたくて、ほかの子猫が家に帰っても、木の下に座って待っています。そのうち夜がふけて白吉は眠くなり、あくびをした瞬間でした。口の中に入ってきた虫を、飲み込んでしまったのです!
虫はお腹の中で「スーイッチョ!」と鳴きます。白吉が静かにしているほど、お腹の中で安心したスイッチョは鳴いてしまい、白吉は眠れなくなってしまいました。白吉とスイッチョは、どうなってしまうのでしょうか?
大佛次郎による、かわいらしい童話です。猫好きの方には特におすすめの1冊。子供から大人まで楽しめます。ぜひ手に取ってみてくださいね。