ミラン・クンデラ初の長編小説『冗談』
共産党員の青年ルドヴィークは、あるとき冗談のつもりで、楽観主義は人民の阿片だ、トロツキー万歳、などと書いた絵葉書を仲間の党員に送りました。しかし誰一人として冗談とは受け取らず、抗弁も空しく党を追放されてしまいます。学業継続の権利を失い、兵役招集がかかるまでの間、勤労奉仕として鉱山で過酷な生活を強いられることに。
学業、革命運動への参加、仕事、友情、愛情、すべてが断たれてしまったルドヴィーク。数年後、当時自分を告発した張本人であるゼマーネクに復讐すべく、その妻ヘレナに近づきます。
- 著者
- ミラン・クンデラ
- 出版日
- 2014-12-17
それまで詩や短編を書いていたクンデラが、1967年、38歳のとき初めて書いた長編小説です。実際にクンデラ自身も、21歳のときに共産党から除名処分を受けた経験があります。
政治的思想や理念がベースにあり、当時の風潮の中ではもっぱらイデオロギー小説と受け止められてしまいましたが、それを差し置いて読んでも、幅広い立場の読者がいまも感情移入できる、普遍的な物語でもあります。
主人公が章ごとにたびたび入れ替わりながら、登場人物たちそれぞれが持つトラウマと対峙していきます。男女の愛憎も絡みながら、過去にとらわれる者、過去から逃避しようとする者の様子は、誰しも持つであろう経験のしがらみとの付き合い方のヒントが示唆されているようです。
一気に読ませるストーリー『別れのワルツ』
不妊に効能があるとして年に1万人が訪れる人気の温泉地。
トランぺット奏者のクリーマは、以前でこの町を訪れた際の浮気相手だった、現地で働く看護師ルージェナから、妊娠したという電話を受けうろたえます。湯治客のバートレフは道徳的人物で、責任を取るべきではと提案します。
一方、不当に投獄された過去をもつヤクブは、死んだ友人の娘オルガの後見人であり、彼女が賢く立派に成長したいま、亡命を計画しています。別れを告げに友人である婦人科医スクレタのもとを訪れました。ヤクブは、人生を主体的に生きたいという思いから、スクレタから毒薬を貰い受け携帯していました。
5日のうちに、彼らの運命は思いがけず交錯していきます。
- 著者
- ミラン クンデラ
- 出版日
- 2013-12-13
正統派ともいえる書きぶりで進行していき、凝った体裁を取るクンデラの著作のなかではとりわけ読みやすい構成で、次々と展開しスリリングで一気に読める作品です。
妊娠に始まり、中絶について考え、死を覚悟して毎日を生きる男や、愛と命について高い倫理観を持つ男、逆に正義や良識を全く持ち合わせない男らの思いが、何度もすれ違い、また思いがけず交錯する群像劇で、読者は生と死について考えさせられることになります。
重いテーマを持つ話ですが、登場人物一人ひとりが実に魅力的に描かれています。与えられた境遇で、尚も精一杯生きようとする姿勢が、滑稽さすら伴いながら、それぞれの結論に導きます。
自伝的要素の濃い『生は彼方に』
第二次世界大戦後、混乱期にあるチェコスロバキア。
ヤロミールは、幼い頃から絵を描いたり詩を書いたりと芸術的センスに恵まれ、感受性豊かな少年でした。
母親は依存気味なほど過保護で、一人息子に執着し干渉しています。そのせいでヤロミールは学校で虐められるなど生きづらさを感じてきましたが、母を深く愛してもおり、どう逃れていいのか分からないままです。
青年になったヤロミールは、友人たちの影響を受けて共産党員となりました。熱心に詩作や革命運動に励みますが、目先の名声や女性を追いかけていて、結果が出せません。
- 著者
- ミラン クンデラ
- 出版日
主人公はミラン・クンデラとかなり近い境遇で、クンデラの著作の中でも最も自己を語っている作品だと考えられています。
幼いヤロミールが、少年期、青年期と自己認識や性の目覚めなどを経て、詩をはじめ表現することと向き合っていく存在意義を見出そうとする様子は、成長物語のようでもあります。またヤロミールがずっと、耐えがたい孤独を抱えていることが伝わります。
母親の結婚するときからヤロミールの成長を見守る出来事も詳細に語られ、こちらの物語も興味深く読めるでしょう。母もまた自分を見出すことに必死だったのです。ユーモアもありながら不条理な雰囲気も漂い、あっけないラストにはかえって人生のリアリティがあります。