鉛筆画から伝わる思い、切なさと愛おしさで胸がいっぱいになる作品
ベルギー人絵本作家、ガブリエル・バンサンが描く鉛筆デッサンによる作品です。
主人公は車から投げ捨てられ、野良犬となった一匹の犬。飼い主から捨てられたにも関わらず懸命に車を追う健気な姿に、冒頭から切なさがこみ上げてきます。やがて車は見えなくなり、途方に暮れ項垂れる犬の哀愁漂う姿。犬はそれでも匂いを辿って飼い主の元に向かおうとします。
そして、犬が飛び出したことにより起きてしまった自動車事故。後ろ髪惹かれる様に振り返りながら去っていく犬。切なそうに遠吠えをする姿や、何もない只々広い土地で佇む後姿。その全てが哀しさにあふれ、そばに行って抱きしめてあげたくなります。
そして、ラストで訪れる幸せな瞬間。この時を迎える為に、切なさを乗り越えてきたのではないかと思えるほど、犬の嬉しさが伝わって来て幸せな気持ちにしてくれますよ。
- 著者
- ガブリエル バンサン
- 出版日
線の一本一本が生き生きと描かれ、鉛筆のみで描かれたとは思えないほどの躍動感と迫力にあふれています。まるで絵本の中から飛び出して来るのではないかと思えるほど。
そして、犬のデッサンからひしひしと伝わってくる捨てられてもなお飼い主を思う気持ち、そして思いが届かないと気付いた時の切ない思い。その全てが、表情の違いや犬の動きのみで表されています。こちらをふと振り返った時に読者に訴えかけるようにじっと見つめる姿は、心にずしんと響きます。
しかし、そんな困難を乗り越え、最後に描かれている幸せそうな様子。この姿がきっと犬の本当の姿なのでしょうね。
一つひとつの絵をじっくりと見つめ、犬の気持ちに思いを馳せながら読みたい名作です。
少女と波との交流、五感が刺激される絵本
韓国人絵本作家スージー・リーが描く、波の美しさや面白さ、そして少女との交流が青と黒という2つの色のみで表現された作品です。
ある日、お母さんと一緒に海にやって来た女の子。初めは恐る恐る波に近づいてみます。そのうちに波が近くまで来ないと知ると、両手をあげて立ち向かってみたり、近くで眺めてみたり。ついには波に入って思い切りはしゃぐように。すると波は突然女の子に向かってきます。そして波に飲まれてびしょ濡れになる女の子。
でも大波の後には、素敵なプレゼントを残してくれたようですよ。
波が静かに揺れる様子、しぶきをあげるキラキラとした様子、渦巻いて女の子に迫るくる様子。そのどれもがダイナミックに、そして繊細に描かれ波の音までもが聞こえて来るようです。
- 著者
- スージー・リー
- 出版日
- 2009-07-17
左のページには女の子とカモメが白黒で描かれ、右にページには波が濃淡をつけた青い絵具で表現されています。
途中までは、波は女の子とカモメがいる左側のページには入ってきません。その境界線をなくすのは女の子。自分から波に足を踏み入れ、色のある世界に飛び込みます。描かれているカモメも、右のページに入った瞬間い薄い青色で羽が描かれ、色のある海の世界に踏み込んだことが分かります。こんな、細かい描写にも作者のこだわりを感じますね。
文字は一切描かれていませんが、だからこそ女の子のはしゃぐ声や海の香りまで感じさせてくれる、五感が刺激される一冊です。
女の子の冒険と成長の物語
アメリカ人作家アーロン・ベッカーが描く、美しく幻想的な世界と女の子の冒険を描いたワクワクする物語です。
主人公は、家族に構ってもらえずモノクロの世界で生きる女の子。ある日、一本の赤いマーカーを見つけます。モノクロの家にマーカーで扉を描くと、その扉は本物に。外の世界はなんとも幻想的で美しさにあふれた森でした。ここから女の子の冒険が始まります。
マーカーで船を創りお城に来た女の子。水路が途切れて落ちてしまうかと思いきや気球を創り、悠々と空の旅へと出発します。そこで出会った捕らえられた紫色の鳥。女の子は鳥を逃がしてあげた代わりに捕まってしまいます。赤いマーカーも落としてしまいもはやここまでと落ち込んでいると、なんと鳥がマーカーを拾ってくれたのです。空飛ぶじゅうたんを描き鳥と共に夜空に飛び出します。
そしてたどり着いた、小さな紫色の扉。その扉をくぐり女の子を待っていた世界とは……。
- 著者
- アーロン・ベッカー
- 出版日
- 2013-11-29
細部まで綿密に描かれ幻想的な色彩で彩った絵の数々は、その全てを飾っておきたくなるくらい美しさであふれています。特に水の透き通るような美しさや、夕焼けの情景は心に沁みわたり思わずため息が出るほどです。
一人の平凡な女の子が、赤いマーカーという魔法を手に入れたことで冒険の世界へと踏み出すというファンタジー要素の強いこの作品。子ども達はきっと、自分に置き換えながらワクワクした気持ちで読み進めることでしょう。そして、自分で考え困難を乗り越えながら成長していく姿は気持ちが良く、読んでいて明るい気持ちになりますよ。
ラストで、本当に欲しかったものを見つけた女の子。きっと大切なものはすぐそばにあるのかもしれませんね。